【Ⅳ】   しこり

 ヨーダからワグレまで、真北へ丸一日かかる距離がある。通るのは湿原で足場が悪いところがあるようだ。


「北へ行かれるの? 夜は冷えるわ。これでよかったら持って行って」


 見送りのとき、男の子の母親が人数分の外套を渡してくれた。上質な布だ。ヨーダは織物で有名な町らしいが、黒獣が横行するせいで交易が途絶えがちになった今、衣類は余っているのだそうだ。


「一両日中に、支部の小部隊がここへ来るはずです。食糧難のことを伝えてください。中央のことはこっちで何とかしますから」


 セトがそう伝えたのを礼に代え、ランテたちは門へ向かった。途中町人たちにありがとうございますと口々に感謝されながら、四人揃って北門を出る。晴れた空は、目に染みるような青色だ。幸先がいい。






「ワグレは東が海、西と南は湿原。唯一身を隠せながら進めるのは林のある北からになるが、かなりの迂回が必要になる」


 出発前、皆で作戦会議を開いた。羊皮紙に略地図を描きながら、セトが他三人の意見を募る。


「早くても四日はかかる北からか、一日で行ける南からか。北へ行くほど寒くなるし、歩くほど黒獣と出くわすことを考えたら南からと言いたいところだが、その分中央軍に見つかりやすい。どう思う?」


「時間はかかっても、僕は北からの方がいいと思うな。すごく急ぐというわけでもないし、安全策を採るべきじゃない?」


 テイトは人差し指で、ヨーダから西側へ大きく弧を描いてワグレの北側へ回り込み、林を通って至る道筋を指した。だいぶ歩く。ユウラが垂れた横髪を耳にかけ、その手を延ばした。


「でもそっちのルートなら、黒獣の多いシーリナ湿原とレネの林をこんなに抜けなくちゃならない。林では雪に降られるかもしれないわ。そうまでしても見つからないって保証はない。共に中央軍との交戦が考えられるんだから、体力を温存できる道の方がいいと思うけど」


 ヨーダから北へ一直線に進めば、つまりワグレの南側から入る道を選べば、確かに近い。一日以上は違う。できれば真っ直ぐ進みたい。ふと思い当たって、ランテは顔を上げた。


「昨日の人たちのふりをして、南から行くっていうのは?」


 三人分の視線が一挙に集まる。


「あの荷運びの人たち、ちょうど四人だった。荷車に適当に空き箱とか空き樽積んで、いかにもヨーダから食糧運んできましたって風に装って、堂々と正面から行ったりはできない?」


「隠れて行くことばかり考えてたけど……そうね、それもいいかもしれない」


 しばしの沈黙を経て、最初にユウラが賛同した。テイトが続く。


「ありだと思う。ただ、バレたときが厄介だね。あっちは約一千で、こっちは四人。囲まれてしまったら逃げることも難しくなる」


「昨日来たの、四人とも白軍だったのか?」


 セトの質問には、ランテが答えた。


「白軍は一人だった。残り三人はたぶん雇われだろうってテイトが」


「一人か……」


 聞いて、難しい顔をする。ランテが首を傾げると補足してくれた。


「誓う者はどの地点にいて、中央軍はどういう配置になってて、どれくらいの強さで……そういう情報が今、一切ない。何人か、もしくは全員で潜り込んで何か聞き出せるならって思ったんだけどさ。バレたらそこは敵陣のど真ん中、一人じゃ厳しい」


 ルルファ家の二人組から、もうちょっと何か聞き出しとくべきだったなと付け加えて、「それに」とセトはさらに続ける。


「もしかしたら、オレは、顔覚えられてるかもしれない」


「誰に?」


「モナーダ上級司令官の隊に、激戦区で何回か加わったことがある。一番最近でも二年前だから……どうだろうな。証持ちも多かったから、そんなに大勢に知られてるわけじゃないと思うけど。ただ、上級司令官には確実に覚えられてる。去年も総会で会った」


