指令-④

「ありがとうございます」


俺は笑みを浮かべる狩矢本部長に、礼の言葉を囁いた。

結局のところ、俺はこの人に身体だけでなく精神面でも救われたという事だ。

あの時の説得がなければ、今の俺は存在していない。


「さて、ここからが本題だ…… まずは状況報告から」


そう言って、本部長は笑みを潜めた。

俺を見つめる目に光が宿る。


「お前が遭遇したドローンだが、レフティの記録を元に国内外の製造元を洗ったが、今の所手掛かり無しだ。各国の調査機関からも有力な情報は入っておらず、密輸の監視網に抵触した案件も無い。つまり、国外からの輸入品である可能性は低いという事だ。私見だが、ここはやはり国内で製造されたとみるべきだろう」


朗々と語る声が、室内の空気を震わせる。


「機体性能や搭載兵器からみても、その技術力は生半可なものじゃない。それ相応の資金が動いている筈だ。その方面にも探りを入れているが、いまだ何の反応もない。全くもって、完璧な隠蔽工作と言わざるを得ない」


吐き捨てるように言うと、本部長は肩をすくめた。

国内最高峰の機動力を持つ特隊でも、手掛りを掴めずにいるのだ。

本部長の嘆きも頷ける。


「ちなみに奥相模湖でお前を襲った兵器だが、小型に改造された対地ミサイルとの事だ。ドローンに合わせて、かなりの軽量化が図られている。威力の程は、お前が一番よく知っていると思うが……」


そこまで言うと、狩矢本部長は手に持っていたファイルから二枚の写真を取り出した。

そこには、レフティの画像記録から転写した白と黒の二体のドローンが写っていた。


「森林の中にあった地下施設の方はどうですか?」


俺は、黒いドローンの写真を食い入るように眺めながら質問した。


「それなんだが……」


本部長はポツリと呟くと、再びファイルをごそごそと探し回る。

取り出したのは、三枚の写真だった。


「我々が駆け付けた時には、お前が地下施設を見つけた地点の五十メートル四方が、完全に破壊された状態となっていた」


俺は顔色を変えると、ひったくるように写真を受け取った。


三枚の写真とも、まるで巨大な隕石が衝突したかのように地面が大きく陥没している。

地表との落差は、数メートルはあろうか。

一緒に崩れ落ちた周囲の樹木も、粉々になって岩と泥土に混在してしまっている。

勿論、俺たちが見つけた監視装置も、原型を留めず埋まっているのだろう。

見事に証拠隠滅を計られた訳だ。


「このエリアは、現在立ち入り禁止にして検証を続けている。調査班の報告では、使用された爆発物はTNT五百キロ相当に匹敵するらしい。当然証拠隠滅が狙いだろうが……それにしても、思い切った事をするもんだ」


溜息まじりに言い放つ本部長。

眉間の皺が、さらに深くなる。


「飛び散った残骸から復元シミュレーションしたところ、地下施設の形状は約二十メートル四方の立方体だったと思われる。瓦礫に混じった円形チューブの破片は出入口付近のもので、他に進入路の痕跡は無いようだ。結局、小型の飛行物体の収納施設だったというのが調査班の結論だ。残念ながら、残骸の中に機体は無かったがな」


本部長の言葉に、俺は改めて写真を眺める。


やはり思った通り、あの施設はドローンの収納庫だったようだ。

追跡していたドローンは、あの中に逃げ込んだのだ。


それにしても……


俺は、瞬きもせずじっと写真を睨みつけた。


いくら存在が露呈したとはいえ、間髪入れず全て破壊してしまうとは……


その豪胆さには驚くばかりだ。


ドローンも無く、電気系統も遮断された後では、施設の残骸だけから相手を特定するのは不可能だろう。


まんまと逃げられたか……


俺は唇を噛み締め、初めて写真から目をらした。

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