Quanji-17:珍妙デスネー(あるいは、分断/逢い罠/フォーリング)
「……」
「!!」
と思ったらいきなり開けた大空間。学校の講堂くらいの、周りぐるりを石造りの壁で囲われた大広間、といったらいいのかな……床には毛足の短い深緑のカーペットのようなものがぴっちりと敷かれていて、豪奢な感じの調度がみっしりと壁沿いに立ち並んでいる……外気は歩くと汗ばんでくるくらいの陽気だったものの、一歩入ったこの空間は肌寒さで粟立つほどの冷気が全体を覆っている。
「なるほど、今回の『来訪者』。随分と早いな」
とか描写をしてる暇は無かった。視線のまっすぐ先にはこれでもかの絢爛さの玉座が設えられており、そこにまた先の猫神様もかくやと思わせるほどのアンニュイフルなしなだれ方をもってして、頬杖を突きつつこちらを睥睨している御仁の姿が。何で玉座につく時の姿勢ってこうなるんだろう的な思考はもちろん隅に追いやり、彼我距離十メートルはあろう何とも微妙なる間合いにて僕は立ちすくむ。非常にフラットな声質……妙齢の女性、と思われる。
「……我々を倒してこいと、そう言われ赴いてきたのだろう……まったくもって解せぬ話ではあるが……ふ、まあ退屈しのぎにはちょうど良い。貴様らの持ちし『
テンプレ的物言いはともかく、青白く、一見、え? とか思ってしまうほどの血色の悪さだ。そしてそれと同系色のまん丸のほわほわした帽子……のようなものを被って、同じく白い毛並みの獣を何十頭かツブして作られただろう、異様に分厚い毛皮をその身に纏っている。
その遮られている部分から覗く、限られた箇所から……顔立ちは整ってはいるけど表情に乏し過ぎて精巧な
臆するな。ここ一発、自分の中の「
自分の中でふと浮かんだだけで、何の根拠も無い上にある意味ギリギリという気合いのようなものを心の奥底でカマした僕は、ここに来るまでずっと考え続けていた「月」の部首を持つ漢字を思い返してみる。
よく間違われるけどかなりの部首数を持つ「にくづき」は「肉」のカテゴリだから除外していい。「脳」とか「腕」「脚」とか、こちらの身体の一部位を局所的に狙われさらにピンポイントで破壊されるみたいな物騒な恐れは多分だけど無いと思っていい。
けど……それだけにじゃあ逆に「月」に当てはまるのって何だっけ……っていう思考のむずがゆいところを的確に突かれてしまうような、そんな絶妙のいやらしさだ。うぅん……右側に来るのは確かそうだったよな……「朝」……「朗」……「期」とかか。
あれ? あまり強そうな、使えそうなのが無い……? カナエちゃんが言っていた通り、「最弱」? その可能性は充分ありそうだ。そんなことを考えて勝手に意気込んでしまう僕だけど、
「おぉ
平常から常人よりも一歩戦闘モード側に足を踏み入れていそうなエンドーさんの無情の指示が眼鏡氏に向けて放たれとるわけで。イヒィ、小一時間ばかりは無理でやんす粉しか出ませんですぜへぃ……みたいな仕置きに怯えるばかりの金属摩砕音みたいな耳障りな声がこの高い天井向けて吸い込まれていく……と、
「マスターお気をつけをッ!! 敵の気配がほかに『6』ッ!!」
凛々しい声が響く。おっとー、ちゃんと出来るじゃない、ならやろうよ最初から……とか言いたいところだけどわきまえまくってる僕は勿論毛ほどもそんなことは口走らない。シリアス入った妖精ちゃんは非常にきびきびと僕に注意を促してきてくれるわけで、それはそれは真っ当ありがたいよな……でも、どこだ? 玉座の上の人物の他に、周囲360°に、姿らしい姿は確認できないけど……
「『来訪者』たちよ。まずは個々の能力を試させてもらおう……いかな暇とは言え、この『七曜』がひとり『モノウゥル』の相手たりえるかはやはり、見極めてからでないとな」
そのクール系妙齢女性はそう物憂げながらもどこか楽しんでいるような含みを込めた言葉を発すると、まったく他意は感じさせないという自然な動きでその左手を目の高さくらいまで掲げていた。何事も、警戒もさせないほどの自然さをもってして。
刹那だった。
「<
放たれたのは、能力の発現を制御しているだろう『
「……!!」
ガツンと殴られたような衝撃を受け、そのままどこかしらに「飛ばされる」という感覚をその場に置き去りにするかのように。
僕の意識はそこで途
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