輝かしき未来のために

@taigasensei

輝かしき未来のために

 一人の女性の計画は政府にとって今までの考えを改めるいい機会となった。国として一歩大きく進めたのである。これはその事件の舞台裏の話である。

 大阪北区のとあるアパートでのこと。

 一九五四年、4月1日、この日はボクの誕生日だった。誕生日プレゼントは監獄だった。ボクは今日から囚人になった。ボクの名前は向山夢人という。ボクを担当する看守はどうやら新人らしい。この監獄は一人の囚人に対して一人の看守が担当していると考えられる。看守に一冊のノートをもらったので、今日から日記を書こうと思う。ここでの生活で自我を失うものが多いらしい。ボクは耐えることができるだろうか。

 一九五四年、四月一日、ワタシは今日から看守になった。ワタシの名前は空川陽和です。この日記はこの監獄の風習みたい。あと、リンゴ味のアメももらってうれしかったな。ここはとにかくひろかった。おもわず「ひろっ!」って声を出しちゃった。とくにすごいのが施設自体が十個に分かれてるとこ。お互いが一切関与しないようみたい。よくわかないこが多いけど、がんばろうっ!

 4月2日、起床は7時、思っていたよりも遅く朝飯は看守さんが作ってくれるらしい。しかも、看守さんは若いし、美人だし、ボンッキュッボンで男のハートはイチコロだろう。

しかし、看守である以上、いらぬ感情を持たないようにしなければいけない。そこからは一日中、身体測定だった。楽しいのは朝の時間だけ、あとはただ同じことの繰り返し。囚人だからって飯は朝だけなんてひどかった。筋トレにはなったが、特に得られたものはなかった。あった。人がいた。囚人同士仲良くなれるかはわからないが、気晴らしに話したい。明日、頼んでみよう。二日目、お疲れさま。

 四月二日、なかなかいい体つきだった。身体のほうもなかなか。健康そのもので身体測定もアスリートほどではないが、一般男性の中ではトップだと思う。平均を知らないけどねw薬もしっかり作用されていた。効果は12時間、日記を書き終わった後、気絶したように寝たのでたぶんそれくらいだと思う。これはあくまで感想ですがこれ日記じゃなくて報告書ですよね。わざわざ日記って言った理由、ちゃんと教えてくださいね。初仕事、おつかれさま。

 【日記といったのは謝ろう。ただこれは国家再重要機密のため、うそをついた、すまない。報告ご苦労、引き続きがんばりたまえ。】

 4月3日、囚人さんとは話せなかったけど、今日は三食食べれた。なんで機能はなかったのか不思議だけど…ま、いっか。ご飯の後、何をやったか覚えてないけど疲れたんだろう。ちょっと早いけど寝よう。今日もお疲れ様。

 四月三日、薬効きすぎです。ご飯を食べてからの記憶がない。ご飯のことしか覚えていないのは薬が入っていたからだと考えています。明日からでいいので使う薬の作用を教えてください。ワタシが量を調整します。ワタシの囚人なんで。あと、ワタシに最初にくれたアメ、あれ何の薬ですか?あれ食べてからなにも感じなくなってます。ちゃんとおっしえてくださいね。

 【報告ありがとう。健康な身体を作り、脳の記憶機能を低下させる。これが本当に終わっているのなら次は仕上げにかかる。ちなみに君に使った薬はⅠQを底上げする薬だ。感覚がないのは、気のせいだ、ただの欲求不安だろう。明日はあの男で遊んでもいい。君の任期ももうす ぐ終わりだ。励めよ。】

 4がつ4にち、きょうはそとであそんだ。ひとりでさみしかった。またおねえさんといっしょにあそびたいな。

 四月四日、最後の薬である知能低下の薬も作用していました。多少言葉遣いは大人ですが、明日には赤ん坊同然になっているでしょう。そして今までの薬も三食すべてにいれました。一日の様子と日記も確認して、薬がしっかり効いていると思われます。夜の楽しみと思って媚薬を最後にいれましたが、知能が低下していたせいで反応がまったくありませんでした。少々改良が必要だと思いますが、先ほども言った通り薬自体は効いていると思われます。明日はどう過ごせばよいか、教えてください。

 【お疲れ様です。被験体はあした回収に行くのでそれまで待機してください。起こさなくて結構、6時にはそちらに行きます。今後どうするかはあなたが決めなさい。お疲れさまでした。あとは任せなさい。この報告書は今までのものも含めて処分しておくように。このあと、薬が送られます。それをちゃんと飲んでおいてくださいね。おやすみ。】

