Quanji-11:意外デスネー(あるいは、小鳥美味し/メラ化膿プス)


「俺は『タカアリ アリタカ』だ。よろしくな……」


 いや待って。


 すっと行こうとしたけど待った待った。何て? ついついヅオンさんの超絶能力の使い道に思いを馳せすぎていてスルーしそうになった僕がいるけど、相変わらず似合わないのにニヒルそれで押し通そうとしようとしてきた眼鏡坊主がさらっと言い募った名前にやはり引っかかる。と、


「いやいいから早く書けよ。お前だけハブんぞ? ちんたらやってっと」


 遠藤ダリヤが敵意剥き出しにも程があるほどの眉間に皺でそう吐き出すように言葉を連ねるけど。あ、やっぱ僕に対する時と何と言うかニュアンスというかフィーリングっていうのが違うな……とか、それは今はどうでもいい。「残り三分にゃ」とか猫神様が急かしてくる今、早く全員分の名前を登録しないと……ッ!!


「ああん? てめちょっとモデルだか何だかでちやほやされてっか知らねえけどなぁ、んんなのもう関係なくなんだからな? もともとは俺ら魂の三兄弟だけで組んでも良かったんだぜ? おめえが何かハブられ過ぎて泣きそうになってたからしょうがなく入」


 ああー、でもこれ相当相性悪いな……端から接点なさそうだし、モデルはモデルでこの非モテ陰キャは眼中無さそうだし、眼鏡は眼鏡でこういう系の女子を蛇蝎級に嫌ってそうだし……とか考えながらどうこの場を収めようかとか思ってた矢先に、いきなり眼鏡の言葉がばつんと途切れ、その骨ばった身体が伸び切って小刻みに震えだすけど。え?


「……お前こそ分かってねえなあ……これから『関係ある』のは『こいつ』の力とそれを使いこなす頭だけだっつうことをよお……」


 や、やっぱり「部首ラディカル」ッ!! 遠藤ダリヤがその白魚のような指で弄んでいた黒玉をこちらに向けてくる。そこには墨痕鮮やかなる文字……


<疒>


 とあった。「やまいだれ」……こ、これはまた、ちょいと病み気味の御方にぴったりと言えなくもない……いや、これまた応用範囲が広いラディカルだよいいなあみんな……とか羨ましがって場合じゃなかった。


「ラディカル発動<麻痺>っつぅわけだ。次に私をイラつかせたら<胃癌>とか<赤痢>だとかをブチ込むから口には気をつけろよ……?」


 や、やばぁぁぁぁアアッ!! 他にも「痛」とか「症」とかもっとシンプルに「病」っていう根源的にやばいのも控えとるし……というか「その部首を含んだ漢字を含んだ熟語」でも発動できるってことか……それは覚えておこう。まあ「鼎」使う熟語って何? って感じだけど、ヅオンさんのとかね。僕は多分後方待機の司令塔を目指した方が良さそうだ。そして、


 さ、サセンシタァ……と一気に卑屈になった眼鏡坊主が未だ震える指先で自分の名前をA4用紙に必死でのたくりながらも書き込んでいく。そこには、


小鳥捕食たかあり 在孝ありたか


 え? やっぱり、ええ?


「おい……ふざけてっと、<痔核><痔瘻>の二択から選ばせてやることになっぞ」


 遠藤ダリヤの完全にマウントを取りながらもイラつきを含んだ声に、ヒギィ、本当なんですぅ、由緒正しき旧家の出でして……ゲヒヒ、それが証拠にインプットされましたでげしょ? ねっねっ、というような激しくおもねってへりくだった言葉が気持ちの悪い脂ぎった面長の顔面から曇った眼鏡のレンズを共振させつつ放たれていく。確かに……認識されたみたいだ。しかし「珍名さん」だけ集めたと猫神様は言ってたけど……とんでもない苗字もあったもんだ……そして鷹が必ずしも小鳥だけを捕食するとも限らないと思う……


 阿保なのか? ええ? お前の名付け親こそ阿保なのか? なんで苗字と名前セットにしちまうんだよ、あ? とかいう、遠藤ダリヤのねちっこい責めにも愛想笑いでやり過ごしまくり通そうという構えのタカアリ氏だけど、よっぽどあの「麻痺」が効いたんだね……僕も言動には気を付けよう……


 しかしてその持ちし「部首」は何と<刀>だそうで。これまた強力……本人は<刀>と<刃>くれえしか無えし、熟語っつってもあんま分からんねえ……とかのたまってるけど、<りっとう>も含まれるんだよ、<刺><削><割>とか物理系思うがままじゃないの嗚呼何で僕にそういうの来なかったかなあ……


 僕の心中の慟哭を尻目に、残り時間はほんとにあと少し。急がないと。

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