Quanji-06:複雑デスネー(あるいは、gotcha!!/漢字忍法ひとりの打)


 「遠藤ダリヤ」は僕のような二次元代(2~2.5くらいまで含む)のみに興味と造詣と愛がビチアス級に深い層でも知っている、つまりは当代随一の現役高校生モデルである……ッ!!


 三次元とは思えないほどの曲線形状フォルムの完全さ、いや完全そうでいて実は絶妙なる左右非対称的アシンメトリックな造作が、動きや角度を加えられることにより見ている者に酩酊のような印象を与えるという……AIでも弾き出せないような、そんな完璧パーフェクトで無いがゆえの完璧パーフェクト外観の持ち主なのである……ッ!!


 しかして、傍から見ても多忙なるスケジュールなのに、高校になんか通ってる暇があったのかな……本日その御身に付けられているのは確か……(脳内DBアクセス中)……「私立渋谷スペイン坂高校」の「春服ブレザータイプ」と見た……シス高に行ってるなんて情報は出てないはず、いや何らかの撮影なのか? であれば先ほど猫神様が言っていた、全国津々浦々の「高校一年生」を集めたという言葉が偽りということにはならないだろうか……


「もういいや、どけ」


 しかし僕含めた周りの目もあろうなのに、乱暴な言葉遣いと態度だな……いやまあ落とし込まれている環境からしてもう現実味が殊更にないことは分かってるけど、もうなんか諸々気にしていない体で振る舞っている……いやそうか?


 よく考えるんだ。荒唐無稽この上ないこの「世界」に引きずり込まれた僕らだけれど、であればもうそれに順応していく他にないんじゃないか……? 初っ端の猫神発言にも「殺し合い」だのという物騒単語が埋め込まれていたわけだし、その後の眼鏡坊主を貫いた摩訶不思議な力も尋常じゃあなかった。そして何とかとかいう輩をブチ倒すとか何とかとも。


 考えろ。「漢字」云々っていうアドバンテージにつられ舞い上がって現況を深く把握できていないのは誰だ。今までの「現実世界」でのことは全て振り切って、この目の前の事態に。


 ……集中対応しろ。やり直せる好機チャンスと、自覚するんだ。


 唐突に沸き起こって来た自分でも理解不能な熱情に驚きながらも、業を煮やして僕を無言で押しのけてきた遠藤ダリヤのその華奢なる御右手の甲が僕の左二の腕に触れた瞬間思わず出てしまっていたアヒィという劣情を如実に表現した声に我ながらキモいと慄きながらも。


 僕はここに来てやっと自分の肚が座ってきたことを実感する。どんなに荒唐無稽だろうと、それが世のことわりというのなら!! それを踏まえ最善を為す……ッ!! そうすれば結果ハーレムは必ずついてくるはずだ……ッ!!


 意(煩悩も多分に含んだ)を決し、巨大な籠状球ビンゴイック装置マシーンの前に立つ僕。いい引きを見せてくれよ……これまでの人生でさしたる幸運があったわけではない平凡未満民の……異世界に招かれた時から徐々に上向いてきている(だろう)、ここ一発の運勢のエクスプロージョンをぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!


 無駄にいい顔と脳内音声ボイスにて、ひとつ前に淡々と回していた遠藤ダリヤの手のぬくもりがまだ残っているはずの内に、その把手を握って思い切り回す。思ってたよりも地味な軋み音と演出のカケラも無い絵面のまま、ころり出て来たのはこれまた飾り気皆無の野球ボールほどの大きさの「黒玉」だったのだけれど、その辺は関係ない。関係あるのはそこに書かれた文字……いやさ、僕の異世界英雄譚の礎となりし、究極能力「部首魂ラディカルソウル」なのだぁぁあああああッ!!


 淡白な演出を自分の中で高め昇華しながら、僕は掴んだ玉に書かれた「部首」を焼き付けようと大仰にぐると手首を返し、いつもは細い目をカッと見開いたのであった……


 しかし、だった。


<鼎>


 そこに紋様のように描かれていたのは、思てたんとちゃう指数がいやがって必死で抵抗してくる閾値を強引に押し倒してがばと開かせたところを無理やり貫いたかのような、準一級じゅんいちくんの知識をも遥かに超えた高みに位置する部首もじであったわけで。


 え、「かなえ」? かなえ、て、ええ? えこれ部首だっけ、ええ? え何これ……


 引き潮のように顔面から血の気が失せていくことを、固まってしまった大脳の片隅で何とか知覚するばかりの僕であるのだけれど。


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