Quanji-08:存外デスネー(あるいは、あるがまま/ほぼ日刊/属性博覧会)


 「異世界」へと至らないまま……「次の間」的なこのピンク雲空間にて僕の転移譚が終了しかけた、


 まさにの刹那であった……


 白い閃光が、握っていた「黒玉」から発せられた。と思った瞬間には僕の胸の前辺りに「何か」がいつの間にか出現していて。


「!!」


 猫神様発地獄行であろうはずの無数の青白く細い光線を、まるで僕を護る「盾」のように立ち塞がる(?)と、その逐一をその前面に受け止めていたのであった……


 というのは言い過ぎで、中途半端な大きさの「三本脚のトロフィー」のような見た目のそれは、かろうじて僕の顔面と首、胸辺りまではカバーしたものの、そこから逸れた光線の大部分は僕の身体の表層に点在する痛点総数の三分の二くらいに無情にも精密に撃ち込まれていたわけで。次の瞬間、


 巨大ながら細かに棘が密生した剣山と剣山の間に挟み込まれたかのような、その上で下手に入った採血針が時間の経過と共に表皮の下を這うように痛覚を広げていくかのような、痛みにより立たせられた鳥肌の一粒一粒にもれなく律儀に潰すように刺してくるような、そんな激痛という文字を具現化したかのような痛みが僕の末端神経を中心に爆ぜるのであった。


 ばーにゃかうだぁぁぁぁ、のような呻き声が虚空に吸い込まれていくほどの絶叫を残し、僕はその現れた青銅色の「トロフィー」を抱え込むように凭れかかるようにして白目で自分の机の上に突っ伏してしまうのだけれど。


「……あにゃ、これは驚き……説明もしていないのに『部首ラディカル』を使いこなせるヒトがいるなんてにゃん♪」


 猫神様の驚嘆、みたいな声が薄れゆく意識の中、走馬燈のように僕の脳内を巡るけど。驚愕びっくりはこっちの台詞だよ……


 何とか呼吸を整えると、不思議と痛みが去った後は何もダメージが残っていなさそうな自分の身体を擦りつつ、しかして全身に走る疲労感と爽快感と罪悪感を等分にしたかのような何とも言えない体感に戸惑うばかりであって。と、いつの間にか両手で掴むようにしていた例の「トロフィー」がいくつかの白い「光の玉」に分裂してから、机に転がっていた「黒玉」へと吸収されていくのを見て取る僕。やっぱりこれが……「発動」したと、そういうことなんだろうか……


「心の中で『聖★漢字セカンヅ』を思い浮べ、それに『敵を攻撃する』とか『自分の身を守る』、とかのイメ―ジを重ね合わせるようにする……漠然とですが、それが『現出』のコツですにゃん♪ 実戦で開花することが多いので、まま、それはこれからこれからですにゃ。ともかく!! 仲間パーティをささと組んでいただいて……出立していただこうと思うのですにゃん……ワタシノ……理性ガ保テトルウチニ……」


 猫神様は今の今のことを無かったことにしようと思ってるのか、進行をつつがなく進めようとしてくるけど。その猛禽のようにつり上がって感情を失くした猫目は、僕の背後に向けられているような気がして。いやぁもうやめましょうよぅ……


「……んの」


 とかもうお手の物になっていた追従笑いを顔面全土に浮かばせながら、猫神様に従順なる姿勢を見せていた僕の背後からまた遠藤ダリヤの不機嫌そうな呟きが。いやいやいや、今の眼前で見てたでしょ? 見た目以上に激痛だから!! ここはもう流して……


 と、諫めるように、しかして高そうなプライドを刺激しないように、僕がこれまたへりくだり指数が高そうなへつらいの笑みで振り向き、まあまあと宥めることに全精力を込めようとした、


 ……刹那、だった。


「なにカッコつけてかばったりしてんだよ、こッ……のドチビがァッ!! べ、別にアンタなんかに守ってもらわなくたって、全ッ然、平気だったんだからねッ!! バッカじゃないのッ!? バァカこのバァカッ!!」


 あっるぇ~? 何かこちらを真っ赤な顔に潤んだ瞳で見つめられながら、その美麗な右手の人差し指を突きつけられながら、そんな怒りと恥じらいの混ざったような叱責を浴びせられたよここがもう異世界ど真ん中だよ……


 とんでもない希少属性ツンデレを供されながらも、僕は何というかの、うん、ドキドキが止まらない……これも……いきものの性癖サガか……


「……」


 とか、混沌真っただ中のそんな中、そのやり取りすら無かったことのように、周りのヒトたちは粛々と僕らと関わり合いを避けるかのように速やかにグループを作っていたわけで。そして結局。


「フッ……やはりこうなることは運命だったってわけかい……よろしく頼むぜぇ、相棒」


 変なニヒルキャラを前面に押し出して来たあの眼鏡坊主は当然のこととして、


「オー、なんか面白そうなコトになってきた感じしゅますねー」


 善人感ハンパないけど、やっぱり意思疎通難しそうと思われたかの外国人留学生の方と、


「……足引っ張んなよな」


 おそらく敬遠以上の持て余しそう感により皆から丁重に疎外ハブられし美少女モデルと、


「……」


 そして真顔で佇むほかない僕と。以上のおみそ四人衆による異世界パーティが、いま、正に結成されたのであった……!!


 いや、どうなんのこれェ……


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