Quanji-39:雄大デスネー(あるいは、あんじむなか!あぐね♡りんぐダリヤ先生)

 場は混沌と言う名の、行き着くべくして行き着くであろういつもの局面やーつにじじじじとにじり進んでいくかのようであって。


「陰部ヘノ借リハ……陰部ニテ返サネバナルマイ……」


 虫の息と言うか本気のおぷおぷ音を出し始めた限界状態の妖精カナエちゃんをさらに必要以上に力強く眼前で保持したまま、感情がうねりまくり過ぎて逆に抜け落ちてしまったかのような、そんながらんどうな言の葉が、相変わらずちんじゃら騒がしいこの場にて何故か鮮明に、すらりと立つ御仁から、ただ、ただ流れ出て来ておりますじゃ……


 僕の内面も一気に七十年くらいの時を刻まされたかのような状態に陥っているけど、そんな場合でも無い。この世界に流れ着いてきてから急速にその目録インデックスが充実してきた僕の「とある陰キャののっぴきならない大全集」に収録されとる中にも見当たらない、常態からは確実に隔絶されうる超絶のっぴきならなさそうな事項目へと、コトは進み出していきそうなのであった……


「……ッ!!」


 僕の首元から抜けるように手を放し、既に戦意と常に浮かばせていたアンニュイ感も喪失して、ただただ豪奢な椅子に力無くもたれかかるばかりだった妙齢さんの陰影に塗れた御尊顔が、さらに歪む。おそらくは恐怖で。


 直視するのもおぞおこがましいかったけれど、自分の身はもう自分で護るほかは無い状況にあって、ひとまず現状把握は大事だよね……と、不穏を煮詰め煮詰めて半固体状になったところの表面からぷこぷこと泡立つ瘴気のようなものが漂ってくるかのような左後ろを、お決まりのおもねりを表出させたおへちゃ顔面にて振り返る。と、


タイ


 そこには既に中空に、おそらくはその右手に持ちし棒状に苦しむ妖精を大筆代わりに、あまり考えたくは無いけどその震える身体全体から滲み出している青銅色の妖精体液を墨汁代わりに書いたであろう畳半畳くらいはありそうなほどのいい感じに筆走った見たこともない、しかして不穏感はこちらの平常心を根底から揺らしてくるかのような、「聖★漢字セカンヅ」が鈍く光って在ったわけで(どうやれば中空に描けるんだろう)。


「意味ハ無論『陰部ノ病』……コレヲブチカマシタガ最後、貴様ノ×××ナ××××ガ(聞き取れなかった)、もちゃり腐リ落チルカ、ぼんわか爛レ膨レテ、フタ目ト見ラレナクナルカ、ドウナルカハ、私ニモ皆目分カリャアシネエケドナァ……」


 ヒィィィィィィ、という喉奥から引き攣れたかのような妖精高音と妙齢中音と僕低音が綺麗な和音を為そうとしたところで、


「……ま、それより前に、のちゃくちゃにボコすけど。どうにもこういうのでシメないとしまらないんだろこの『世界』はよ? なら御約束テンプレには躊躇せずに乗っかる。それが、私なりの、忖度♡」


 一転、ダリヤさんの顔が満面の笑みのカタチに、しかして脊髄からの信号直結で顔筋が単に痙攣したかのようにそれはそれは不自然極まりなく彩られていくのだけれど、まったく人間味を感じさせないその様態はかえって八割増しくらいの不気味さをマシマシしながら、居合わせた僕ら全員の椎間板のひとつひとつに液体窒素から出したて氷結ガチガチのギターピックを逐一打ち込んで来るかのようなさんざめく恐怖を刻み付けていくのであった……


 刹那、だった……


「……<”疾”如風はやてノゴトク!>」


 不穏な方にしか舵の切れない暴走機関車がそんなのたまいをキレよく放ったかとMy聴細胞が感知したかしないかの時点で、My視細胞が光シグナルを神経情報へと変換する間も与えてくれずに、その制服に包まれた華奢な肢体からだを「台」上に駆け上がらせたかと思った、そのわずか数フレーム後には、


「……!!」


 妙齢さんの壊れかけの顔面ヴィイソに、屈みこみつつ鋭くブン回し伸ばした己の拳の中手骨を裏拳気味にめり込ませている絵図を送ってきていたのであって……


 み、見えなかった……<疾>恐るべし……


「ッギィヤぁぁぁぁぁオオオオオオオオオええええええええええええッ!!」


 とか呆けていたら、しなやかにモデル立ちに戻っていたそのおみ足をはするようにして例の「中空青銅色漢字」がゆっくりと、しかして厳然と前方へと進行をしていて。


 妙齢さんへと到達したかと思うや否や、その身体にめり込むように撃ち込まれつつ世にも怖ろしい胴間断末魔を上げさせているという、悪夢と思い込みたいけれど、それやったら遥か前の前の時点で目が醒めていないとおかしいからやっぱりこれは悪夢のような現実なんやね……


 と、上方真顔睥睨者と化した僕が身体の穴という穴を半開きにしたような状態で佇む他はなかった局面へといざなわれていただけなのであった……


 その地獄絵図をも見届けずに、台の上でぐるりとこちらに向き直ったダリヤさんは、


「……『おつ』」


 というような、うまいんだがどうなんだかもうよく分かりはしないほどのキメ台詞めいたものを誰に言うでも無しに放ってくるのだけれど。それより何よりその振り返りの動作アクションと共に膝上丈の赤チェックのスカートが、その裾をふわりと舞い上げさせていたわけで。


「……乳白色ミルキィワィ……ルキィワィ……ィワィ……」


 その光放つ白色は、一段下で座って見上げる恰好だった僕の網膜を貫いて言語野に誤作動を起こさせると、そのようなネイティブっぽい発音を既に枯れ切っていた声帯から否応にも自己反響セルフエコーを伴わせつつ紡ぎ出させてくるのであった……


 そのサマをちょっと微笑を含んだ蔑み顔で見下ろしてくるや否や、いや~ん、あぐねりんぐ♡、みたいなことを、その双球を隠そうと身体前面にて両腕をクロスさせるように巻き付けつつ、だがそれはただ豊潤なるE球体を上方へとむにりと押し上げる役にしかたっていないという矛盾感を孕みながらの本末転倒感を僕の大脳全域になすりつけて来るという……もう……これは何だッ!? いったい何だっていうんだぁぁぁぁあッ!!


 もぁう限界だァッ!! 僕はいろいろ限界なんですぅ……ッ!!


 「限界灘」という感情の奔流が荒れ狂う精神の海域があったと仮定して、いまの僕はその真っただ中で翻弄される果敢なき小舟が如く……ッ!!


 とか詮無いことしか思い浮かばせられなくなった僕の意識は、またもそこで断ち切られていくのであ


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