Quanji-28:軽快ですね!(あるいは、軽く舞い/重く刺すメンタル/フェザー級)

 おーう、先ほどから、それが決め事ルールであるかのようにして始められた一対一の戦い……「バトル」と言った方が「日本語的」にしっくりくるかも知れませんが、まさか自分がゲームの中のように、しかも自分の身体を使ってそれをやるとは思いませんでしたねー。ちょっと泡食って言葉が定まらなくもなっていますねー。


 辺りを改めて見まわしてみると、360°見渡せるほどの遥か遠くまで大海原……これは見た事の無い……と言いますか、何とも現実味の無い、強いて言えば「アリエナイ」光景ではありますね。そして私たちがいるのは、1ヘクタールマウタイくらいの広さの「島」なのですね……まるで絵に描いたような無人島のような。ごつごつした岩肌に苔のような緑のものが覆っている……所々生えた木々は何と言うか萎びて見えますねー。そんな、どこか偽物ニセモノめいた風景の中で、ひときわ激しい動きを見せて私の目を奪ってくるのは、


「……んんんんん、『鳥々トリドリの字』……モデル<ピジョン>だわんッ」


 私のお相手であるところの華奢なる少女トーツィさん……かなり可愛らしい、愛らしい御顔をされてらっしゃいますですねー。日本の学生的な紺のブレザーに赤のチェックのミニスカートを身に着けた、年齢もそれ相応の若さと思われますけれど、日本人の歳はわかりませんからねー。しかも語尾は犬っぽいですけど、その「能力」は<鳥>……少し混乱をきたしていますねー。でもそんな場合でも無い。


 薄灰色をした垂れ耳犬の帽子を被った少女がそう言い放ったと同時に、その水平に伸ばした両腕が、服の袖ごと「変化」してきました。羽、いや「翼」……? 灰色地に黒をまぶしたかのような巨大な翼は、羽ばたきも見せずに、軽やかに水平に広げられると、次の瞬間、その持ち主の身体をふい、と空中へと浮かばせるのですねー。動きも緩やかに。ゆえに


「……!!」


 そのままスカートの裾を翻し純白の何かを眼下の私に見せつけながら、急上昇した少女さんはぐるり垂直回転をきめると、次の瞬間。ほぼ真っ逆さまに私の方へと落ち飛んできますです。


「……んんんんモデル<白鳥スワン>だわんっ!!」


 その途中で。いきなりその張り出された両の翼がくすんだ色から純白へと変貌を遂げるのですねー、見た目の美しさをも孕んで。いや、そんな見入っている場合ではないでしたねー。


「!!」


 白い、羽毛が、ひとつずつひとりでに抜け落ちると、それら全ては私目掛けて軸先をこちらに向けて、勢いよく「発射」されてくるのでありますねー、アブナイーッ!!


 岩肌にお尻を擦り削ってしまいますのですけれど、何とか体を捻ってその「羽毛」の群れの、密度高いらへんのところからは身を躱しますのですねー。でも全部が全部不規則ランダムな動きをしてくることもあって、それにその数も百や二百は利かないのことですから、とてもじゃないですけれど、全部を全部避けることは無理でございました。


「……!!」


 ワイシャツを突き破って真白い羽毛が私の腕の至るところに突き立っております……痛い、これは結構深いところまで……動かそうとすると筋肉の部分に鋭い痛みが来ますねー、これはまずい、本物です。本物の痛みです。


 いい加減、私も自覚するべきですねー、この荒唐無稽が現実リアルであるということをー。であればであればで、こちらも「クサ」の漢字を使うべきでございます。しかし、あまり私、まだまだ漢字のことは知らないのことですねー、「花」「草」「茶」……うーん、そんなとこですねー、あまり「バトル」向けとは思えませんですね……ニートさんはすごく運がいい運がいい言ってくれてましたけれども……


「!!」


 そんな考え事に捉われていた私の右肩に、今度は黒い羽が二、三突き刺さってしまうのですねー。今度はじんわり鈍く痛いですのねー。いけません、これはいけません。


 とりあえず両手で顔をかばうようにして、ほうほうの体で少女さんと距離を取ろうと駆け出しますですが、動けば動くほど肩や腕の痛みは強くなりますねー。


「モデル<レイヴン>……ふふ、<鳥>ってさぁ、『部首的』に言っちゃっちゃあ、はっきり言って『ハズレ』な能力なわけ。せいぜい色々な種類の『鳥』を現出できるくらいの歩く図鑑的なもの? そんな感じ。そんなのあてがわれた日にゃあ絶望、てなもんだったってのよほんと。でも!! そっから考えたんだよね……生かし方を。必死こいて。『自分に発現』させちゃえば、それは自分自身の『戦闘能力』を高められるんじゃない? ってとこに行き着いてからは、割と目の前、光が射してきたんだよね……それでもってその勢いで結構な上の位? 『三十六騎』までのし上がることができたっていう……」


 上空から、手負いの獲物をいたぶるかのように、命中させる気のなさそうな羽毛が断続的に私の周囲に撃ち込まれ降ってきていますね……何と言うか、こちらの少女さんは、何でか諸々心の内を吐き出したいかのようなそんな雰囲気を醸していますねー、無理あった語尾もいつの間にか潜まってますしねー。聞いてあげた方がよいのですかねー。幸い私には妹たちがおりますで、結構話は分かるかと思いますですが。いや、「わかってないよ」と言われることの方が最近は増えてきてましたですかもねぇ……


「ヅオンさんは<くさ>って言ってたよね……それってかなりの『上位種』。『七曜』様方に匹敵するっていうかさ……恵まれてる持ちし者ってことだよね……別にヅオンさんに恨みがあるってわけじゃあないけれど、持たざる者としてはさぁ、ちょっと捨て置けない的な? 対象なんだよね……だから悪いけど」


 降り落ちてくる少女さんの言葉に、どこか哀切のような暗いニュアンスが含まれていくと思った矢先のことでした。


「……始末させてもらう」


 モデル<イーグル>、との何かを押し殺したかのような声が聞こえたかと思った瞬間、逃げまどう私の視界を覆うばかりの「褐色」の切り裂く「影」が横切り、そして背中やうなじ、お尻から膝裏まで、余すことなく鋭い痛みが与えられて、私はあえなく岩場の地面にうつ伏せに打ち付けられ、そしてそのまま気を失

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