&α 鐘の音のあとには.

「はいはい。みなさん並んでくださいね。お手伝いさんはこちらへどうぞ」


「こっちです」


「いやあ、だんなさまカレー作るのうまいですねえ」


「こんなに大人数の分を作るとは思ってなかったですが、楽しいです。ありがとうございます神父さん」


「牧師でぇす。街長が防災無線で呼び掛けちゃいましたからねえ。そりゃあ街のひとみんな来ますよ」


「神父さんの仕込みですね?」


「それはもちろん。牧師の権力を濫用いたしましたよ。おくさまは?」


「あそこに。カレーを待つ子供と遊んでます」


「ウェディングドレス、大丈夫ですか?」


「大丈夫です。あれは自作なので」


「へ?」


「雑貨屋で白いふわふわたくさん買って作りました。だいたい5万円ぐらいです。なので跳んだり跳ねたり破けたりしても大丈夫」


「このだんなさま、やべぇ」


「襟元を長めにしてあるので、カレーで彼女の口元がよごれたら、そこを破って拭こうかなって」


「そうなんですか」


「失礼ですが、ひとつ、お聞きしても?」


「なんですかいきなりこそこそ話で」


「もしかして神父さんではなくて、シスター、さん、ですか?」


「牧師ですね。牧師ということにしておいてください。世俗化して本道から遠く外れた、街の小さな教会の、ひとりの教者です。最近流行りの性別不詳」


「わかりました。では、おなじことをこの子にも」


「ふたりでこそこそ話。よくない。うわき?」


「うわっ」


「うわき?」


「違いますよ。違います。私は性別がふたつありまして」


「そんなこと聞いてない」


「え?」


「このひとはストライクゾーン広いから、うわきちゅういしないといけないの。うわきだめぜったい」


「ごめんなさい。僕が録画してた深夜ドラマを見て、勘違いしたみたいで」


「うわきゆるさない」


「カレーできましたよ。第一陣」


「やったあ」


「あれ。おくさま駆け去っていきましたけど」


「子供たちに教えるんでしょうね。そういう人なんです。自分よりも、他の小さい子供を優先しちゃう」


「やさしいかたなんですね、おくさまも」


「深夜ドラマの浮気シーンにも耐えられない人ですけどね」


「ひと」


「はい?」


「ずっとあの子って呼んでたのに、今日からは、あのひと、ですか?」


「ああ、はい。子供はこれから作るんだろって言われました。ちなみに彼女のほうが上です」


「あはは。たいへんそうだ」


「さて、ごはんをおねがいします。ここからがたいへんだ」


「一列に並ばなくていいから、もらった人がすぐに抜けられるようにしてくださいね」


「おおすごい。列になった」


「牧師まじっく」


「あれ」


「これはこれは。年下のだんなさま。見てください。歳上のおくさま。列のいちばん最初ですね?」


「どうしたの?」


「みんなから、主役がいちばんに食べないとだめだっていわれましたっ。カレーくださいっ」


「わかりました。では愛する私のおくさまに、カレーをいちばんに盛りましょう。ふくじんづけ付きで」


「ありがとうございます。はい。あぁんして?」


「ええ?」


「主役はあなた。最初に食べるのも、あなた」


「いや僕は味見もしましたし」


「だんなさま、まわりがもう、そういう雰囲気ですから。お食べになりませんと。おくさまもスプーンいっぱいにすくって待機中ですので」


「誓いのキスよりはずかしいなあ」


「あぁんして。おくちあけて?」



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最後のベルとカレー 春嵐 @aiot3110

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