第7話 王女誘拐②
賊の集団は引き上げようと踵をかえした時に周囲の空気が一気に冷え込み、辺りは白い靄がかかりはじめた。
「頭!何か妙に寒くねぇですか?」
「ああ。確かにそうだな!!この時期の気候にしてはおかしい!!」
周囲の気候の変化に元騎士長は気づいた。それと同時、魔獣も吠え始める。
「ガゥッ!!ガゥッ!!」
魔獣が吠える方向を全員が見つめていると、5匹以上いる魔獣の全部が森の奥から飛んできた氷の槍が刺さり後方に吹き飛ばされた。
「なっ!!」
賊と元騎士長はその一瞬の光景に驚いた。
「やはり頭!!追ってが来てやす!!」
「なに奴!?姿をみせろ!!」
賊の集団は警戒態勢に入り、元騎士長は氷の槍が飛んできた方を見て正体を探った。リリーナ姫も虚な目でその方角をみつめた。
すると、真っ暗な森の奥からゆっくりとこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。
その足音に賊の集団と元騎士長は只者ではない何かが近づいていると感じ、生唾をごくりと飲み込みながら待ち構えていた。
足音が近くなると月明かりにより、薄々と足元から徐々に姿が見えるようになり、前身を確認すると一同は畏怖の感情を抱いていた。
その姿は、全身が黒色で銀色の装飾をちらつかせた外套で顔を覆い、顔には銀仮面が際立っている。しかし、その者から発した言葉は緊張感のない気の抜けた声だった。
「魔獣が居たが大丈夫だったか!?」
「えっ!!……あ…ああ……」
周囲が呆気にとられたが、黒装束の男は変わらず話しかけてくる。
「いや~危なかったな~ちょうどこの辺を通りかかってよかったよ~」
賊の一人が元騎士長の耳元で他人に聞こえないような声で会話していた。
「頭。どうしやす?あいつ魔獣に襲われていたと勘違いしていやすぜ!?」
「ああ。先ほどの魔法只者じゃないな。話を合わせてさっさとずらかるぞ。女を麻袋にいれて隠せ!!」
「了解しやした。」
賊の一人は気づかれないようリリーナ姫に近づき麻袋に隠し、元騎士長は黒装束の男に近寄って急に声のトーンを上げ親しみのある声で話かけた。
「いや~助かったよ!!魔獣に襲われて困っていたんだ。ところで君はすごい魔法を使うね。さぞ名の知れた魔導士ではないのかい?」
「いやいや名乗るものじゃないよ。それに俺は魔導士ではなくハンターだからね!」
「なるほど!!ハンターか!ならこの近くで依頼でもしていたのかい!?」
「ええ!!ちょうど今から依頼をこなすところです…」
「そうか。なら邪魔をしてはいけないね。先ほどはありがとう。健闘を祈るよ!!」
元騎士長は物腰の柔らかい態度で話を終え、踵を返した。すると、黒装束の少年から怒気のこもった低い声が彼らの足を止めた。
「待ちな!!!言っただろ!依頼をこなしに来たと!!」
「………」
「あんた王都近衛騎士だろ!?なぜ王女殿下を拘束している!?」
「…………何をいっているんだい?」
「惚けるな。そいつが担いでる麻袋が何より証拠だろ!?」
賊の一人が担いでいる麻袋に指で刺しながら黒装束の者は問うた。
「ふっふっ。よくわかったな!!なぜわかった!?」
「俺を舐めるなよ。魔力を持っていればすぐに分かる!!」
「なるほど、お前は相当上位なハンターなんだろうな!?それでどうする?俺たちとやるのか?」
「一つ聞きたい。なぜこのような愚かなことを行ったのか?」
「さぁ~なぜだろうな?当ててみな!!」
元騎士長は自分が優位の状況であると思い、黒装束の者を下劣を笑みを浮かべながら答えてくる。
「質問を質問で返すな!!」
黒装束の者は取り囲まれている不利な状況でも毅然とし、相手を挑発するような態度で対応する。
「貴様!!状況がわかっているのか!?」
「まぁいい!!大体の予想はつく。状況から考えるにお前は裏切ったってとこだろうな。さっき合流地点を見てきたが死体だらけだった。死体はすべて不自然の状態ばかり、後方から切られた傷と剣に交えた痕跡もなし。なら不意打ちに後ろから遣られたと推測でいる。そして、国境付近での騒動となれば王都側ではなく帝国側の人間が関与している。違うか!?」
黒装束の者は的確に相手の背景を推理した。
「ふっふっ!!あはっはっはー!わかっているじゃないか!! そうだ正解だ!見事な慧眼だ。お主は何者だ?名を聞いてやる。」
「屑に名乗る名などない!」
「ふん!!まぁいい。どうせここで始末するんだ。名を聞いても仕方ないな。でもどうする?形勢が有利なのはこちらだぞ!!」
すると、賊の魔導師が先ほどの魔獣を再び召喚し、賊の一同は黒装束の少年を囲うように陣形を取った。その後ろで元騎士長がこちらに構えている。
「この人数に対してお前は一人だ!勝ち目はないぞ!!!」
「屑が束になっても屑なのは変わらん!!」
黒装束の少年は冷静に相手を煽る。
「貴様!!立場を理解していないだろ!?ここに居る奴らは全員が魔導士だ!!いかに貴様が高度な魔法を使おうともこの数には無意味だ!!」
「ふん!!四の五の言わずにかかってこい!!」
「ヤロウ!!殺してやる!!
