幸福って続くんだな(血涙)




「……………………」


「……………………」


「……………………」


 いやぁ、幸福って続くもんだな~。


 開始して三十分、未だに服装の乱れている生徒が見当たらない。

 なんだか来る生徒全員が俺と目を合わせない&避けるようにしてるけど、それは単なる偶然、気のせいさ。ははは!


「委員長……涙拭いてきて良いですか……?」


「ダメ★」


 許可は下りなかった。


 不良生徒数人の撃退、バット等のスポーツ道具のプレス、恐ろしき科学部から生還してきた男……。たった五日間で起こしてしまった事柄が大きく波紋し、俺は未だ一部の生徒たちから避けられている。


 理由は簡単……殺(あや)められると勘違いされているからだ。


《勘違いじゃなく事実だろ》


 お前がな……。


 黒瀬の能力は底が知れない。

 大抵の物体は数秒でクシャクシャに出来る腕力、全身は溶岩にも耐えられるほどの頑丈さ、その気になれば地球を飛び出せる跳躍力……もう全部こいつ一人で良いんじゃないかな?


 しかし黒瀬に日常生活は送れない。

 以前一日だけ表にする権利を与えたが、掴む物は全て壊れ、それに苛立って隣町を半壊させた。この一連の事件はニュースで取り上げられ、地球滅亡の前触れではないかと予測されてしまった。


 すみません。原因コイツです。


《…………ッ!?》


 黒瀬が脅えだす。天敵が来た証拠だ。センサーかなにかかコイツは。


《(ガタガタガタガタガタガタ)》


 はいはい了解した。


 急いで近くの茂みに──。


「そうはさせません」


 首根っこを国見に捕まれた。


「国見! 離して!」


「ダメです。前から気になってましたが、どうして途中勝手に抜け出すのでしょうか? 仕事の放棄は風紀委員として一番やってはならないことです。今日こそは逃がしません」


「それに関してはあとで説明するから! 離して! 死んじゃう!」


《きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ》


 ほら黒瀬も距離が縮まりつつあるから叫びが尋常じゃない!


「一体なにを言って──」


「シーくぅん!」


《ぐあああああああああああああああ…………。…………ッ!》


 はぁ、逝っちまったか……。

 名前を呼ばれたってことは認知もされた訳だし、ここから逃げても助からない。

 仕方ねぇ……。


「おはよう……コハ姉」


「おはよう~♪」


 軽やかな走りで近付いてきたコハ姉に、振り向きざま挨拶を交わす。

 腰の位置よりも長い髪は、今日もお手入ればっちりのようで色艶が良い。


「ようやくシーくんの風紀委員してるところ見れた~」


「ようやくって……先週見てたでしょ?」


「あれはぁ、生徒会の挨拶運動もあったから違うのよね~。風紀委員単体のシーくんを見たかったの~」


「そうでしたか……」


 単体ってなんだろうか……。意味を理解できない。


「岩沼先輩、おはようございます」


「あ…………どうも~」


 国見が話し掛けた瞬間、声のトーンが一気に低くなった。

 以前、副生徒会長としての自覚を持つ事への注意をまだ根に持っているようだ。


 まさかこの二人が敵対関係になるとは……。

 生真面目と、ほんわかは相容れないって訳か……。


 コハ姉の素っ気無い挨拶に反応して、国見が眉を顰める。

 年上のくせに大人げない、と言わんばかりの表情だ。


「服装検査をさせていただきます」


「え~…………」


「なんですか、なにか文句でもあるのですか?」


「い~え~……。でもぉ、出来ればシーくんにしてもらいたいかな~なんて」




 ブチッ




 あ、今ブチって聞こえた。人が怒る音初めて聞いた。


「そうですか……。では白石くん、この方をお願いします……!」


 怒りを押し殺しているようで出来ていない態度で俺に丸投げしてきた。

 これに関しては、仕方ないか……。


「りょ、了解……」


 断る勇気は置手紙を残してどこかに去っていきました。


「それじゃあコハ姉……服装の検査していくよ……?」


「はぁい、どうぞ~♪」


 ご唱和くださいと言わんばかりに両手を広げ、受け入れ態勢が整う。

 髪型……リボン……ブレザー……スカート……鞄……靴……。

 うん、どれも問題無しだ。


「ねぇ?」


「ん、どした?」


「直接触って確かめても良いよ~?」


 痴女か……。


 でも、触って良いなら触りたい……特に胸―。


「……………………」


 国見にスゲェ睨まれてる……。


「はい、冗談はそれぐらいにして―」


「本気なんだけどな~……」


 頼むからこれ以上誤解を生むようなこと言わないで……。


「服装のほうは特に問題無しだったから、行って大丈夫だよ」


「そ~? ありがとう。じゃ、またあとでね~」


 正門を通り、コハ姉が校舎内に去っていくと、緊迫した空気が消えた。


《ぶはー!》


 お帰り。お空の国はどうだった?


《ゼウスに会えた》


 将来伝記書けそうだな。


「白石くん、ありがとうございました」


「お礼なんていいよ。仕事全うしただけだから」


「いえ、怒りに任せて本来やるべき仕事を丸投げしてしまったので、お礼だけでなく、それについて謝罪もします。ごめんなさい」


「いやいや、謝らなくて大丈夫だからさ……!」


 ホント真面目だなぁ……。


「二人とも、大丈夫か?」


 心配してくれたのか、委員長が駆け寄ってきてくれた。


「岩沼となにかトラブルでもあったのか?」


「いえ……ただ、快く思えない態度につい我を忘れてしまって、白石くんに仕事を丸投げしてしまったんです……」


「そのことについてはもう良いから、忘れなって」


《今なら俺のパンチを受けるだけで記憶が真っ白に──》


 黙ってようか。

 記憶どころか将来への道が真っ白になる。


「なるほどな……。ま、合う合わないは誰にでもあるから気にするな。そういうときは我慢せずに思い切って誰かに任せれば良いんだ」


「そうだって。別に俺は平気だからさ」


《足めっちゃ震えてたくせに?》


 おめぇは気絶してたじゃねぇか!


「…………はい。そういうことでしたら、今後はそうさせていただきます」


「そうそう。嫌なことは無理する必要なし。と言う訳で白瀬」


「はい?」



「あの三人頼む……!」



 振り向きもせず可愛い笑顔を向けたまま親指を立て、それを後方に向けられる。


「おぅ、シロ坊!」


 逆モヒカン、続いてボンバーヘアーとリーゼント……デブ先輩三人衆だ。


「あ……了解しました……」


 委員長と南先輩が恐れる迷惑な肥満たち、早弁したり習字したりと何度も注意するが悪態は尽きないらしい。

 しかもあのファンキーな髪型はヅラであり、あれを取ると周囲を窒息死させる異臭を放つ。


 外して洗ってこいと会う度言っているのに、全然約束を守ってくれない。

 本来なら減点対象にしたいところ、向こうは減点を嫌がっているし、だからといって外させれば死者が出る。

 今日も減点無しで通すか……。

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