1話 顕現
小鳥たちが歌を歌い、春の風が木々を楽器のように揺さぶる。
小鳥たちに負けじと蝶が舞を踊り、リスたちが愉快そうにはしゃぎ回る。
それはさながら春を祝福するファンファーレ。
冬というある種の死の季節を乗り越えた生物と乗り越えられなかった生物のために送られる祝福と鎮魂の歌劇だ。
これらはとても平和的で、暖かで、心安らぐもの。
あぁ、とても愉快だ。
あぁ、とても不快だ。
愉快さと不快さが同時に押し寄せてくる。
ん?これ程までに豊かな情景の何処に不快な要素があるのかだって?
あるとも、おおありさ。
ありすぎて逆に無いんじゃないかって勘違いしそうになるぐらいだ。
なんたってこの世界、あの白い肉塊の神が見ている夢でしかないのだからね。
夢というものは基本脳味噌で見るものだ。
ということはこの世界、何処までが頭で何処からが体かよくわからん肉塊神の頭もとい脳味噌の中ってこと。
そう考えると吐き気がする、朝にハムエッグとトーストとサラダしか食べられないほどのね。
ん?それじゃあお前は何に対して愉快と感じているのかだって?
嵐の前の静けさってヤツにたいしてさ。
いや、厳密に言うにと、平和がいつまでも続くと思っている間抜け共の愚かぶりに対してかな。
この世界に平和がある訳がないというのに、この世界に暖かさなどある訳がないというのに。
まるでコメディーショーのようだ。
この地球という玉にのる、玉乗りの下手なピエロ達がつむぐ滑稽で面白おかしい喜劇だね、これは。
っとこのような長々としたモノローグをしている間に何かが起きたようす。
先程から見るわけでもなく延々と垂れ流しにしていたテレビから聞き慣れない音が流れてきた。
『緊急速報です!緊急速報です!』
どうやら何か事件が起こったようだ、毎朝毎朝眺めているお馴染みの顔をしたキャスターが焦った様子で追加された原稿を読んでいる。
『皇居の上空にて、神を名乗る巨大な女性が出現しました!現場より樫越アナから中継をお送りします!』
よほど慌てているのか日本語が心なしか変な気がする。
『こちら樫越こちら樫越、現場から中継しております!
見てください!皇居の上空に巨大で半透明な女性が浮かんでおります!』
ふむ、どうやら今回は俺を玩具にした黒神様ではないようだな。
かつては忌々しく思っていた命の恩人兼友人兼腐れ外道の神の事を考えていると、アナウンサーがただでさえ大きなその声を更に大きくして喋り始めた。
『聞こえますでしょうか皆様!女性が何やら喋り始めました!』
よく聞けば、巨女が何やら話し始めている。
【ワタシはイカイのカミ、ナをアルマーダとイウ】
【ワタシはキサマラにシュクフクをアタエル】
【ワタシをタノシマセロ、ソノヒンジャクなセイシンにツリアワヌチカラでナニをナスのかミセテミロ】
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
面白い。実に面白い。
一体どの次元からやってきたか分からないが、面白いことをしてくれた。
きっと次元断層の影からあのイカレポンチも笑い転げていることだろう。
あぁ、楽しくなってきた。
即落ち2コマのような急激かつありきたりな展開だが・・・・悪くない。
さぁ世界はどうなるのやら!
ステータスぅ?ソレって必要? @yukizake727
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