「なら、潜り込むとしたらセトは外さないとってことだね」


「兵の中にどれだけ証持ちがいるかにもよる。大半がそっちなら、なんとかなるけど」


「どう思う?」


「二年前のまま編成が変わってないとしたら、八割は証持ち、残りは呪使いと指揮役が半々ってところか。中央軍にしては優秀な戦士と指揮官が多かった。上級司令官自体も、かなりできる呪使いで知将……だった。少なくとも、そのときまでは」


「クレイド聖者の方は?」


「総会で遠目に見たことがあるくらいで、ほぼ初対面だ」


 セトとテイトの会話を聞きながらランテは頭を働かせていたが、大半が不確定要素だ、どうにもできない。ある程度は出たとこ勝負でいかなければならない気がする。ユウラも同意見だ。


「とにかくまずはどうやって行くかでしょ? 行ってからのことを考えたって、ほとんど何も分かってないんだから意味はないわ。北からか、南からか。二択よ」


 皆で再度地図に注目する。考えつつ、テイトが答えた。


「南から、だろうね。ランテの案に賛成。堂々と近づいても不審がられないなら、それが一番だよ」


 昨日捕まえた人たちから話を聞いておけば、バレないで済むように動けるしとさらに言い添える。誰も異論はないらしい。セトがまとめる。


「南からで決定だな。昼前には出よう。話を聞き出すのは、お前に任せても?」


 テイトが頷いた。なるほど、適役だろう。あの三人もテイトには逆らおうと思うまい。


 実際、テイトはかなり有用な情報を聞き出してきた。荷運び役の彼らはワグレのすぐ南東、防壁沿いに建てられた宿舎の敷地内倉庫まで荷物を運び入れること。敷地の門には証持ちの見張りが数名いること。倉庫に入れるのは一人で残り二人は馬を厩に返し、付き添いの白軍は宿舎に戻ること、帰りに雇われは一人につき金貨三枚の報酬を受け取ること、そしてそれらすべての対応は証持ちではない二人の白軍がすること。また、兵のほとんどはワグレの警備にあたっていて、宿舎敷地内は手薄であることも。


「よくそこまで聞き出したな」


 テイトの報告を聞き終えて、セトが感心した。荷車を馬二頭に曳かせながら北へ北へ進んでいく。木々が減り、背の低い草が増えてきた。心なしか肌寒い。湿原に近づいているのだろう。


「特別、僕は何もしてないよ。聞いたら全部教えてくれたんだ」


 微笑むテイトは、ただ尋ねるだけで脅しの効果が含まれるのを自覚しているのかいないのか。聞かれる側はさぞや恐ろしかっただろう。ランテは被害者三人に同情したくなった。


「ああ、そう言えばランテ。昨日、光呪は全部覚えられた?」


 向けられた視線に、思わずぎくりとする。鋭くもなんともないのだが、非常に緊張した。しどろもどろながらも、ランテはどうにか答える。


「あ、うん、下級まではなんとか」


「下級まで?」


 にこやかな顔が逆に怖い。


「中級も……少しだけ」


「昨日、僕、なんて言ったっけ?」


 笑顔なのに、威圧だと感じる。恐ろしい。セトが笑った。


「光呪を一日で全部って、相変わらずだな。下級だけでもすごい数だろ?」


「うん、きつかった」


「ランテには中級まででいいって言ったから、ちょっと手加減したんだよ」


「あたしなんて炎、水、雷、闇の下級呪、全部一日で覚えさせられたのよ」


「ああ、ごめん、ユウラにはちょっとやりすぎたかなって思ってる」


「やりすぎどころか。本当はあたしを殺す気なんじゃって思ったわ」


「でも、呪を覚えるのはすごく大事なんだ。だよね、セト」


「まあ、それは否定しないけどさ」


「そういうことだから、ランテ、今日中に最後まで覚えて」


 それからランテは羊皮紙を広げながら歩く羽目になり、草やぬかるみに足をとられて何度も転ぶことになった。






 日が沈みきってもしばらく南進を続け、月がかなり高くなってからようやく足を止めることになった。小高い場所に荷車を止め、積んでいた空の木箱をひとつ壊して薪にし、暖を取る。それにしても冷える。外套が非常にありがたい。


