Quanji-16:遺憾デスネー(あるいは、坩堝ティック/無限ハイ↑ロー↓)


 エンドーさんから妖精カナエちゃんに向けられているのが「敵意」とまではいかないけど限りなく近そうなものであることに何となくの居心地の悪さを感じながらも、坊主氏から向けられているのが「うさんくささ」に寄り添うような不審感であることに何となくの尻の座りの悪さを感じながらも、今いるこの「大森林」にとどまったところで食う寝るところ/住むところに事欠くという事実、さらにここから抜け出すにしても何かしらの目印ランドマークが無いことには本当に遭難しかねないということを織り交ぜつつ何とかとりなした僕は、ヅオンさんだけが受け身的な味方と言える状況の中、ひねくれ両人を遠足にいやいや参加した不良ヤンキーに手を焼く引率の先生が如くにだけど何とか連れ立たせて一路、


「……」


 「ピラミッド」へと向かうことが出来ていたのではあった……しかして。


「……あ、あのさ、言うて『敵さんの根城』なわけだよね……てことはその何とかっていう『月の七曜』の下に強大な戦力が控えているって考えておいた方がいい……? のこのこ出向いていって取っ掴まって……とかは避けた方がいいんじゃ……」


 沈黙の行軍にいち早く耐え切れなくなった僕が、眼前を無駄に螺旋を描きつつ飛ぶ妖精ちゃんの忙しなく羽ばたく背中に声を投げかける。けど。


「……」


 あれ聴こえなかったかな? 反応無し。でもそれにしては能面のような顔でちらちらと僕の方を振り返ってくるけど。ん? もしや。


「……ねえ、カナエちゃ」

「YES、マイマスターッ!! その辺は心配御無用、『部首魂ラディカルソウル』を持った輩以外は、どれほどヘボい『聖★漢字セカンヅ』でも容易に撃ち倒せるがこの世界のことわり……マスターであればあの『鼎』を現出させてのち、飛行物体のようにぶん回すだけで百人二百人がとこの無能力者たちを無双的に吹っ飛ばせることでしょう……」


 うん……それはかなり「超人チート」感があって何だか能力者の端くれ的立ち位置の僕でもこの世界での立ち回り方に淡い期待を抱いてしまうのだけれど、でもそれより何よりこの妖精ちゃんは名前呼びしないともう返答してくれないのかな呼びかける系のAIなのかなみたいなことも分かって、そしてそれに対して背後よりエンドーさんがいちいち舌打ちしてくることに背筋に薄ら寒さを味わわせられるのだけれど。


「注意すべきは『七曜ハッゲ』およびその手下てかの者たる、『漢☆自演徒カンジェント』『三十六騎』なのです……『七曜』ひとりに単純計算で『五人』ついてることになりますね。そいつらはそこそこのラディカル使いですのでお気をつけを!!」


 だいぶ敵陣容が明らかになってきた。能力戦闘バトル一辺倒モノになりそうな展開だけれど、まあここさえ乗り切れば、いかようにもなる……僕は脳裡によぎる色々なものハーレムに思いを馳せそうになるものの、のっけから登場してきた猫神猿闘鼎妖精こうせいめんつたちにおとなしく一億の四分の一くらいをもらって現世にすごすご帰った方がよいのやも知れない……という、極めて後ろ向きな気概へとヘコまされていくのを全・細胞で感知している……


 視界が開けた。


 巨大建造物ピラミッドの近づいてみての外観もまあ現実味が無かったものの、その前には整然と敷き詰められた黄土色の石畳が僕の学校の運動場くらいの広さをもってして広がっていたのだけれど、そこにはそれこそ百二百の頭数はあろう、人の群れが銘々くつろいで地べたに座ったり立ち話をしていたりしたりしてその誰もが古代ギリシャの重装歩兵のような勇ましい鎧かぶとに身を固めつつ手に手に槍状だったり斧状だったりする得物を携えていたりで、僕らに気付くやいなや何かのスイッチが入ったようにわらわらと接近突進をかましてくるわけであって。ええー、こんな世界観だったん……そしていきなりに過ぎませんかね展開ェ……


 みたいに、ついつい思考が固結フリーズしがちな僕が立ち尽くしてしまった。


 刹那、だった。


「フッ……ここは俺に任せてもらおうか……本邦初御目見えの我が『流刀殺法』にて……んんんんブッた斬ったらぁぁっぁぁぁぁぁぁあああああッ!!」


 こっちも何かニヒルを上書くような変なスイッチが入ってしまった眼鏡坊主タカアリ氏が、そんな野卑さでは全くひけをとらないイキれたいい金属質の絶叫をかましつつその多勢に向けて単身突っ込んでいっておる……


 開幕早々、尊い犠牲を出してしまったことに、しかしその事にそれほどの罪悪感を覚えていないことに罪悪感を覚えるという精神の入れ子構造に振り回されるかのように僕は、ただ僕は、砂埃の中に滲んでいくその骨ばった学生服の背中を見つめるしか出来ないのであった……


 しかし、


「……<刀>の呼吸」


 眼鏡がそんな不穏かつ不必要と思われる事をのたまったと思った瞬間、


「『聖★漢字セカンヅ』全開ッ!! 四字熟語フォーシークエンス<一”刀”両断>んんんッ!! っだぁぁぁぁぁああああああああッッ!!」


 その手にした黒玉からは東映的な日本刀ポンとうが現出してきて。それを構えも何もない適当に振るったかのように思えた次の瞬間には、どういう原理かは全く分からないんだけれど、群れ為す敵兵さんたちが余さず中空に吹っ飛んでいるという、これでもかの虚構表現フィクショナブルな光景が僕の目の前で展開していたのであった……


 いやでも凄い……ここまでのものなのか「部首ラディカル」……ッ!!


「割と理解が早いのですねあの眼鏡……『四字熟語』……正式名称『フォーキャラクターイディオム』、字数が増えるごとにその威力も増すといった応用技術を端から使用してくるとは……そして使用するごとに『寿命がひと月』縮まるにも関わらず臆せず振るってくるなんて……これは手駒として用途が広がりましたぞマイマスターッ!!」


 その爽快光景に被せるように言ってきた妖精ちゃんの喜悦を孕んだ声に、それ聞いてなはぁぁぁい、との断末魔のような金切り声を上げつつそれでもピラミッド入り口まで一呼吸で駆け抜けた眼鏡氏に、続けとばかりに僕らも仰臥累々の鎧かぶと達を避けつつ跳び越えつつ走り出す。


 うん、確かに身体が思った通りに軽やかに動く……そして「能力」も結構縦横無尽だ。これならいけるかも……かな、カナカナカナ……「カナエ」ェェ……


……こうして遂に、なし崩し感ありありながらも、僕らの冒険の、戦いの火蓋が。


 切って落とされたのだった……んんんんどうなるッ!?



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