Quanji-43:衝撃デスネー(あるいは、狂い裂いて/引き咲いて/千里踏襲)

 眼鏡カマセ先制攻撃カマセ噛ませ犬カマセ以上の犬死カマセ感を醸しつつ、あっけなく防がれていく……


 月人やろうの能力の……実体が掴めない。<月>自体は大したことないって、ニュ……えーと丹生人ちんまいは言ってたけど、それとは別の『聖★漢字セカンヅ』を「四肢に宿している」とかのたまってたよな……


 四肢。四つってことか? それって……


 ちんまいに何か分かったかと脳内ツイターにて問うたけど、「NO」の二文字だけが空しく返り反響してきただけだった……この私の、役に立たんとは……ッ!! そして気の利いた言葉のひとつ返して来ないとは……ッ!!


 この戦いが終わったら、あとでのちゃくちゃに責めてやるんだからっ、というような詮無いにも程のある思考を浮かばせられているだけ、私も大概に修羅場鉄火場に慣れ親しんで来たような……であれば滾るに任せてここは一発ブッ込んでいくのもありなのやも知れぬ……


 いや落ち着け。そうは言ってかくいう私もまったくもってのノーアイデアであるわけであり。目指す月人との距離はだいたいプールの縦幅挟んだくらいと目測した。つまり二十五メートルくらい。私の「”疾”風」を使ってもコンマ五秒くらいは間が出来ると踏んだ。そしてそのくらいの時間ロスが出来てしまえば、余裕で例の見えない奴に弾かれるのがオチと見た。であれば遠距離からの手数勝負? うぅん、どうだろ。無駄な消耗も避けたいところ……今日何発撃ったか既に分かんないんだけど、何か下腹部がずんしと痛重くなってきてんだよね……あれはまだとは思うから、これはすなわち『部首ラディカル』の連発が効いてきてんだろうな……思えば大分酷使はしてきた……大攻勢をかけるのならば、決着の見通しが立つところまではこれからは自重セーブする必要がある。


 ぐらぐら煮立つような自分の内の思考の吹きこぼれ方とは真逆の、相変わらずの綺麗なスカイブルー&オーシャンブルーに囲まれて、その上でそんな非日常にとんでもない非現実が覆いかぶさってくるようなこの状況下で。


 私は一度、大きく深呼吸をカマしてみる。落ち着け、私は独りじゃないんだ、もう。


 振り返ることは隙を晒してしまうかもだからそれも自重したけれど、確かに背後に「仲間」がいるってことは感じている。だから、落ち着くんだ。


 開幕、猫の奴も言ってた……パーティ組むことでいいとこまで行ったことあるとか何とか。そうだよ数の利。そいつで月人ヤツを討ち、報酬いちおくをひとり掻っ攫い……この世界か元の世界でまた人生を歩み始める……傍らに、ええと、気の合う奴を置いてやって……


 いやいやいやいや!! 何で詮無い思考だけはぎゅんぎゅら回るかなこの状況で!! 何度目か知らんけど落ち着け。この場を、乗り切る乗り越えるために、全神経を集中させろ。


 目標は……眼鏡を苦も無くのしてからは、その無表情だった青白いツラに微笑未満の口角の引き攣れみたいなのを貼り付けたまま、ただただ建屋の屋上のひとつのごくごく低上空にごくごく自然に浮いているだけだ。余裕か? かましてくれるじゃあねいのぉ……!!


 真っ向からの、ではミリほども揺らがせられないような、そんな気がした。連携、搦め手……その辺りを駆使してやんないと。不本意ではあるけど。と、


 刹那だった。


「!!」


 私らが立つ、概ね白基調の「屋上」がじわり絵具が滲むように「緑色」に侵食されていくサマが目に入ってきた。草木萌ゆる……これは。


「……『草葉クサバカオる』……デスネー」


 後方からそのような穏やかな声。ヅオンさん……そのこちらを落ち着かせてきてくれる癒しの声色とはかけ離れたかのように、私の視界に広がっていく「緑」……よく見るいわゆる雑草めいた何とない奴とか熱帯に生い茂ってそうな見慣れない奴とか、それらが無秩序にさらに意思を持ってるかのように周囲見渡すほどの範囲にぶわざわと滲み広がっていく様子は何と言うか「獰猛」さを孕んでいるようで。無機質だった白一色の世界が、有機的な緑に覆われていく……


 何か、あるんだな策が?


 丹生人ちんまいの指示であろうことは分かってる。最強<くさ>使いであるところのヅオンさんに、背丈とドニブメンタルは如何ともしがたいけど「漢字」にだけは精通しているところのカナエ使い……この二人が噛み合えば。


<囮頼みます(五文字)>


 とか考えてたら脳側面にぷこと現れたのはそんなまた文字数使い切れよな的な断片呟きツイターであったものの。


 頼られてんなら行くしかない。しんどいとか思ってる場合でも無い。


「<チョウ>……<ショウ>……<ルイ>……<ギャク>……」


 姿勢を屈みこむほどに低くしつつ、緑に敷かれていく足場を最低限の足さばきで滑るように前進していく。それと同時に周囲に「黒い球体」……『聖★漢字セカンヅ』の群れを置き張り巡らせていく。月人やろうの意識をミリ秒でもこちらへと向ける……それには単発の攻撃じゃあダメだ。長距離から距離を詰めつつ連発連撃……身体もってくれよ!!


「……『”疾”風しっぷー』ぅぅぅぅッ!!」


 叫ぶ必要はもちろん無いのだけれど。気合いを入れるのと、いくらかでも注意を引き付けられればと思って腹から声を出す。いっくぞおおおぉぉぉおおぁぁッ!!


 彼我距離を出来るだけ縮めてから、白建物(緑に今は包まれてるけど)の屋上切れ間に達したところで私は「超速」の能力を開放させる。あえてそこから地表に踏み外し落ちながら。その途中で急激に時間の流れが緩まるのを確かに認識しつつ、建物の壁を、蹴って”疾”走する。真横に身体を倒し。


 その上で、やや右回りに迂回していく。草とか蔦とかがもっさり覆っているおかげで、足場には事欠かないし、私の姿をも隠してくれている。月人の虚を突くって言ったけど……別にぶちなめしちゃっても構わんよね?


「……!!」


 次の瞬間には私は目標の左斜め背後の下から飛び出していたわけで。前方からは何が出るかな的な、得体知れないゆえに無視は出来ないだろう四つの「黒球体」が迫る状況下でのこの背後からの近接……無防備なそのうなじに(毛皮巻かれとるけど)、照準ががちり合わさった。


 いけんじゃね? とか思った瞬間だった。


「!!」


 だよねー、お見通しってわけ。身体を揺さぶる圧力。またも「見えない」反則級衝撃をカウンター気味に喰らってしまって有無を言わさず背後へと吹っ飛ばされていってしまう私なのだけれど。


 最低限の役目は果たしたぜ……? ならやってくれんだろ丹生人ニュート……?


 ……ぶちかませッ!!


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