黒装束の少年の挑発で賊の一同は苛立ちの表情を浮かべていた。同時に魔獣は一斉に襲い掛かり、賊の全員は魔石を使って術式を展開しそれぞれ得意な火・水・土・風魔法を放った。
「どうだ!?これほどの数の魔法を防ぎきれるか?」
「造作もない!」
一言、言葉を発すと黒装束の少年はまず向かってくる魔獣の攻撃を交わした後、向かってくる魔法を術式の展開をせずに右手を挙げて言葉を発した。
「
黒装束の少年が唱えた後、目の前から襲い掛かる複数の魔法が消滅した。すると、すかさず再度襲い掛かってきた魔獣を氷魔法で凍らせ動きを封じた後、粉砕した。
「魔法が…消えたぞ……」
「……なぜだ!?」
「複合魔法の氷魔法を術式を使わずに繰り出すなんて……」
「あっ…ありえ…ない」
「くっそ!!なんだこいつ!!」
黒装束の者は呆気に取られている賊の集団に対して、「
賊はその一瞬についていけず気づいたときは数名の仲間の首が目の前に転がった。その光景を見て、賊の集団は恐怖を感じその場を立ち去ろうと慌てふためいていた。
「うっ!うわぁああああ!!!!」
「ヤバい!!逃げろ!!」
「化け物だ!!!!!!」
「しっ!死にたくねぇ!!!」
賊の集団は黒装束の者に背中を見せながら走って逃げ始めた。
「助けてくれ!!!!」
「頭!!こいつは無理だ!!!」
「次元がちげぇ!!!」
元騎士長も黒装束の者の見たことない魔法と洗練された太刀筋を見て恐怖を感じていたが賊の頭ともあり、威厳を保つため表情には現さないように努力していたが、額には大量の汗が頬をつたって落ちていった。
「逃がすわけがないだろう!!」
黒装束の者は逃げ纏う賊を視野に入れ再度魔法を唱える。
「
すると、周囲の空気中の水分が次々に凍り視界は一気に冷たく白い靄に包まれた。逃げていた賊は手足の先端から凍りはじめた。
「うっ…動けねぇ…」
「どうなってやがる!?」
「これも魔法なのか!?」
「「うわぁああ!!!」」「「助けてくれぇ!!!」」
黒装束の者は元騎士長以外の賊の一同を首から上を自由にし、首から下は完全に凍り付けにした。そして、黒装束の者は一人だけ自由にしている元騎士長と対面に向き合う。
「さて。これで邪魔者はいない。覚悟はいいな?」
「おっ……お前はいったい何者だ?先ほどが繰り出している魔法も見たことがないぞ!!!!」
「知りたければ俺を屈服させてみろ!!」
「くっそがぁあああ!!」
元騎士長は平静を失いながら術式を展開して目の前に炎の槍を複数出現させ、その槍は逃げ場を塞ぐように黒装束の周囲から襲ってくる。
「くらいやがれぇぇええ!!」
「その程度、蝋燭の火を消すと同じだ!!」
すると、黒装束の者から円形に回る魔力が一気に周囲に広がっていくと、向かってきている炎の槍が凍りつき地面に落ちて砕けて綺麗に散った。
元騎士長は自分の魔法が効かないと分かり自暴自棄になりながら自分が持てる魔法を次々に繰り出した。
しかし、黒装束の者は氷魔法を使い魔法を次々と無力化していく。
「魔力が尽きたか……もう終だな!」
「ここでくだばってたまるかぁぁああ!!」
「最後まであきらめないのは良い心がけだ。」
元騎士長は帯剣している剣を抜き、黒装束の者へと襲い掛かり、刃を交えた。
「俺の計画を邪魔しやがってぇぇえええー」
「怒りに身を任せ刃をふるなんぞ愚かなやつだなお前は!!」
黒装束の者は刃を数回を交えると元騎士長に呆れながら後方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた元騎士長は何とか起き上がろうとするが激痛で立ち上がれず、土に膝をつき跪く状態になっていた。
「生き残る最後のチャンスをやる!!お前に指示をした奴は誰だ?話せば命だけは取らないでいてやる!!」
「……そ…それは…帝国の……」
元騎士長がしゃべり始めると元騎士長の影から何やら赤い点が二つが光り、一瞬に影から大蛇の魔物が現れ元騎士長を食い殺した。
「なにっ?」
クロードは影から出てきた大蛇に驚き、距離を取った。
最強の魔導兵器は人間 ゴン狐 @gonshu
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