Quanji-20:苛烈ですね…(あるいは、ダナン/DNAん/いくさ行くさー)
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まるで今の今までが夢であったのならば、逆に私はがっかりしてしまったのかも知れませんね……
意識を三度奪われ、それでもいま感じているものが自らの意識であるとのことは、もうひとつ俯瞰しているような「自分」の視点で奇妙にも把握しているというような状況……白い雲の内部に、飛翔した自分の身体が突っ込まれぐるぐると回転させられているような。
何とも不安定で落ち着かない現況ではあるものの、そのままならない意識の表層に浮かぶのは、やはり私の家族の姿であったわけなのでして。
故郷の港町にて私を今も待っているだろう母、祖父、妹たち……ちょくちょく電話で顔を見て話しているので、近況は側にいる時よりもかえって詳しく知ってたりはしますけど。
「……」
それでも会えない寂しさは、そして望郷の念は、昔も今もさしては変わらない……そう、異国の大都市で、舗装された地面を踏み、移ろう自然にいっときも目を留まらせずに一日を終えた夜、ひとりきりの部屋で灯りを消した時に、ハン川の水面に映る電飾の連なりが揺れる様子が瞼の裏に甦って。ふと隙間だらけの胸をそんな凍える風が、冷たく心を乾かしていくような寂しさ。空気の流れが私を内から風化させていくかのように。
でもそれで挫けている暇は無いのですね。
日本へ語学留学することを決めたのは、将来この国で働きたいと考えたからです。テレビやネットで幼い頃から触れて、その眩しさにいつも魅かれていました。美しき文化、おいしい食べ物、先端を行く技術……アニメ、ゲーム、
そんな私が、まさにその「中」へ放り込まれてしまったかのような、絵本のようなおとぎ話のような、そんな不思議な体験。そう、でもそれは夢ではありませんでしたね。
どこかバランスを欠いたような不自然な世界、「
私はずっと現実感の無いままですが。心のどこかではまだこれは「夢」であるという考えを捨てきれてはいないのですが。
それでもそれに乗ろうと、不思議と強く決めていました。「一人倒せば一億円」……その額の多寡が、私を揺さぶったのかも知れませんですけどね。
学ぶにも、働くにも、お金は必要。特にこの国では。アルバイトも大変ですが、楽しいですが、それに時間を取られることが無くなれば、もっと勉強が出来る。お金を稼ぐにも、お金が要るのだということを、私は知りました。もちろん家族にも恩返しの真似事が出来るわけでもありますね。
もうひとつ。何故か分かりませんが、この「異世界」で話されているのも「日本語」……それは他の日本人の方にとっては好都合なのかも知れませんが、この私にとっても都合がいい話なのかも知れません。日本語の勉強が、出来る。さらに難しい「漢字」の勉強も、出来るかも知れませんね。
そして「こちら」にいざなわれてから、私にはもう、四人も友達、仲間が出来ましたね。ダリャ、タカッリ、ニート、カンナェ。みんな親切です。それに外国人だからといって、私を区別しない。それはすごく、嬉しいこと。
ですから、戦います。私は戦うのです、自分の為に。仲間の皆さんと共に。
「あの……」
と、ふいと意識が戻ってきたかのような、起き抜けのような感覚が突然来ましたね。いったい何が起こったのでしょうか。
「い、いいですかね、その……一対一の対決、ってな感じで行こうかなって、えーと、そういう感じなんだけどぉー」
いつの間にか目の前に現れていた、垂れた犬の耳が付けられた帽子のようなものを被った少女が、その鳶色の瞳を泳がせながら私に話しかけてきていますけれど。うーん、やっぱり日本語の曖昧な表現ムツカしいデシュネー、でもこれが
「ドゾ、きてクダサイデシュネー、私はヅオンと、そう言いますデスネー。あー、アナタの、お、お名前は、なにデショカー?」
ああ何か、人の目を気にせず目の前の人だけに集中できる環境っていうのはいいですね。いつもよりも言葉がするする出る気がしますねー。
「あ、何かやりやすい……何かいいね!! ヅオンさんっ。よし何か来たはぁッ!! ではではぁ……あ、私は『トーツィ・イヌイップ』なんだわんッ!! 犬大好き、なのに『
下を向いて溜めてから、段階的に伸びあがるような仕草も交えてのそのメリハリある声。おー、抑揚の付け方も面白いですしためになりますねー。それでは積極的に。私も真似してやってみましょうかー。
「ん、ナ↓ニ→ニ↑ヤ→ネ→ン↑ッ!!」
ちょっと違ってしまいましたか。と思っていたら、
「え、何そのキレ……ヅオンさんの転移元ってもしかしてあの? ……さ、サセンシタァっ!! 本場もんの方とはつゆ知らずッ!! とにかくいっちょ、私と御手合せ願いますぅッ!!」
言葉の意味はよく分かりませんでしたが、「戦う」。雰囲気でそう悟りましたね。ニートさんが色々教えてくれたこと……「クサ」の漢字を使う時が、いよいよ来ましたのですねー。楽しみですー。
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