ステータスぅ?ソレって必要?
@yukizake727
第0話 オリジン
小学生の頃、俺は誘拐された。
当時虐められてた。
て事もあって、どうして俺ばっかりなんて悲劇のヒロイン気取ってたのをおぼえてる。
誘拐の理由はちょっと変わってて身代金目当てとかじゃなく、何処かの地方宗教の即身仏ってのにするためだったらしい。
誘拐って言っても手足を麻縄みたいなのでぐるぐる巻にされて口に猿轡代わりのタオルを突っ込まれた状態で丁寧に助手席に座らされてただけだから誘拐にしては割と扱いは良かった。
神社みたいなところについたら俺はいきなり車から降ろされて、白い死装束のような和服を着せられた。
その後は、中には文字通り何にもない暗い社の中に閉じ込められ2ヶ月ほど放置された。
そんな監禁生活も佳境に迫る頃には、俺は常に座禅を組むようになっていた。
あまりの空腹でどうかしてたのか当時の俺は悟りを開こうとしていたんだよ。
今から思えばあんなことさえしなければ、俺は何も知らず無知のまま愚かなまま人としての生を全うできたんだよな。
子供は霊感が強いだとか、大人には見えないものが見えると言う話はよく耳にするが、アレはマジだったらしい。
実際に俺は悟りを開いちまった。
そして、世界の真理ってやつを見ちまったんだ。
星の光すら一切届かない真暗と形容するにはあまりにも透き通っていて、黒と言うにはあまりにも深く果てしない。
あえて形容するのならその空間は無だ。
その無とも言える空間の中心には何かがいた。
一見するとソレは巨大な胎児のように見えた。
体中が白く泡立っていて、所々に大きな触手が産毛のように生えている。
体の一部なのか分からないが肉塊で形成されたような白い気泡を無数に浮かべる揺り籠のような何かと結合している。
その姿は母親の腹の中で気持ちよく眠っている赤子にも見えた。
ソレの周りには、赤ん坊をあやすガラガラのように白い肉塊のような化物達がフルートや太鼓等様々な楽器で脳が蕩けるような不気味な演奏をしながら歌のようにわけのわからない言葉を叫び続けている。
その光景を見た俺は悟ったんだ。
そういう事かと。
全部が全部、文字通り夢物語だったのだと。
俺たちのような生物も、星も、宇宙も全てがあの胎児が見る一瞬の夢だったのだと。
その真理を知った途端俺は全てが馬鹿らしくなった。
虐められて悲しんでいた自分が
弱い俺を虐めて優越感に浸っていた奴らが
存在しない神への信仰の為に俺を誘拐したイカれ共が
この世を良くすると息巻く政府が
俺を愛してくれた両親の事でさえも
どうでもよくなった。
どうせアイツが目覚めれば全てが消えるのだ。
悟りを開き全てを諦めきった俺はこれ以上精神が崩壊しないように真理を覗くのをやめようとした。
「<≦≪∇≡↬↩↱↬↩↥↕↩↡↬↱↱↶↱↶⇄⇚⇚↾⇑↩↭↞↡」
その時、黒いノイズが走った。
気づくと目の前には、
顔 顔 顔 顔 顔 顔 顔・・・・・・・・・・・。
俺の視界にはマネキンの様な形だけ存在する目と鼻と口のついた真っ黒な顔が無数にあった。
俺は後悔した。
そうだよな。
ただで済むわけがないよな。
俺はブッタでもなければイエスでもない。
ただの人。
心理を覗いただけの人間なんだよな。
深淵を覗く時、深淵もまたコチラを覗いている。
昔の人はうまいことを言うなって思ったよ。
目の前の存在は深淵そのものと言っても差し支えない程に強力で、巨大で、底が見えなかった。
顔のあるべき所は空洞で宇宙の如く果てしない空間が広がっている。
体は、キメラと言うにはあまりにも膨大な量の生き物やその死体が無理やり集合させられ、ドレスのようになっていた。
その全体像はまさしく黒き聖母。
二度目とも言える超越存在との遭遇は悟りを開いた俺でも到底耐えられるものではなかった。
胎児の件で崩壊寸前だった精神は、その時確かに砕け散った。
はずだった。
「↬↱↥↱↥↱↵↱↥↩↤↭↩↬↩↬↥↩↭↩↩↥↦↵↩↭↩↶↩」
聖母が何か呪文のようなものを唱えた途端、俺は正気に戻ったのだ。
いや厳密には戻ったのではない、作り直された。
目の前の存在と会話が成立するように
これから面白半分で授ける知識が理解できるように。
聖母にとって俺という存在はちょうどいいタイミングで入荷した新品の玩具程度にすぎなかったのだ。
いいや、この存在に玩具として目をつけられた事はある意味救いかもしれない。
まだ存在していることが許されるのだ。
黒き聖母が飽きるまで、俺は存在していられる。
当時の俺はまだ生きていられるという安堵感により意識を手放してしまった。
そして、目覚めた頃には聖母に無理矢理ねじ込まれた知識と以前よりも断然頑丈になった体がそこにあった。
3日後、警察の捜索部隊に救助され無事俺は家族のもとへと帰ることができ、この誘拐事件は解決された。
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