 黒獣とは二回、遭遇した。どちらも小型で大して強くはなかった。光呪使いがいれば遭遇の確率は極端に低くなるらしく、テイト曰く「ランテのお陰」なのだそうだ。


 夕食にパンを食べながら、会話に興じる。何でもない話でも楽しかった。今日はみんながこれまでにしてきた仕事のことが主で、風呪を覚えたてのときのセトが、黒獣と交戦の際木の上に一時避難して鴉に襲われたという笑い話や、初めて指揮を執った任務で捕まえた窃盗犯にユウラが惚れられたときの苦労話、女性隊員の不足を補うために無理やり駆り出されたテイトについての支部内鉄板ネタなど、どの話もランテにとってはとても興味深く、面白く聞けた。


「そういえば、みんなは何で白軍に入ったの?」


 ふと思い立って聞いてみる。三人は少しの間他の二人の動向を見守い合って、結果一番最初に応じたのは、セトだった。


「オレは、支部長とノタナさんに拾われたのがきっかけでさ。最初は宿で働いてたけど、色々あって結局支部に落ち着いた感じだな。ノタナさんには大分反対されたけど」


「だって十二のときでしょ? 一般的に見たら早すぎるもの」


「十二!?」


 ユウラの補足に驚いて声を上げてしまった。セトは、こんなに危ない仕事をネーテと同じくらいの年からやっていたのか。


「最初の半年は、仕事らしい仕事はしてないけどな。癒し手として働きながら、剣術や風呪を鍛えてもらった。それから七年くらいやってるけど、性に合ってるとは思う。休む時間も惜しくなるくらい仕事は楽しくて」


「仕事中毒なのよ、セトは。あたしもこの仕事は好きだし、北支部は環境にも恵まれてるとは思うけど、限度があるでしょ」


 仕事が好きだというのは、ランテにも何か分かるような気がする。ランテはまだ白軍入りして数日で、多くは分からない状態ではあるが、この三人といるときはもちろんのこと、門警備をしているときの兵たちの温かい雰囲気や、支部での不自由ない生活——何も不満はない。任務は緊張するが、人のためになっていると思うと嬉しいし、少しずつ自分が成長していっていることも感じられる。確かに、楽しい、かもしれない。


「あたしは、妹が攫われた後にセトに拾われたのよね。後の流れはセトと大体同じ。ノタナさんの宿で働かせてもらっていたけど、白軍の仕事に興味もあったのよ。一度東に行ってフィレネ副長とその先生に鍛えてもらってから、北支部入りしたわ。東にも誘われたけど……あたしの故郷は北の管轄内にあるしね」


「槍を持って支部に来たときには驚いたな。試しに手合わせしたときにはもっと驚いた。ユウラは入隊当初から、実戦部隊——遠征任務を担当する精鋭の部隊のことだけど、そこででも十分やっていけるくらいの力があったんだよ。支部長もありがたがってた」


「まだまだよ。いつかあんたから一本取るくらいに強くなってみせるから」


「楽しみだ」


 入隊する前に、ユウラはおそらくたくさん訓練を積んだのだろう。戦闘中に混乱するようなことをなくすためにも、ランテとて励まなければならない。最後に、テイトが口を開いた。


「僕はセトたちの黒獣の討伐を手伝ったときに、縁があって。僕は呪をもっと実践的に使いたいと思っていたし、支部は呪を専門にする教官を欲していたしで、お互いの利益が一致したからってことになるかな。楽しくやらせてもらってるよ」


