俺はギャルと仲が良い




「石越さん……」


 風船ガムの膨らまし方に悔しがっていると、横切ろうとした石越に、国見が声を掛ける。


「…………」


 しかし、イヤホンを付けて音楽を聴いている石越は、気付いていない。

 いや、意図的に無視してるな……。

 目を合わせようとしていない。


「石越さん……!」


「…………」


「…………ッ!」


 痺れを切らした国見が、ファイルを石越の目の前に突き出した。

 さすがの向こうも無視できなかったのか、足を止める。




「んだよ、うっせぇな!」




 そしてイヤホンを取り、怒声を浴びせた。

 ツリ目の睨みは怖い。


「なんか問題でもあんのか?」


「あるから止めたのです。寧ろ、問題だらけです」


 それに怯むことなく、国見が淡々と発言する。


「あ~? どこが問題なんだよ?」


「まずリボンが緩んでます。それにブレザーはボタンを留めてください。あとはワイシャツ、そして短く加工されたスカート、他にもメイクに頭髪……全身減点です」


「はぁッ!? どう着ようと人の勝手だろ? 毎度毎度ぐちぐち、いい加減うぜぇんだよ! この眼鏡クソ真面目女!」


「真面目であることの何が悪いのですか? 少なくとも、あなたよりかはマシだと思います」


「は! 相変わらず正論かよ。だからクラス中から嫌われてんだよ!」


「…………ッ!」


「おい、今のは―」


 騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた委員長たちを俺が止める。


「白瀬……?」


「大丈夫です。ここは自分に任せてください……」


 こちらしか聞こえない声量を出し、国見と石越に近付く。


「はいはい、そこまで」


「白石くん……」


「あ? ……え!?」


 元から視界に入っていなかったのか、俺を見た途端、石越が驚愕した。



「なんで『シロっち』がいるの!?」



「風紀委員だからに決まってるだろ?」


「え、ヤバいヤバい! いつから入ってたの?」


「そうだなぁ……。先週の水曜辺りからか?」


「えー! マジでマジで!? 知らなかった!」


「そういやお前、しばらく休んでたもんな?」


「あ~確かに! うち無断欠席繰り返してたからねぇ」


「だったら知らないのも無理ないか」


「だねだね、ふしぎだね♪」


「寒いな~……冷房入れたか?」


「きゃっははー! ウケる~!」



「「「……………………」」」



 委員長・国見・南先輩が唖然とこちらを見ているのが分かった。


「ところで石越」


「ん? なに~?」


「服装」


「あ? あ~オッケーオッケー!」


 そう言うと、石越は素直にリボンを結び直し、ブレザーのボタンを留め、ワイシャツをスカートの中に仕舞った。スカートに関しては加工されているため諦めていた。


「これでオッケー?」


「おぅ、あとはバケツの水掛けてやるからメイク落として頭髪の色をキレイに洗い落とせば通って良いぞ?」


「なにそれマジウケる……! シロっち鬼畜―!」


「で、どうすんだ?」


「ん~、メイクは勘弁して!」


「じゃあ頭髪だけでも──」


「これ地毛ー!」


「じゃあ調べるから五百本ほど抜かせてくれ」


「禿げるーッ!」


「マジウケるー」


「きゃっははははは!」



「「「…………」」」



《相変わらずお前スゲェな……》


 なにが?


《なんでも……》


 ん? さて、時間も無いし、これぐらいにしとくか。


「ま、冗談はさておいて。石越」


「なに~?」


「国見に謝っとけ」


「はぁ~? なんで?」


「傷付くこと言ったからだ。お前だって嫌だろ?」


「別にぃ~」


「最近デブってきたな」


「…………」


「な? 嫌だろ? 国見に謝っとけ」


「…………ハイハイ。ゴメンナサイ」


 火に油を注ぐかのように片言を発しながら頭を下げた。

 当の国見はというと──。


「…………」


 超見下してる視線を送ってた。


「これでオッケー?」


「ああ、もう行って良いぞ」


「マジ? シロっち、だ~い好き」


「本気にするからやめて」


「きゃっはは、マジウケ~! じゃあねぇ♪」


 最初の怒声は何だったのだろうかと疑問に思うほど、石越は明るい笑顔で校舎に入って行った。

 すると始業ベルが丁度良いタイミングで鳴った。


「ふぅ……終わりました」


「ああ、ご苦労様……」


 委員長が困惑顔を浮かべていた。


「し、白石くん……。あ、あんな子と仲、い、良いんですか……?」


「まぁ……そうですね」


「だが、そのおかげで事は解決した。素直に感謝するよ」


「良いですって。久し振りで話したかったのもありますから」


「それなら良いんだが……。麗奈、大丈夫か?」


「…………はい。お騒がせして申し訳ありませんでした」


「れ、麗奈ちゃんが謝ることじゃないですよ……。悪いのは、む、向こうなんですから……」


 委員長も南先輩も、必死に慰めている。

 国見本人は、唇を噛み締め、下を向いて感情を抑え込んでいた。


 彼女のタブーを言ってしまったのだから、そりゃ傷付くよな……。

 始業ベルが静かに鳴り終わっても、いたたまれない空気は流れるばかりだった。


《はぁ、幸福タイムはここで終わり……か》


 お前マジ不謹慎だな、殴るぞ?


《出来るのでしたらご自由に》

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白になるも黒になるも俺たちの自由 三原シオン @sancaksicaku

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