01 いつもの距離感


 フィースフォリアが陥落した。


 その日、フィースフォリアの王族全員が何者かに暗殺され、完全に国が殺されたのだという。その何者かは王族全員を殺したことを高々と告げ、一国を瞬くうちに支配したのだという。


 狂乱から目を覚ましたフィルリアが知ったのは、この情報だけだった。


「…………」

「……フィルリア、入るわよ」


 フィルリアにあてがわれたのは、クレシアの部屋から一番近い使用人部屋だ。客人用の部屋もあるにはあるのだが、フィルリア本人がクレシアと最も近い部屋を指定したのだ。

 クレシアが部屋に入ったことも気に留めず、フィルリアは床の一点を見つめ続けている。

 クレシアはフィルリアの隣に腰掛ける。


「……悲しい?」

「悔しい」


 クレシアが問うと、素早く答えが返ってきた。


「そこに私がいたら、みんな殺されずに逃げることもできたかもしれないと思うと」

「無理よ」


 即座に可能性を切り捨てる。


「貴方自身が言っていたじゃない。『何故か国内で空間転移が使えなかった』って。明らかにその何者かは貴方の能力を封じるつもりだった。そして──貴方も、殺すつもりだった」

「…………」

「冷静に考えて。今、貴方がここで生きていることは奇跡的なことなのよ。フィースフォリアだけじゃない。この事件を知る人たちはみんな貴方も死んだと思ってる。でも貴方は今、確かにここに存在している」


 フィルリアは動かない。けど、ただ何もしないで済むような少女ではないことはクレシアが一番知っている。だから、


「フィルリア。貴方はこの状況で何をしたい? 貴方は、これからどうしたい?」

「……」


 答えない。だけど、フィルリアは目を閉じ、両手の指を複雑に絡め始めた。それは、フィルリアが自分とその他との折り合いをつけるためにする、いつもの癖。

 それを見てクレシアは立ち上がる。


「ま、貴方がどうしようと構わないけど」


 クレシアは扉に手をかけ、振り向かずに言う。


「何か始めようってなら、いつもみたく私も巻き込みなさいよ」


 一人だけで遊びに行くんじゃないわよ、と。いつもの雰囲気のまま。

 不謹慎だと人は言うかもしれない。だが、二人の関係はこれでいいのだ。心配はしても、いたずらを思いついても、いつでも二人でからからと笑って、乗り越えて、遊んできたから。

 クレシアは、状況を整理して伝えるだけ。あとはフィルリアが考え、走り出すのを待つだけ。

 だから、クレシアはそれだけ言い残してフィルリアの部屋を去った。



 そして、クレシアが部屋に戻って数刻も経たないうちにフィルリアはクレシアの部屋へとやってきた。その瞳に決意と、ちょっとした好奇心を宿して。

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