クールでマイペースな少年は、陰で一人で泣いていた。
総督琉
クールでマイペースな少年は、陰で一人で泣いていた。
それはそれは、とある昔の話なのだろうか。
今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつつ、よろづの事につかひけり。名をば讃岐造となんいひける。その竹の中に、本光る竹一筋ありけり。怪しがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと美しうて居たり。
だが、それは昔々のお話。
その結末で、一人の男はその國で最も大きい山へ不死の薬を捨てたと言う。やがてその山は富士山と呼ばれ、愛慕われるようになった。
その話を少年は図書館で読む。
酷く悲しい終わり方であり、美しい終わり方でもあるその話。少年はその話を読み終わり、本を机に置いたまま、図書館をあとにした。その少年が向かった場所はーー
「富士山。それが……ここなのか……」
少年は懐かしさを噛み締め、半日も経たずに頂上へと登った。少年は自分でも速いと思ったが、そのまま夜になるのを山の頂上で待った。
「夜は月。月の頃はさらなり。闇に紛れ、とこしえに乗った者たちは、やがて僕を迎えに来るために、空から舞い降りるであろう」
その一節を唱えると、空から、いや、月から雲に乗った何十人もの女性が現れた。そこから一人の女性が雲から飛び降り、少年のもとへと舞う。
「お久しぶりです」
「ただ舞い降りたあなたの笑みは、やはりいつでも美しい」
「感情など忘れていたはずの私に、あなたが教えてくれたんじゃありませんか。ありがとうね」
謝るのになれていない彼女は、少年へとお礼を告げた。真夜中に響く鐘の音のように、少年の心にあった隙間は埋まった。
「なあ、もし俺が死にたいなんて言ったら、笑うか?」
「笑いませんよ。誰よりも生きてきたあなたですから、私は絶対に笑いません。ですのであなたは自信を持ってください。自分が下した決断に、そしてこれから歩む後悔に」
「いつか忘れてしまった心。そんなもの、何年も生きていれば忘れてしまうのがあたりまえだと思っていた。けど、お前には会ってから解ったんだ。俺が本当に求めていたのは、俺が本当に欲しかったものは、きっと……」
きっと、そんな曖昧な言葉のあとに、少年はとある言葉を叫んだ。誰もいない山の頂上で、誰も悲しまないその月の下で、いつか誓い合った約束を、少年少女は思い出す。
「私もーー」
その運命に抗い、彼らのモノローグは始まった。
何度も間違え、間違えたまま大人になって、そして間違えたまま死んでしまう。それが世界である、はずなのに、それらをねじ曲げ、世界を根底から覆した。
ーーだから彼らの物語は、始まったばかりである。
クールでマイペースな少年は、陰で一人で泣いていた。 総督琉 @soutokuryu
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