Quanji-02:強引デスネー(あるいは、金輪絶対/始まらない時空/光あれ)


 ネコォルと名乗った、その華奢なりしもいづるとこはいずっているといった健全高校生の脈動をいたずらに乱してくるような肢体に、何故かぺらぺらの素材感の明るい水色と黄色に近いクリーム色のツートンという、虚構フィクションでしかお目にかかれない、いや今日びそこですらなまなかには巡り合えないような色づかいのセーラー服を背徳感と共に身に着けている、いまだ玉座らしきものに片肘を余裕げに突きつつ、その「猫顔」と称すと割としっくりくる童顔なんだけどその下の首年齢がさほど隠せていないから何かそのグラデ違和感に二度見を催されて却ってその実年齢を深く吟味されてしまうだろう的な、それでいて愛らしさも確かに宿す整った顔に意味不明の「待ち」めいた妖艶な笑みを浮かべた正体不明の妙齢女性は、その前に相対している40名がとこくらいの様々な様態の学生服を着こんだ面々が一様に困惑の沈黙を保ったまま固まっているという状況に気付いているのかいないのか、それともその無反応を畏怖やら畏敬やらと履き違えてしまっているのか、それともなにがしかの反応を見せない限り、物事を先には進ませまいという、権力を持ちし者に特有の傍迷惑な傲岸メンタルにていつまでも待つ構えなのか、そこは皆目分からなかったものの、何かもうこの重力を宿してしまったかに思える空気が僕の睫毛にまでその微細なベクトルを子細に落としてくるようで、もう何が何やら何とやらなのであった。が、


 刹那、だった……


「いやぃやいやいやいッ!! いやおい何だっつうんだよ!! おいこれ!! おおぽっつりイカれてやがんのかぁッ!? おいお前だよそこのサイコパスッ!! ととと早く俺らを解放して所轄に行」


 僕の斜め右前で同じように学校の机椅子に腰掛けていた、ひょろ長い体躯の男子高校生(多分)が、思てたんのよりも大分イキれかたが堂に入った感じで、さらにイキレテンプレ集の第二巻冒頭くらいに記されていそうな、「椅子の上に立ち上がり、机の天板に片脚をだんと叩きつけるように踏み込みつつ怒鳴る」という様式美を踏襲しながら、それでもこの重苦しい空気を打ち破るかのようにそう、変声期は確実に終わっているもののテンション高まると素で金属質の裏声が金切ってしまう残念な声質ながらも果敢に斬り込んでいってくれたものの、突如としてその気障りな胴間声がふつりと途絶えるのであった。それは、


「……!!」


 全てを見越したかのような「猫顔」のあざといほどにアンニュイな溜めを作ってからの長い右人差し指の先から放たれた一条の細い青白い光線が、怒鳴り散らすイキレ学生の心の臓辺りを即応で貫通していたからであって。無言で引っくり返り、よせば良かったのに一段高い所に登っていたもんだから、その昔の高校球児のような青々とした坊主の後頭部を、自分の椅子と後ろの女生徒の机の隙間に上手に挟み込ませるようにして、そのまん丸のレンズの眼鏡の奥の細い目を白剥かせながら、そのイキレくんは、果てた……そして、


「無礼者は……成敗。これ異世界の常識ルールなのよね……」


 先ほどまでの愛くるしい笑顔は吹き消され、ただただ対峙する者たちに平等に恐怖を表皮以深、真皮の中奥までつらりと刺し込んでこんばかりの、冷徹を通り越したかのような無感情のがらんどうな表情が、そこにはあった……


 十六年間生きて来て初めてのどうあがいても呑み込んでくるだろう波濤が如きの恐怖感に、まばたきすらしたら殺られるかもくらいの慄きかたをしている自分を、さらに俯瞰するように見ている自分をも感じるばかりなのであるけれど。


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