02 いってきます


 ──深夜。裏町付近の一軒家。


「……よし、とりあえず準備はこんなものかな」

「こっちも大丈夫。外も、この時間だし人はいなさそうね」


 フィルリアとクレシアは顔を見合わせる。今の二人の姿は二人の姫様ではなく、リアラとシアンという姉妹だ。

 二人は背に鞄を背負い、フィルリアは腰に武器庫から拝借したショートソードを。クレシアは自前の魔法輪を腕につけている。この隠れ家にしまっておいたお金や着替えも回収し、今やお姫様という装備は一切なし。今の二人は強い意志を持った旅人だ。しかし、二人がこれから向かうのはフィースフォリアではない。



「情報収集?」

「そう。行動するにしても、無暗に突っ込むだけでは無意味だもの」


 クレシアの部屋にやってきたフィルリアは迷いなく「ここを出て、国を取り返す」と言い放った。親友の予想通りの行動にクレシアは少し嬉しくなるが、このままではフィースフォリアに突撃しかねないため、あらかじめ言い含めておく。


「そもそも今回の事件はかなり周到に計画されているわ。フィルリアは運良く脱出できてたけど、魔法妨害の結界なんてそう簡単に張れるものではないのよ。ましてや国一つを覆うなんて、それこそ大量の魔道具や人員を必要とするものだもの。それに──」


 クレシアは顎に指を添え、思案する。


「ただ単に情報が規制されているだけかもしれないけど、ここまで周到にこなした『何者か』が、現状団体名も個人名も上げず、ただ国を占領しているだなんて明らかに不自然よ。そんな情報不足にもほどがあるような相手に突っ込んだところで正直勝てる気はしないわ。最悪、転移した瞬間に囲まれることだってありえるんだから」

「まぁ……確かに。もしかしたら転移場所知られているかもしれないもんね」


 フィルリアの転移は万能ではない。フィルリアの視界内であれば自由に転移可能だが、歯科以外。それこそ国間の移動ともなればより正確な座標情報が必要となる。故にフィルリアは自らが言ったことのある場所には一定数の『マーキング』を施してある。いうなればそれはフィルリアが遠くから認識することのできる『座標』であり、そのポイントを目指して転移する。つまり、そのマーキングされた場所の把握さえされてしまえば、転移した瞬間に囲むことなど容易にできてしまう。マーキング自体の発見は非常に困難なためすべてがばれているとは考えにくいが、それでもフィースフォリア国内のマーキングはほとんどマークされていると考えて行動するのが理想だろう。何しろ相手の実力は未知数。警戒するにこしたことはないのだから。



「だから、まずは情報を集めるのよ。おそらくこの事件は全世界に広がっているでしょうし、当然情報は審議問わず飛び交うはずよ。だから、まずはそこで少しずつ情報を集めて選別していくべきだわ」

「情報が飛び交う場所……っていうと、もしかして」


 フィルリアはこれからの行き先が思い当たったらしく、瞳を輝かせる。そう、これは二人で以前話した夢の一つ。


「冒険者たちの町『アッドルーク』。そこで、私たちは冒険者になりましょう」


 二人で国を飛び出して、冒険する。そんな夢を話した場所。冒険者の始まりの地にして数多の冒険者が集う町『アッドルーク』。


 だが、そこで一時でも冒険者になるということは、今の地位も、この場所も手放すことになる。それでも、国を取り戻すと決めたから。


「……いってきます」


 少女たちの影が、常闇の夜に消えていく。悔しさと、決意と、ほんの少しの好奇心を持って、少女たちは世界へと飛び出した。


 二人のお姫様の、国を取り戻すための冒険が今、幕を開ける──!!

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ツヴァイプリンツェ 翡翠 蒼輝 @croix0320

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