第2話 いと高き所には栄光……。

 ヨハンがアストリアまでの道を行く間にも、数度怪物の小さな群れと遭遇し、その度に近くの茂みに隠れてやり過ごした。多くの懺悔聴聞師は怪物に襲われ、あるいは山賊に襲われて四十を待たずに死んでいく。


 アストリアは小さな村だった。小麦を育てるための農地もそう多くなく、人口も二百と少しの集落であった。ヨハンも数度父に連れられてアストリアまで行ったことがあったが、何もない村であったから大層退屈した。


 村の見張り塔が向こうに見えるので手を振って合図する。身に纏ったキャソックから懺悔聴聞師であるとわかるはずだった。村がある小高い丘の中腹程まで来ると、武装した数人の男が出迎えてくれた。


 害意があるわけではもちろん無く、昨日ゴブリンの大群が村の近くをかすめて以来、警戒しているらしかった。


「聴聞師様、来ていただいてありがとうございます。こちらには懺悔したいというものが山ほどあるのです」


 出迎えの一団の中には村長もいた。村長は人のよさそうな笑みを浮かべ、ヨハンを村の中へと引き入れた。


 村に入ると広場に通され、男衆によって天幕が張られた。中に小さなテーブルと二つの椅子が運び込まれ、懺悔室と看板が立てられた。


「さあ並べ、聴聞師様がいらしゃっている。懺悔したい者、相談したい者は献金を忘れんように」


 随分と現金な呼び込みだったが村長の言に違いはなく、多くの村人が小銭を携え、金を持たぬものは作物を持って天幕の前に並んだ。


 ある者は仲間を見捨てたことについて、ある者は隣人の金を盗んだことについて。ヨハンの仕事はすべてを聞き遂げて、必要なら償いを命じ、そうでないなら「お前の罪は赦された」と告げることだった。


 そうしたことを数時間続け、今日はこれで最後にしようと決めた男がやってきた。ヨハンは慣例通りに「主の平和」と挨拶したが、彼は聞いてはいなかった。


「聴聞師様、どうか聞いてください。私はかつてこの村の村長でした。しかしながら私はある事件によって村長の位を降ろされたのです」


 男は入ってくるなり、そう喚いた。

 ヨハンは半ばある事件が何なのかわかっていたが、男がしゃべるに任せていた。

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