聴聞師

坂崎 座美

第1話 始めに言葉があった……。

 懺悔聴聞師ざんげちょうもんしという仕事が生まれたのがいつごろからか、定かではない。ただこの過酷な世界にあって、その仕事には一定の需要があったのだろう。人はみな赦しを求め、彷徨っている。他ならぬ懺悔聴聞師自身もそうなのだ。


 その懺悔聴聞師は名をヨハンといった。誇り高い聖人から取られた名は彼の誇りであった。彼の村は十年前にオークなる怪物の群れに焼かれ、孤児となった彼は修道院に引き取られた。


 修道院には彼のような境遇のものが多くおり、他の修道院でもそのようなことは珍しくなかった。多くのものは修道院で手に職をつけ、社会へと舞い戻っていく。そして、そのうちの一部は再び怪物に襲われる。それもまた、珍しいことではなかった。


 ただ、中には不屈の精神と明晰な頭脳を見出され、懺悔聴聞師として世界を飛び回るものがいた。そのうちの一人がヨハンである。


 彼らに何か特別な力があるわけではない。最低限の自衛の法こそ身に着けれど、怪物の襲撃や戦争の中で身を守るにはあまりに不十分である。しかし、懺悔聴聞師は牙はなくとも信仰によって、任務を遂行していった。故に、村々で彼らは尊敬と畏怖をもって歓迎されるのだ。


 時の総主教がウルバヌス聖下であった時、ヨハンは懺悔聴聞師に任じられた。誇りとともに十字のしるしが付いたバッジを受け取る。これによって民はヨハンが総主教より懺悔聴聞の任を賜った正式な使いであると認識する。


 彼が最初の目的地としたのは彼の故郷の隣にある村。アストリアだった。

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