Quanji-37:絶景デスネー(あるいは、くらわせろ/僕も知らない/インヴェルシオーネ)
♢
「ッこるまぁるうんたぁりんでへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええんッ!!」
もちろん、
図ったかのように(また)
相当きつめの折檻電流のダメージは、本体であるところの僕にも謎の神経直結タイプのVR以上のリアリティを以ってして傍迷惑にも共有させられてしまい、僕は、僕は冒頭のちょっと形容しにくい叫び声をのけぞって伸び切って上向かされた喉奥から大音声でこの「カジノ」内の
ぐっ……やはり強い……もちろん
衝撃で再び意識が吹っ飛ばされかける僕……でもそれより早く左後方でとさりと倒れかかる音が聴こえた。から踏ん張り留まれた。でも、
「……ダリ……」
振り向きざま、ダリヤさん、と呼びかけようとした声は声帯が麻痺でもしているのかその間の空間に掠れ薄れ消え失せていってしまったけど。尻もちをつく感じで後ろに倒れ込んだダリヤさんは、そのアヒル口をゆがめながらも大丈夫、といった目で僕を見上げてくるけど。僕の身体を伝って、電撃がそちらにも行ってしまったと……いうことなんですねッ!? ええとその、僕の骨盤からデリケート部を通してッ!!
「……手出し無用……体で支えるのも無し。そのことを再度注意したかったのですわ? お嬢さん」
ことさらアンニュイに余裕ぶって、台の上で肘を突き手を組み、そこに顎を乗せつつこちらを見下ろすかのような視線で睥睨してくる妙齢さん。やはり……ッ!! 何らかの作為は絶対にある!!
だけどそれを言っても詮無い……というか無駄だ。しかも、付け入る隙が「そこ」にしかないと思われるゆえ、いまこの場で何を言う/することは出来ない。でも……「一対一」とか言いつつ平気で巻き込んでくるそのやり方……
何か、腹が立ってきたぞ。
<耐えてください次で絶対喰らわします>(十七文字)
<介抱待ちしといてやるよ鼠径部の>(十五文字)
助け起こすことも出来ずに正面を向いたままダリヤさんにフォローする感じで「ツイター」を送ったけど、
であれば。……集中しろ。絶対に、絶対に喰らわしてやるんだ。決意を込めて場札を引く僕。
<
が、やっぱりね。封殺してくる気だ。<龍>以外はこれでもかのカス札掴ませてくるね……ヅオンさんの持つ<
けど、けどだ。ますます<龍>に意識を向けてこようっていうハラは読み込めた。その上で……覆す手立ては無いか? 本当に。
「第三局……よろしいですか?」
艶然と、という表現がしっくりくる妙齢さんの蠱惑的な笑みとその下で存在感と重力感をもって揺れる胸元。でも僕はもうそれに惑わされることも、揺さぶられることも無いんだ。
承諾の意を込め、軽く頷く。けど身体に走るのはどうともならんレベルの痛みとか疲労……次喰らったら本当にまずいよね……切り札は、もう相手が何を出してこようと切るしかないだろう。でも、何かある。何かはあるはずだ。じゃなきゃ、
「……」
こんなにも、気の抜けた感じで勝負に臨もうという気配は出せないだろうから。妙齢さんにはある。何か、「必勝」と確信できるほどのからくりが。
でも突くならばそこしかない。そこのところの、「気の緩み」を的確にえぐる何かを捻り出すしかない……ッ!! 外面は平静を装いつつ、内ではそのように意気込む僕だったけれど、
刹那、だった……
<
相変わらずの妖艶笑みのまま、羽根ペンで何らか書きつけた妙齢さんの細い指でつままれ場に放たれたのは、そんな、一瞬、画数多過ぎて何が書いてあるのか分からないほどの、仰々しい「漢字」だったわけで。
龍が……ふたつ。これは、
衝撃をうまく咀嚼できないままの僕の眼前、妙齢さんの
落ち着け。
やっぱり僕の手は筒抜けだ。その上で、嘲笑うかのような「龖」提示……同じ部首の札が複数存在するわけか。いやそれも意図的なことかも知れないけど。そして……僕は自分の手元の<龍>札の表面を指でなぞってみる。指の本数を変えたりして色々試してみたら、二本でつまむように
そうか、例えば「火」で考えると、左に配置すれば「ひへん」だし、下に配置すれば「れんが」……そういう応用が利かないと成り立たないじゃないか、考えてみれば「部首」なんだ、それを使って構成する「字」はいろいろ存在するのは基本中の基本ではあるけど……そこに気付かずにいた。あまりに見慣れなさすぎる「部首」を提示され過ぎて。いや、あえてそこのところの説明はされなかったよね? 本当に……汚い。見た目に反してこの御仁はぁぁぁ……!!
とか、歯噛みしてる場合でも無いよ。こちらが提示する
でも。でもだ……喰らい付いた感を脊髄辺りで察した。
……ありがとうございます。
心の中で、そうお礼を述べておく。そう、感謝しないとね、本当にありがとうございました。
……侮っていただいて。軽んじていただいて舐めていただいて。
傍らの羽根ペンを不必要なほどの強い力で掴み取ると、「強すぎ」とことあるごとに言われる渾身の筆圧にて、自分の札に書き入れ込んでいく。力強く、正確に、
……問答無用で<龖>を絶対屠る
僕が一心不乱に書き込むサマを見て、そしてその画数が尋常じゃないことに気付き始めて、
「……!!」
はじめて妙齢さんの顔に焦燥めいた表情が浮かぶ。そうだよあなたは僕を侮り過ぎた。<
「勝てるのあったのにそれ提示出来なかった」僕を、この後、嘲笑するためなんじゃないか? 精神的優位に立とうと思った? そんなのははっきり緩み弛みに他ならない。真剣に、勝負に臨まない輩に、
勝利は訪れないということを思い知らせてやる。
自分でも驚くほどの熱血もたらされ感に、多分な怒りをも上乗せして、
「!!」
叩きつける。乾坤一擲の一打を。
<
次の瞬間、ぼろぼろの体の僕の
……そんな厨二歓喜な漢字を、この僕が知らないとでも? あなたは全力の<
それははっきりの油断だ……精神の、緩みだよっ!!
僕側の三匹の「龍」から、相手方をすべて飲み込まんばかりの熱線のような炎だか光だかがえらい勢いで放たれていく。
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