第19話 小織の巻
大嘗祭は、しかし橘の懸念を
新たな帝はその暴虐な性癖を表すことなく、至って神妙に儀式を演じたのである。心動かすこともなくそれを見届けるとすぐに橘は青海郎女のもとを訪れ、
「それは・・・寂しくなりますこと」
青海郎女は心もとなげに橘を見遣ると、
「時には新しい宮を
と縋るように言った。新たな宮は長谷の
長谷・・・。いい思い出の一つとしてない場所であった。その地に設けられた朝倉宮で殆ど幽閉されたまま乙女の時を過ごしたのである。その地に戻るつもりは全くない。だがそう告げたら青海郎女は傷つくであろう、そう考えた。
そそくさと近淡海へと
新帝の暴虐な政の噂は外とのつきあいを絶った橘の耳にさえ、時折入って来た。罪人の生爪を剥いで芋を掘らせたとか、或いは髪の毛を抜き木に登らせてその木を切り倒して愉しんだというような
しかしもっとも聞くに堪えなかったのは
いや、噂ではないのかもしれない。一度きりしか会ったことがないが、あの時、機織り女のほとを梭で突き刺すようなことをおっしゃっていたではなかったか。
そんな話が流れていることを知ったら青海郎女はどんな思いをされるであろうか?兄の子供が二人とも生きて見つかった時の溢れるような笑顔を思い浮かべ、自分が暇を申し出た時の寂しそうな横顔を思い出しては、今のあのお方の心労はいかなものかと思いやった。
だが・・・。どうにかしてお力になりたいという思いは、長谷の地での忌まわしい思いにどうしても克つことはできなかった。
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