「あんた、人に呪教えるときは本当に活き活きしてるわよね。怖いくらいだわ」


「うん、怖い」


 ついユウラに便乗すると、テイトが不思議そうな顔で見つめて来た。


「そんなに? 全然自覚ないんだけどな」


「教えるときだけじゃなくて、訓練でもだけどな。テイトは笑って人を火炙りとか氷づけとかにしてくるから」


「そこまでするのはセトのときだけだよ。楽しくなっちゃって、つい」


 きっとテイトは、呪のことになるとやや熱中しすぎる傾向にあるのだろう。ランテも呪を扱うことが上手くなったら、セトのような目に遭うのだろうか。上手くなりたいが、怖いような気もした。


 全員の食事が終わって少し経つまで会話は続いたが、明日も朝早くから動かなければならないので、見張りを立てながら休むことになった。


「見張りは二人ずつ。夜半過ぎに交代な」


 最初に見張りを買ってでたセトに続いて、ランテも見張りを希望した。中級光呪も残すところ五分の一、今日中に覚えきってしまいたかった。






 夜風に草がそよぐ音、木が燃える微かな音、そして時折薪がくべられる音。それ以外の音はなく、とても静かだった。集中できたのだろう、それほど長い時間は取らずに最後まで暗記が済んだ。久しぶりに顔を上げると、セトと目が合った。


「終わったのか?」


「たった今」


「お疲れ」


 労いの言葉に軽く礼を返す。ずっと俯いていたからか、首が凝った。回すと、骨が鳴った。


「明日は、残りの属性の下級呪全部覚えろだろうな」


 セトは笑っているが、こちらにとっては笑いごとではない。青ざめるといっそう笑われた。


「他は光呪ほどの数じゃないから何とかなる。丸一日あればいけるって」


「でもびっくりした。テイトって結構厳しいんだ」


「支部では有名だけどな? それでも、支部長に比べれば大分優しいさ」


「支部長はもっと厳しい?」


「それはもう」


 炎を見つめる瞳が、ふっと懐かしくなる。


「セトは、支部長に?」


「ああ。剣と、風の方の呪は支部長に教わった。支部長は風呪を使わないけど、どの属性も基本的な使い方は同じだからな」


「癒しの呪は?」


「……そっちは」


 妙な間があった。


「先天的に使えたから、特に誰かに教えてもらったりはしてない。本だけ何冊か読んだけど。基本は癒しの呪も属性呪と変わらないから、そっちの練習をしていたら自然と上手くなったのもある」


「そう言えば、テイトが言ってた。契約しなくても、呪を使える人がいるって。セトの癒しの呪と、オレの光呪はたぶんそっちだって」


「オレの場合は遺伝だから、そう特別ってわけじゃない。お前は特別だろうけど」


 遺伝? そう聞こうとして、セトの目が陰っていたのに気づく。踏み込むべきではないだろう。質問を変えた。


「特別って、何が?」


「契約でも遺伝でもない、別の何か」


 長い間心のどこかで気にかかっていたことを、今、ランテは聞いてみることにした。直前に声を出すのを躊躇ったのは、少し緊張したからだろう。


「確か、最初に会ったとき、セトに言われたんだけど」


 視線を受ける。もう一度躊躇した。だが、ここまで言ってしまったら最後まで言わざるを得ない。決めて、口を開く。


「『お前は何か大きな鍵を握ってるような気がする』って。ずっと気になってたんだ。あれ、どういう意味?」


 セトは再び目を焚火に戻すと、読み取りにくい、ほんの微かな笑みを浮かべた。意味深で曖昧な微笑だ。そのまましばらく何も言わない。適切な言葉を探しているようにも、果たして言っていいものかと悩んでいるようにも見えた。薪が音を立てては燃えていく。煙の中に、火の粉が舞い上がった。


「勘でしかない……し、オレが何か言えば、お前に妙な先入観を与えてしまいかねない。やっぱり自力で思い出すのが一番さ、ランテ」


「館の中で、『黒の使徒でしょ』って言われたんだ。もしそうなら、オレはセトたちの敵ってことになる。光呪だって、白女神は中央にいる。オレはもしかしたら中央軍なのかもしれない。だとしたら、やっぱりセトたちの敵だ」


