第十一話 共犯


 ガラガラ




 有安ソナが言いかけた時、扉が開いた。 入ってきたのはアガサ先生とカスミ先生だ。




 「だ、大丈夫か!? ソナ! 怪我はないか? 」




 入って来るや否や、アガサ先生は大きな声でソナへの確認をした。




 「え、ええ、大丈夫です……。 その、ユウさんとハジメさんが助けてくださいました」




 「……! 」




 アガサ先生は驚いた顔で黙って俺の方を見た。 もちろん、アガサ先生も俺の家の事情を知っている。 きっと、有安のことをあんなにも憎んでいた俺が元とは言え、助けたことに驚いているのだろう。 俺は目を逸らした。




 「……そうか。 それなら良かった! うん! じゃあ俺はクラスに戻って終礼してくるからっ! っていうか、学級委員のやつらはお前らがいないこと知らなかったのか? まあ、間違いは誰にだってあるよな! すまんな! 」




 一瞬なんのことか分からなかったが、俺らの終業式の出席はアガサ先生は知らなかったということだろう。




 「お前らも落ち着いたら下校しろよ! じゃあ、カスミ先生、後はお願いしますっ! 」




 「……」




 カスミ先生は……何か考え事をして気づいていない。




 「……カスミ先生? 」




 アガサ先生が返事を求める。




 「……あ、はい! 分かりました! 後は任せてください」




 と、慌てて答える。 では と、アガサ先生は戻った。




 ガラガラ




 終礼という言葉を聞いたので、ふと時計を見る。 午前11時。 もうこんな時間か。 お腹空いてきたな。 そんなことを考えていると




 「ねぇ、君たち」




 とカスミ先生が質問。




 「何かおかしいと思ったことはなかった? 」




 ……おかしなこと? 今日一日おかしなことが起こりすぎて心当たりがありすぎた。




 「あの、もっと具体的にいいですか? 」




 俺は言う。




 「いえ、何もなかったらいいのだけれど……あなた、有安の者なんですってね」




 有安ソナに疑問の目線を向ける。




 「いえ、今は違います」




 力強くカスミ先生の視線を否定するようにそう言った。 カスミ先生は少し驚いだが、すぐに




 「……そうね、ごめんなさい」




 と謝った。




 「なんでそう思ったんですか? おかしなことがあるって」




 俺は質問した。 何故唐突に? すると、カスミ先生の目は一瞬で輝いて、




 「だって、こんな不思議なことがある日はまだ何かあるっていうのが王道じゃない? 」




 ……おや? もしかしてカスミ先生は残念な美人さんなのかもしれない。 結構重大な理由だと思ったのに……。




 「あ、先生! おかしな点、ありました! 」




 ハジメは……ずっと考えていたのか。 なんていうか、こいつも残念なところあるよな……


 


 「というか、僕らに起こったことがインパクト強すぎて目が届いてなかっただけなんですけれど……そもそも、どうやってケンは家庭科室から包丁を──」




 「え、包丁って」




 「あ、いやそこにある……」




 ハジメはカゴの上にある包丁を指差す。


 


 「まさか、その傷って、包丁の!? 」




 残念だった。




 「ええ、というか、最初に言ったはずですが」




 「ああ、……ごめんなさいね、その、有安の子……〝元〟有安の子が来てたもので、……インパクトが強すぎて興奮しちゃってて」




 いや、充分包丁の事件もインパクトあると思うが……まあ、人の感じ方は違うしな。




 「では、ハジメ君、続きを」




 「はい、つまりどうやって包丁を手に入れたかです」




 「んー。 なるほどね」




 確かに、家庭科室の鍵は職員室から取ったとしても、終業式の時間にどうやって抜け出したか……いや、それに限っては容易なのか? 現に俺らがそうなように。 でももうひとつ、どうやって包丁を手に入れたかだ。 包丁の入っている引き出しはさらに鍵がかかっている。 その鍵は家庭科の担当の先生方しか持っていない。 なにも、ケンが自分の家のものを持ってきたなら別だが……でも、その可能性は低いと考えられる。 家庭科室が空いていたから。 となると考えたくはないが、答えは一つ。




 「……だれか、共犯者の、先生がいる……?」




 ハジメがポツリと呟いた。

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