Quanji-09:鉄壁デスネー(あるいは、またしても/おあずけせし/構築時空)


「さてですにゃ。パーティ組みはったならば、いよいよ飛びますなぉんッ!! おそらく我らを根絶やしにせんばかりに『七曜ハッゲ』の手下ども……『漢☆自演徒カンジェント』らが鼻息も荒く襲い掛かってくると思いますが、そこはそれ。『聖★漢字セカンヅ』を心に燃やし灯すことにより顕現されうる未知なるパウワァーで撃ち滅ぼすのです……」


 相変わらず猫神様の言葉は、要点をわざと掴ませないようにかと疑いかけるかのようにすらーり僕の側頭葉の外側あたりを掠めるばかりで全く頭に入ってこないのだけれど。とにかく敵さんがいて、何の因果か問答無用で戦わなければいけないと。それもいまだ使い方が杳として知れないこの「部首なんとか」発の「漢字力」みたいなやつで。


 うぅん……底辺部首「かなえ」をドン引いた僕だったけれど、たったひとつのアドバンテージはある……


 「現出」の仕方、みたいなのを体感しているということだ。さっきは泡食っていたばかりだったけど、猫神様の「光線」に根源的な恐怖を感じ、「身を護りたい」と思ったことは確かだ。その僕の気持ちに呼応して、あの「部首魂ラディカルソウル」とやらが反応してあの「三本脚トロフィー」(眼鏡坊主いわくあれが『鼎』そのものだぜ、だそう。よくそんな都合よく知ってたな……)が「盾」となるように「現出」した。


 ただそうすると「聖★漢字セカンヅ」って何? ってことになる。が、僕にはもうそのヒントは与えられている。推測だけど、自分の持つ「部首」を使用した「漢字」なんじゃないか? 「鼎」は「部首」……「部首魂」として僕に授けられたわけだけど、それ一文字でも「漢字」として成り立つはず。「鼎」という物体が現に存在することがそれを後押ししている。そして僕の脳裡に強烈に刻み込まれていた「鼎」の文字、それが「聖★漢字セカンヅ」としてそのまま発動した。たぶんそうだ。


「……」


 僕はこの乾坤一擲の閃きに思わず息を荒げてしまうが、待て。この情報はまだ伏せておこう。気付いていないヒトも多いはずだ。教えてしまうことで僕にとっては不利でしかないように思えるわけで。


 だって例えば「ひへん」が使えるヒトがいて、心の中で「爆」とか思い浮べただけで目の前のモノを吹っ飛ばせるとしたら……いややっぱり僕にアドバンテージなんか無ーい。


「……ただ気を付けないといけないのは、『聖★漢字セカンヅ』の一発を撃ち放つごとに絶頂オルガスムスから快感だけを差し引いた、まさにの『徒労感』が全身を襲いますので、ここぞという時以外に使うのは危険ですにゃ!! いくらサカりにサカった高一風情と申しましても、せいぜいあいだ一時間は置かないと次弾は装填できませぬと思えますがゆえ、くふふふ。まあ女子はその限りでは無いかも知れませんがね……くふふふふ……」


 猫神様の付け足して来た言葉も、その淫靡に歪んだ顔も怖ろしいばかりなのであるけれど。それより女子が有利? うぅんどういうことか皆目分からないよ……


 とは言え僕はその「徒労感」も先ほど体感している。なるほど、まだあれから十五分と経ってないけど、僕のメンタルはひどく凪いでいる……まるで賢しき者が如くに……何故か分からないけど今「聖★漢字セカンヅ」を撃ち放ちたいとは皆目思えないな……つまりはクーリングタイムが必要ということだろう。それなら……使いどころを見極めれば、僕でもまだ、立ち回りようはあるのかも知れない……


「そしてもうひとつだけ、『パーティ』の仲間同士の間で、『十七文字』だけ、頭に思い浮かべた言葉を『送受信』できる能力を皆様に平等に授けますなぉんッ!! この『ココデイック=ツイター』を使いこなせたものが、この世界を統べると言っても過言ではありませんのにゃん……」


 どんどん盛られてきて先が見えそうもない事前説明まえせつに、いやもう始めませんか的な、ここにいる皆のみならずそれを俯瞰せし者たちの総意をも代表せんばかりのおそらくは猫神様の逆鱗触れワードを思わず口走りそうになってしまう衝動を、口の中で舌を思い切り噛むことで堪えるばかりの僕がいる。


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