「敵だと思ったら、仲間に引き入れようとは思わない」


「うん、それはよく分かる。会ってからまだ数日しか経ってないのに、みんなオレを信頼してくれるし、助けてもくれる。本当に良くしてもらってる。だけど、いや、だから不安で。いつかみんなに迷惑をかけてしまわないかが」


「取り越し苦労ってやつだな。心配しなくても、そんなことにはならない」


「それも勘?」


「それなりに根拠はある」


 これ以上は、何も教えてはくれないだろう。諦める。セトの言うとおり、自分で思い出すのが一番なのか。


「確証があるなら、教えてやれるんだけどな。お前には結構借り作ってるし」


「借り?」


「上級司令官の一件と、それから大聖者のとき」


「それならオレだって」


「借りついでに、もうひとつだけ、お前に頼んでおきたいことがある」


 横になっている二人を見遣ってから、セトは今一度声を落とした。また薪が鳴って、火が散った。


「もし……何かあったら、あの二人のこと」


 それ以上先を、彼は言わなかった。言わずとも知れた。だからこそ、ランテは聞いた。


「どういう意味?」


「そのままの意味」


 笑んではいたが、目は本気だった。


「何でそんなこと」


「大して意味があるわけじゃない。予防線みたいなものだ」


 ランテの目前に蘇ったのは、大聖者と対峙したときの光景だった。セトが一人残って、ランテを退避させたあの瞬間の。また、ああいうことをするつもりで? 同時に、昨日のルノアとの会話を思い出した。


 ——だから、一人だけ犠牲になればいい?


 どうして誰も彼も。


「別に、進んでそうなろうって思ってるわけじゃない。ただ、中央と戦うなら……オレの場合、いつそうなってもおかしくないわけで」


 遠回しすぎて何も分からない。まるでルノアの言葉みたいだ。


「どういうこと? セトの場合って?」


 爆ぜる炎を見つめる双眸は、凪いだ水面のように静かだった。あまりに穏やかで、凍っているのではないかとすら思わせる。ゆるりと吹き付けた夜風に、鳥肌が立った。ここは焚火のすぐ傍、寒いはずはないのに。


「……“死ぬ”じゃないんだ」


 瞳がさらに冷える。発せられたのは音だけの声だった。同じ音を、聞いたことがある。まだ会って間もないときの。


 ——じゃなきゃ、先になんて、進めない。


 ここだけ妙に浮くようだったから、覚えている。確かこうも言っていた。


 ——自分がつかめないって、怖いよな。気持ちは分かるが——


 気持ちは分かるが。自分に戸惑うランテに対して、分かる、セトはそう言った。でも、いったい、どういう意味で? セトも、自分をつかみかねたことがあるのだろうか。それに対して、恐怖を覚えたことがあるのか。なぜ?


「セト、分からない」


「そっちの方が助かるよ。ちょっと喋りすぎた」


 じわりと滲んだ苦笑は、もうセトらしい表情だった。勢いの衰え始めた火に、新しい薪がくべられる。わずかな音だったが、それでユウラが身じろいだ。やがて起き上がった彼女が月を見上げる。一番高いところを過ぎて傾いていた。


「交代ね」


 寝起きとは思えない、しゃんとした口調だ。傍でユウラが動いたのに気付いて、テイトも目を覚ます。二人とも眠りが浅い。


「代わるわ。早く寝なさい。日の出までそんなに時間ないわよ」


 ユウラに急かされるが、今、ちゃんと聞いておかなければ機会を逃してしまう。


「セト、さっきのどういう——」


「寝坊するなよ、ランテ」


 あっさりとかわされてしまった。食い下がりたかったが、答えてくれないのは安易に予想できた。黙って、横になる。疑問と不穏な予感とが胸にしこりとして残ったが、ランテにはそうすることしかできなかった。

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