穏やかな田園が広がり、稲穂の香りがただよってきそうな空気が物語全体にあふれています。
つらい記憶から自分に殻を作った少年と、突然田んぼから現れた不思議な案山子。
優しさを与え、与えられる。
さりげない言葉が、ときには確かな勇気になる。
心の襞をそっとめくるように描かれた繊細な筆致で、柔らかな思春期の胸のうちが表現されています。
視点の変わる二部構成が効果的に用いられて、なるほどと頷く展開が待っています。伏線と小道具にも細かく気が配られていて、そのひとつひとつが後からしっかりと活きてきます。
そして読後に残るあたたかい余韻。
小さな一歩を踏み出そうとする人たちの背中を優しく押してくれるような物語です。気持ちがこもりがちな人にはぜひお勧めします。なにかきっと響くものがあると思います。