第十話 有安の過去
「私は、有安でも上の身分の者でした」
「戦後間も無くして、各都道府県に分布できるほどの人材がいる有安ですが……。 実は直接の血を継いでいる者はごく僅かなんです」
「……と言うと? 」
ハジメが問う。
「はい、最初の頃は有安家のみで子孫の繁栄を行なっていたらしいのですが、途中で今の私たちと同じ、一般人の方と結びつき、子を授かった者がおられまして……」
俺は有安ソナの『今の私たちと同じ』に少し驚いた。 意識、しているのだろうか?
「……そんなことは知らず、先祖が気づいた時にはもう遅くて、周りは直血と一般人の血が混ざった曲血の者たちで溢れ返っていました」
「そうして起きたのが第二次世界大戦です。 その中で沢山の有安の者たちが亡くなりました……主に、直血の者が」
「……?」
「驚いているかもしれませんが、仕方のないことなのですよ。 違う血を持つ者がいると分かった時から差別は起こりましたから。 もちろん、元々多かったのが直血の者ですから、曲血の者が差別を受けていたのです」
「だから、曲血の者が直血の者への復讐をする為に、密かに集会を開いていたみたいなんです」
「……私がこの間までいた有安、知っていますよね? 」
ハジメは頷く。 そりゃそうだ。 この日本の首都だ。
「権力の強い直血の者が何か重大な会議があると言って、曲血の者たちを周りの地方へ追い出したんです」
「そしたら……その会議中に空襲に遭いまして……それが後々調べてみると、曲血の者たちの仕業だと言うことがわかりまして……」
「もちろん、直血の者が滅んだわけではないのですが、人数は曲血の者より減りました」
「だから今、この日本を支配しているのは曲血の者たちなのです。 ……信じてもらえないかもしれませんが、直血の者はその重大な会議で戦争の終結について話し合っていたそうなのです」
「だから、直血の者達の改革には、独裁は入っていなかったのですよ」
「その物言いだと、ソナちゃんは直血の者かい? 」
「はい……その通りです」
その話が本当かどうかはわからない。 ただ、有安ソナの言葉には嘘が入っているようには聞こえない。 単に俺自身が驚いていると言うのもあるが……
だが。
「……だが、だからって直血の奴らが良いってわけじゃないだろ」
「……はい、それもその通りです……」
「何故、曲血の者がこのような独裁をするのか……それは私たちの先祖のしてきたことをこの国でしてやる……と言う、安易な、馬鹿げている考えだって言う話です。 ……ですから、根本的には直血の者による差別が悪いと言えます」
え? は? なんだそのゴミみたいな、幼稚な“理由”は……?
そんなものの為に俺らはこんな不自由な日常を過ごしていたのか……?
「……なるほど。 有安家の歴史みたいなものは知ることができたけれど、……何故ソナちゃんが一般人になったのか、その根拠を教えてくれる? 」
ハジメは“この”事実に驚いていないのだろうか……
「はい。 ……そんな独裁的なところが嫌になった、というのが一番の理由です」
殴りたい。
という思いが一番最初に来た。 嫌になったから、だと? 俺らに同情してんのか? 何呑気なこと言ってんだよ……。 と思ったが、どうにかその感情は抑えきれた。 それは、次の発言があったからだ。
何も知らない。 そのまま嫌になったり、攻撃したりはするな。
ハジメの言葉が横ぎる。
「それよりも大前提として、0番目の理由があります」
そう有安ソナは言ったのだ。
「それは──」
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