第3話「猫になった俺」

 田中は顔を触りながら、掌をにぎにぎとしながら現実を見る。

「どうして猫になっちまったんだ。俺は人間だったはずだろ」


「ふん、だから言っただろ。あのくそチート神のせいだよ。俺の元は人間でこんな猫の姿になっちまった」

 鼻息を荒く大柄の猫は歯をキリキリとしながら言いながら続ける。

「俺様とお前は境遇が一緒ってわけだ。あの神のおかげで俺様は……ぐぬぬ、考えただけで腹が立ってくる」

 大柄の猫は自分の頭を手で掻き毟る。歯を食いしばり、興奮しているのか時折、ハアハアと言っている。


 そんな姿を見て、同じ境遇の仲間が居たことで、田中はひと時の安心感を得た気がする。


「俺の名前は田中圭たなかけい、同じ境遇のやつに早々出会えてよかったよ」


 大柄の猫は深呼吸を3回ほどして、落ち着いたのかこっちに身体を向けて、

「ああ、俺様の名前はゲインズ・アルベルトだ。よろしく頼む」


 お互いにギュッと握手をして、心細い田中の心は癒される気がした。そんな中、ゲインズは田中の心を察したのか、田中の手をすりすりと触ってくる。


「……なあ、ちょっと触りすぎじゃないか?」

 田中はゲインズにツッコミを入れると、ゲインズは舌を出しながら、

「すまない。お前さんの気を考えたら心細いかなっと思ってな。あ、そうだ。ここに居たって何にもなんねえ、それより俺様のアジトに行くか?着いてこいよ」


 ゲインズの提案に言われるままに、田中は着いていく。

 田中は少し落ち着きたい気持ちもあった。人間だったはずがいきなり連れてこられた世界で猫になっている。こんな不可解なことあっていいのだろうか。いや、良くない。絶対にチート神と言う女を探し出して、この訳のわからない状況をなんとかしてもらわないとと、田中の中で怒りが込み上げてくる。


 少し歩いたところで、ゲインズは足を止めた。

「ここだ。こっちに来い。お前さんを招待してやる」

 ニヤリと笑みを浮かべながら、田中の手をギュッと握った。田中は「何しやがる」と言いながら抵抗するが、やはり大柄のゲインズだ。力が強く、抵抗できない。田中はギュッとゲインズに睨みつけた。気づいたゲインズは手の力を緩めずに、鼻でフンと笑い、田中の耳元に顔を近づける。

「そんな目をするな。もっと肩の力を抜いて、そう悪くはしないさ。痛いのは一瞬さ」

 そう言いながら耳元で息を吹きかけてきやがった。

「な、なにしやがる。気持ち悪いじゃねーか……ぐふ」


「もううっさいな。お前さんはちょっと落ち着きと言ったものを知った方がいい」

 ゲインズは田中の首筋を軽く叩いた。ただ田中にとって意識を朦朧もうろうとさせる一発には十分すぎるものだった。

 次第に田中の目線が歪む。バタンと床に倒れ込むと同時に田中の意識は失った。

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チート神からの誘いを断ったら猫になった件 誠二吾郎(まこじごろう) @shimashimao

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