Quanji-38:陳腐デスネー(あるいは、消される覚悟は/なきにしもあらずんばなき児を得ず)
♢
一矢、報いた……
慌てた感じで彼の方からの「炎」の迎撃があったものの、そこは厳然たる数の多寡差がある。「3
「……クウッ……ぅはぁぁぁぁぁ……ッ!!」
覆すことは出来なかったみたいだ。流石に。そして初めて揺らしてやったぞそのアンニュイ面とイカサマありきの似非い「平常心」をッ!!
龍が炎の息を吐くというのはいささか
「グッ……グッ……」
本体の妙齢さんの方はというと、すかさず何かの液体を空中に球体のかたちで現出させると、それをびしゃと落として人形たちの鎮火を試みているけど。白濁した液……「乳」? どこ発のだろう、とか想像してしまった僕が少し揺らされる中、
「……このクソドチビ……ッ!! やってくれましたわね……ッ!!」
出たよ本性。憎悪、怨嗟、あと何かに塗れうねった掠れ耳障り声が、響き渡ってくる。まあ大体一皮剥けばそんなもん、って僕は今までの人生で相当学んでいるから、別段驚かないよ。それより人形のダメージが如実忠実に貴女の方にも貫いているみたいで、綺麗だった銀髪はチリ焦げ、
「えっとぉ……ど、どなたでしたっけ……?」
平常心勝負は……僕の勝ちだ。極め付きとばかり極めてアンニュイな感じの人の良さそうな困り顔を自分の顔面に浮かべると(ヅオンさん仕込み:仕込まれてはないけど)、そんな多分に嘲りを丁寧にラッピングした即応の煽り(これはカナエちゃん仕込み)をカマしてみる。その先でさらに歪む凹凸色濃くなってきた御尊顔は、たぶん夜道で出くわしたのなら大声が出てしまうレベルであろうものの。でも、いきなりその白い
「このカスチビ……
腹からのドス走った声に、最早先ほどまでの優美さは欠片も無い……そして「台」越しに僕の喉仏辺りに伸ばされた手指は、結構な力強さで掴み上げてきて、動きを……思考を止めてこようとしている……息が……というか絞められてる……
「……!!」
その、憤怒に彩られた顔面を囲むようにして。焼き焦げてちりちりの艶の無い白髪みたいになった髪の合間を縫うようにして。
まさにの「龍」の首が、現出していたわけで。それも数えてみたら九本も。うんもう
「『九』もまた我が<
この「龍の現出」は、自らの
「この『
自分から仕掛けといて、自分から墓穴を掘っといて、よく言う。でも思ってたよりその華奢な体に隠されていた膂力筋力は凄まじく。椅子から中腰浮かせた中途半端な状態の僕じゃあ、振りほどけそうもないよ。
でも。
「……てめえの好き勝手で有無言わさず有利に物事進めといてよぉ……それ覆されたからって『
僕の背後から、そのように妙に落ち着いているのが逆にこちら恐怖心を風速四十メートルくらいで煽ってくるような地の底からの声が響き広がってキター……
「カード勝負は終わりだな? っつうことはこっから先はこっちも好き勝手暴れさせてもらって構わねえと、そういうことだな?」
こうなった時のダリヤさんって
モデル立ち(というのかは分からないけど)の、
「……のたまうなよ
とか思ったら、一触即発の点は既に通り過ぎていたようで。妙齢さんの頭を包むかのようにして展開していた「龍頭」の全てが後方へと一瞬反り返ったと思いきや、
「!!」
次の瞬間、場を覆うほどの炎の大瀑布のようなとんでもない熱量を持ちし「炎」がざんぶと吐き出されてきたわけであって。や、やばぁぁぁああああいッ!!
思わずやられる前に白目になってしまった僕の耳に、
「……マスター、心配は御無用、『
左胸から勢いよく飛び出した僕のもうひとりの
希望で戻りかけた黒目をまた上方へと持っていかれそうになりながらも、僕の目の前でその背中の羽根を小刻みに羽ばたかせた褐色×緑青色の背中には何と言うかの力が漲っていることだけは視界の隅っこで捉えられた。
刹那、だった……
「夢を
既視感を両頬になすりつけられるかのような言の葉に続いて現出したのは、これまた何度目か分からないほどの例のあの
それでも、吸い込んでいく、すべての「炎」を。吸引力の変わらない唯一つの青銅三脚鍋は、それ自体が意思を持っているかのように貪欲に、己が腹の内に紅蓮波を収めていくのであって。その波が引いた後に現れたのは蒼白になった顔面をわななかせる妙齢さんのこの数分で十歳くらい時を超えたかのような御姿であったけれど。
凄いねもうとしか言えないほどの、これ本当に僕の能力なんだろうか……
「敵の一匹を無力化……残るはクサレ××××(聞き取れなかった)が一体……マスター何なりとご命じくださイギヒィィィッ……!?」
得意満面で現出した「鼎」に手を掛けながら振り向きこれでもかウインク付き笑顔を送ってくれる
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