Quanji-47:昇天デスネー(あるいは、天上吹き上がれ/思考烈火パーパーソン)
♢
<ネコォーブラー♪ リビミブゥー♪>
いきなりだけど何でか無節操に巨大化した猫神のアンニュイかつ伸びやかな歌声と共に放たれる目・口・手指からの開き直ったかのような投げやりの青白光線の連続無作為放射に晒されて、とりあえず僕は仲間たちの回収へと走っている。いや飛んでいる。
押し寄せて来た
数歩近づけば触れられる距離で佇んでいたダリヤさんの細く柔らかな腰を問答無用で左脇に抱えるようにして掻っ攫いつつ、身体に纏わせた<鼎>の力を発動させ、低空滑空を始めると共に一回ぐりと翻ってひとまずその砲台と化したでかぶつから距離を稼ぎ取る。
「ちょっ……ど、どこ触ってんのよぅんんんんーぅっ」
掬い上げるようにして横に抱き上げたその華奢ながら出るべきところはしっかり出ていてなお「弾」と「柔」が高次で共存しているという至高の物体からはこちらの意識を軽く刈り取ってこんばかりの芳香が漂ってきていて、至近距離でそれを鼻腔以奥に送り込んでしまった僕の自我はほろほろと崩れ落ちていくかのような感覚を味わうのであり。
<ネコォーブラー♪ ミシュギュトゥウー♪>
融合しているカナエちゃんに橙色紳士戦の時のようにまた回避を全振りでお願いしつつ、僕は海沿いのリゾート然としたのどかな景観を簾のように小刻みに裁断してくるかのような「光線」の雨の中を仲間回収のためにカッ飛んでいく。
もう何となく「世界のタガ」みたいなのが弾け飛んだかのような実感は受け取っていた。ならばもうこちらも全力で戦いシメるほかは無い……よね? この「世界」がどうなってしまうかは分からない。元いた世界に帰れるかも分からない。でもここに来て得た、得がたい仲間たちは、絶対に守り助けるべきだと、全・僕が身体の内で叫んでいるから。
「おおおおおおおおおおッ!!」
らしからぬ腹からの雄叫びが、全身に問答無用の力を与え
<ネコォーブラー♪ オリュフメモ、アーターユー♪>
あとひとり。軽薄浅薄を装いつつも、いつだって未知のものに先陣切ってぶつかり噛みついていってくれる……実は結構な「勇者体質」なのでは……とか考えさせられつつもいやぁまあそんなことは無いか!! でもやっぱり得がたい仲間、タカアリ氏をしょ、しょうが無いから助け上げてあげるんだからねっ。
何かの属性が乗り移ったかのような、それでも意味不明な力に漲る僕が、戦いの初めからの位置関係を思い出しつつ、その骨ばったひょろ長い体躯を上空より見つけ当て、そこに向かって急降下していく……全員救出完了。そこで意識が少し緩んでしまった、のかも知れない。その、
刹那、だった……
「!!」
避けようとした、その光線の軌道というか「面積」がいきなり眼前で増大した。まずい、と思った瞬間には、僕の身体から剥がれるようにして<鼎>のパーツのいくつかが、青銅色の残像だけを置き去りにしてその青白い光を、まだその能力を知らなかった時にも自分の意思とは関係なく僕を守ってくれたように精一杯に展開して覆い塞がってくれていたのだけれど。
「……カナエちゃんッ!!」
僕の網膜には、幻影のように現れていた妖精ちゃんの振り向いたわざとらしいほど無邪気な感じの笑顔が、無慈悲な光に飲み込まれひしゃげていくサマが焼き付いたまま。
「……!!」
残滓奔流に身を捻じられるかのようにして僕らも遥か上空へと巻き上げられてしまい。浮遊感を全身が受け止めた辺りでもう意識は断たれ薄
……れてはいかなかったわけで。いや、いくわけには、いかなかったわけで。
こんなところで、こうまでされてオチてる場合じゃない。でもあれ? 意識ははっきりしとるはずなのに、視界はぼんやりだ……そして<鼎>の力を失ったはずなのに空間にぽっかり浮かんでいるような感覚……何だろうこれ……周りは「白い闇」みたいな大空間……巨大化した猫神の姿もそこから吐き出されていた光線も何もなく……さらには耳栓を念入りに詰め込んだ時のような押さえつけられたかのような静寂……
―ニュート。私を選んでくれて、本当にありがとう。
その中を染みわたるようにして聴こえてきたのは、いつかの歌うような悪戯っぽさも含んだ、声。
―使い勝手すんごく悪かったと思うけど、少しは役に立てたかな。
そうだキミは「
僕は、無意識下で、その辛い記憶たちと共に封じ忘れようとしていた心温まる何かを、忘れてはいけない思い出を、置き去りにしていたのかも知れない……と、
「……ニュート、私はもう多分、消えてしまうから」
突然、目の前に現れたのは、等身大の、カナエちゃん……いや、小麦色に日焼けした奏恵ちゃん……? それも僕と同じくらいの年齢まで成長した、すごい活発そうで可愛らしい姿で、さらには弾けそうな素肌を全部一糸纏わぬままで、僕の瞳を覗き込んできながら、柔らかい笑みを浮かべている……ッ!!
脳が、灼き切れそうになりながらも、僕はその光放つかのようなシルエットから、目も思考も離すことは出来ない。
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