 「所長、おはようございます!」

いい朝だ。所長がついたと同時に日が昇った。この美しさは何とも言えなかった。

「朝からご苦労さん。今すぐにでも被験体に会いたいが、とりあえず飯だ。腹が減っては戦はできんからなー。あ、昨日の薬は今までの薬の効力を無効化させる薬ね。」

大人の余裕を見せる所長に女性の私でもうっとりしてしまった。

 7時過ぎ、とうとうこの時が来た。これが終わったら私の仕事も終わり。でも私は所長についていきたい。これからどうするか…ワタシはこれからもなたについていきたいです、思いを胸に牢のカギをあけた。私の視界は真っ黒になった。

「本当は私だって、こんなことしたくないのよ。でもね、邪魔ならしょうがないわよね。だから私のために、日本のために、おとなしく死んでね。」

空川日和、享年19歳。

 「今日の午前9時ごろ、大阪の芥川下流付近で女性の遺体が発見されました。名前は空川陽和、19歳で流されているところを学校に行く少年たちに発見されました。遺体は目がつぶされていたことから事件として捜査しています。この事件についてジャーナリストの多田さんに聞いてみましょう。多田さん、お願いします。」

「はい。えーこの事件はでs…」

「まだばれてないみたいだね」

「あたりまえよ、もし私がやったとばれても、警察の失態をさらすのと同然だもの。あとは私たちがこの日本を変えたらいいだけよ。」

大阪難波はいつも混んでいる。終戦してから日本は変わった。いきなり平和を願い始めて気色悪くなってる。そして、国は国民ではなく軍人や警察が仕切るからこそ素晴らしい国が生まれる。失敗したならまたやり直せばいい。だが、このままでは日本はアメリカの言いなりになり、美しい日本がけがれてしまう。そこで私は一つの計画を立てた。その名も「大阪難波薬物占領改革計画」である。この計画もひとえに私の力があったからこそ計画できた。ただの一般人である二人を巻き込んだのは少々罪悪感を感じるが、これも計画のため、尊い犠牲だろう。想定外だったのは幻覚薬と記憶停止薬が効きすぎたことぐらいだろうか。 まあ、この男にはまだ価値がある。この身体は貴重な研究材料。ここまで来たらもう戻れない。

「エデンの使うタイミングはいつにするの」

今までの薬の集大成『エデン』はこの計画の最も重要な薬である。

「そりゃ、今日の5時頃に決行って言わなかったっけ」

その瞬間だった。外からサイレンが聞こえた。もうあと少しだったのに。薬の効力がもう切れているとは思わなかった。

「エデンはもうない。本体は川に女と捨てれてきたよ。犠牲者はおれと看守さんだけで十分だよ」

こんな形で私の夢が終わっていいわけがない。ワタシの最高傑作をこの男に飲ませる。この判断が私の運命を大きく分けた。結論から言うと失敗だ。この時作った薬は筋肉を増幅させ、脳を活性化、そして、体にすぐ作用されるように調整されていたものだ。男の身体はよりたくましくなったが、数秒もしないうちに動かなくなった。これはのちに聞いた話だが、筋肉が骨を圧迫させ砕け散っていて、脳が溶けていたようだ。薬の変化に身体が追い付かないとは予想外だった。私は要注意人物として本物の牢獄で一生を過ごすこととなった。脱獄も考えたが、もはやそんな気力は私にはなかった。

 こうして所長こと霧谷みぞれの企てた計画は幕を閉じた。しかし、秘密裏に、しかも警察内でこんなおぞましい薬が作られてきたのだ。この事件は世に知らされこれからの日本を考えていくのに大きな影響を与えた。結果として社会はより良い方向に進んでいった。昔の過ちを認め、今につなげる。この大切さを学ばせてくれるじけんだった。霧谷みぞれは犬寸前にこう言い残している。

「この世界は自分の思うようにはいかない。むしろ自分にとって都合の悪いほうに転ぶことのほうが多いだろう。しかし、それはほんとうにそうだったのだろうか。今になって思う。私の本当にやりたかったことは何だったんだろう、と。私はただ自分の存在意義が失われてしまうのが怖かったのかもしれない。だが、それは同時に新しい自分に出会うためのチャンスでもあるのだとここにきて気が付いた。この言葉を聞いている君へ、自分という存在を自分だけはいつまでも好きでいられるようにいなさい。どんな自分になったとしてもそれはきっと君が望んだ世界への第一歩となるだろうから。

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