我がクラスのギャルが登校してきた




「白石くん……お、お願いします……」


「はい……任せてください……」


「シロ坊、おはよう!」


「おはようございます、先輩方……。では、服装検査のほうを……」


 ただ服装に関しては乱れは無く、こちらは文句なしだった。

 頭髪についても再度注意を促し、了承の返事を貰えたがまた忘れられているだろう。


 それからは問題等は起こらなかった。

 精々いつも通りに黒い高級の送迎車で登校してきた八乙女雫会長と船岡仁に、委員長と国見が機嫌最悪の表情を浮かべただけ。


 船岡は相変わらず降車と同時に砲丸が頭部を直撃しそうになったが、寸でのところで黒瀬が止めてくれた。

 以降は南先輩が会長を、こちらは変わらず国見が船岡の服装チェックを済ませた。


 始業ベルまで残り十分、そのあとは遅刻魔の薬師堂兄妹を減点して朝の服装検査は終了となる。

 と思っていたら、昨日と同様ピンク色のドアが表れ、そこから薬師堂兄妹が現れた。

 風紀委員メンバーも見慣れたが、他の登校している生徒は目を点にしていた。


「よっしゃー! 開発して二日連続で機能した! この発明品は成功だ!」


「やりましたね、お兄しゃま!」



 ピーピーピーボンッ



 薬師堂巧部長と、その妹である紅葉が喜んだ瞬間にドアは機械音を発して壊れた。

 爆発じゃなかったのが幸い、ケガ人はいなかった。


「部長。その粗大ゴミ、ちゃんと片付けてくださいね」


「はい…………」


 同情せずに注意すると、部長と紅葉は項垂れてドアを持って校舎内に入って行った。

 ということは……。


「科学部の二人が来たってことは、遅刻者はゼロってところかな?」


「まだ分かりませんよ。考えを急ぎ過ぎないようにしてください」


「はい、すみません」


《怒られてやんの……!》


 今日コハ姉に会いたくなってきたな。


《SUMIMASENNDESITA》


 発音良いから許す。

 そう言えば、琴葉をまだ見掛けてないな……。

 珍しく遅刻か?


「ぜぇー! ぜぇー!」


 なんて思っていたら、激しい息切れを起こしながら猛ダッシュしてくる琴葉が見えた。

 噂すれば影か。


「せ、セーフッ!」


 正門を潜るとその場で立ち止まり、前傾姿勢を取って呼吸を整え始めた。


「はぁーッ……はぁーッ!」


「よぅ琴葉、ギリギリなんて珍しいな?」


「う、うん! 今日また靴間違えちゃって……先週注意されたばかりだから……急いで、取りに戻ったの……!」


「それはご苦労様」


「えっへへ……ありがと」


 すると、まだ若干の息切れを起こしながらも姿勢を正した琴葉が、国見に近付く。


「さ、国見さん。チェックをお願いします!」


「あ、はい……」


 先週の注意分を取り返したいのだろうか。国見に向けて自信満々に検査をしてもらっている。


「はい、問題ありません。その心意気、素晴らしいです」


「ホントに? やったやったー!」


 国見から褒められたのが余程嬉しいのか、発言だけじゃなく軽くジャンプをして行動でも表現していた。


「では、もうそろそろ始業ベルが鳴るので、急いだほうが良いですよ」


「え、あ、ホントだ! う~ん、でも廊下走っちゃいけないし……」


「この時間ですし、今回は大目に見ます」


「ホントに!?」


「はい。泉さんの真面目さが伝わってきましたので、今日だけは減点対象から外させていただきます」


「あ、ありがとう国見さん!」


 半べその琴葉が、国見の手を握る。


「琴葉、そんな事してると……」


「あ、そうだった! ありがとうね国見さん! またあとでね!」


 再び琴葉は駆け出し、校舎内に入って行く。


「珍しいな」


「なにがですか?」


「国見が大目に見るなんて」


「わたしは真面目な人が好きなので、その人に対しては優しくしているつもりです」


「へぇ、俺とかは真面目じゃない?」


「以前はそうでした。けど今は、学内を脅かす暴力人間と捉えています」


「そうですか……」


 正直な感想が心臓を貫く。



「…………くッ!」



 落ち込んでいると、国見が嫌な声を漏らした。

 その理由は、正門に近付いてくる一人の生徒を見掛けたからだ。


 リボンは緩められ、ブレザーのボタンは留めずに開きっ放し。

 ワイシャツはスカートの中にインされずの出しっぱなしで、更にスカートまで太腿が見えるか見えないかの位置まで加工されていた。


 誰がどう見ても服装検査の対象者だ。


 色白で目鼻立ちのきりっとした顔には、バッチリとまではいかないが自然的なメイクが施されている。

 頭髪は、以前地毛と言い張っていた金髪、それを耳の上に結び目が来るように結い上げたツインテールにしていた。


 スタイルに関しては思わず目を奪われるモデル体型。しかもデカい……。


 クラスメイトの石越凛いしこしりんが、始業ベル数分前にも関わらずのんびりと歩行していた。

 ガムで風船を作り、また口に入れて数回咀嚼してから再度作る。


 くそ~……俺だってあれぐらい作れるぞ。嘗めんなよ!


《どこに対抗意識燃やしてんだお前は……》

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