サウスポー・ブレイカー

追跡-④

俺は一旦深呼吸し、気を引き締めた。

勝手に出入口を開けて侵入してくる者を、相手が黙って見過ごすとも思えない。

まだ敵と確定した訳ではないが、少なくとも電波を遮蔽し、正体を伏せているのは事実だ。

地下への進入路にも、阻止するための仕掛けが施（ほどこ）されていると見るべきだ。

敵の陣地に乗り込むというのに、何の武器も携帯していないのが悔やまれる。

本来なら、特隊本部でそれ相応の準備をしてから赴くべきところだ。

丸腰で甚（はなは）だ心許（こころもと）ないが、とにかく慎重に進むしかなかった。

「入口を開けてくれ。それと探査範囲を地下に集中させるんだ。少しの変化も見逃すな」

『分かりました』

レフティの返答と同時に、唸るような駆動音が大気を揺らし始めた。

足下に微かな振動が湧き起こる。

平地の中心付近に目をやると、二枚の半円形をした蓋らしきものが開こうとしていた。

上に乗った土石が落下しないところをみると、精巧なレプリカだったようだ。

ほどなく駆動音と振動が収まり、地表にぽっかりと穴が開いた。

俺は細心の注意を払いながら、その穴に近付いた。

いきなり何か飛び出してくるイメージが脳裏を過（よ）ぎるが、今のところその気配は無い。

円形の縁に辿り着いたので、慎重に中を覗き込んだ。

空洞の内壁に、赤く点滅する小灯が見える。

下方に向かって等間隔で並んだそれは、どうやら降下時に使用する誘導灯のようだ。

壁面は、鈍い銀色の金属らしきもので覆われている。

身を乗り出して覗くが、数メートルより下は暗くて見えなかった。

誘導灯の淡い瞬（またた）きだけが、どうにか認識出来る程度だ。

かなり深い……

「レフティ、空洞の底がどうなっているか確認できないか」

俺は何度も目を凝らしながら、問いかけた。

『先ほどから電磁パルスを放出しているのですが、反応がありません。内壁の金属版が電波類を遮断する仕様になっているようです。構成素材については解析不能です』

要は、さっぱり分からないという事だ。

正直、出入口さえ開けば何とかなると期待していたのだが、甘かったようだ。

勿論、特隊本部へはまだ報告していない。

すれば、必ず待ったがかかるからだ。

一旦撤収し、体勢を立て直す指示が来るのは目に見えてる。

だが、そんな余裕は無い。

俺はどうしても、この機を逃したくはなかった。

「降りてみるか……」

こうなれば、自分自身の目で確認するしかない。

規律違反も覚悟の上だ。

俺は、改めて空洞内を見回した。

梯子や手摺りはおろか、内壁には凹凸も無い。

車まで戻れば緊急用のロープは積載してあるが、かなりの時間ロスとなる。

だが、それしか方法は無さそうだ。

「仕方ない」

俺は悪態をつきながら立ち上がった。

とにかく、急いで引き返して……

『上空に飛行物体が接近中です』

走りかけた俺の耳に、レフティの声が響く。

『距離九十メートル。高度五十メートル。南東の方角から秒速二メートルの速さでこちらに向かっています。到達まで一分です』

飛行物体だと！？

俺は反射的に空を仰いだ。

追跡していたドローンが、再び姿を現したのか？

『先程のドローンではありません。形状が異なっています』

質問する前に、答えが返ってくる。

そして、音も無くそ（・）い（・）つ（・）は現れた。

黒光りする三角形状のそれは、人間が乗るには明らかに小さ過ぎた。

「別の奴（ドローン）か！」

俺は、思わず声を上げた。