final & prologue.

 目が覚める。


「それだけが私の、なんだ。なにが私の」


 涙を拭って。忘れてしまった手の感覚を。彼の頬を。思い出そうとしながらまた日々を始める。


 今日は、どんな依頼者が来るんだろうか。


 扉が開く。


 男性。


「ばかじゃないですか?」


 いきなり。


「こっちは夢の中だと喋れないんだから。まず、名前と住所を」


 抱きついてきて。


「本人確認できる情報を言ってくださいよ。なんでいつも、ほっぺたに触ってお話しするだけなんですかっ」


「うそ」


「しかも同業他者だし。そりゃあ見つからないわけですよ」


「あの」


「おはようございます。ホストと彼女の件。よかったですね。そういう、なんか変なところで優しいところも好きですよ。俺なんか、あなたを探す以外は泥にまみれてのハードボイルド小説みたいな日々でしたから」


「ハード、ボイルド?」


「いや。知らないならいいんです。あらためて。ようやく逢えました。はじめまして。好きです」


「あの」


「どうぞ。ほっぺたでしょ?」


 やわらかく、それでいて硬い感触。


「ずっと。ずっと逢いたかったのに。わたしは」


「だから最初に名前と住所を言ってください。自己紹介は大事。とても大事」


 もう。


 立ち上がれない。


「あ、そんなに泣く感じですか。まいったなあ」


「逢えた。うれしい。うれしいです」


「そりゃあ逢えますよ。同じ夢見てんですから」


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夢と幻想 detective. 春嵐 @aiot3110

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