追跡-①
千葉県相模原市に入ると、国道を離れ一般道を進んだ。
かれこれ二時間は走っている。
このまま行くと、奥相模湖の方に向かうことになる。
アウトドアや渓流釣りなどで人気の観光スポットだ。
２Ｄマップ上の赤点滅信号は、奥相模湖の北東で消息を絶っていた。
なぜシグナルが途絶えたのか、機体がその後どうなったのか知る
俺はそのまま、最後のシグナル発信地点を目指した。
それにしても、驚くべきはその航続距離だ。
追跡しながら調べたところでは、あの大きさのドローンなら飛行時間は三十分程度、観測用の高性能なものでもせいぜい一時間が限界の筈だ。
だが、こいつは優にその倍は飛んでいる。
一般的なドローンの動力はＤＣモーターを使用した電力だが、こいつの動力は一体何だ？
斬新なのは形態だけでなく、性能面でも特別仕様だと言う事か……
あれこれ熟考する俺の視界に、壮麗な景色が広がる。
［やまなみ五湖］の一つである奥相模湖は、人造湖としては国内最小だ。
県下一の清浄さを誇る道志川と、それを背景とした美しい景観には定評があった。
道志ダムのダム湖として造られた湖には、数多くのキャンプ場を始め、家族向けの里山体験センターや温泉場まである。
アウトドア好きには、絶好のスポットと言えるだろう。
俺は道志ダムの近くまで車を走らせ、そのまま路傍に停めて歩く事にした。
最後の発信地点はこの先だ。
ここからは、徒歩での登頂となる。
サングラスのマップを頼りに、俺は目標地点に向かって険しい山道を進んだ。
山積した枯れ葉を踏み締めていると、脳裏に小島での密林踏破訓練の記憶が蘇ってくる。
あの時も、こんな山道を進んだっけ……
勿論、難易度的には比べ物にならない。
だが、鼻をつく樹木の臭いや湿った空気などが、いやでも当時の状況を思い起こさせる。
あの時の、あの閃光……
仲間の命と俺の腕を奪った、灼熱の炎と衝撃……
後の調査で、それが上空から飛来した【ナパームミサイル】と呼ばれる特殊弾頭だと判明した。
命中すると辺り一帯を炎で包み、炎上ダメージを与える最新兵器である。
通常は対戦闘機用に使用し、命中と同時に機体温度を上昇させ熱暴走を引き起こす恐ろしい兵器だ。
防衛省管理下の軍需装備製造企業でも、まだ試作段階で実用化はされていない。
海外企業も同様の状況につき、いまだに犯人の目星はついていなかった。
ただ遠距離対応の兵器ではないため、航行中の戦闘機、もしくは何らかの飛行体から発射された可能性が高いらしい。
肉眼では確認出来なかったが、何かが訓練場の上空を飛んでいたという事だ。
あの時……
にやけ顔の軍人を
初対面の奴らだったが、貴重な人命であることに変わりはない。
それを姿も見せず、たった一発のミサイルで奪ってしまったのだ。
俺は奴らが許せなかった。
いつか必ず見つけ出し、罪を償わせてやる。
俺は固く心に誓い、このまま特隊での任務を続ける事にした。
ここは、あらゆる犯罪情報が一手に掌握できる唯一の国家機関だ。
ここにいれば、いつか必ず犯人を見つけ出せる筈だ。
その一念が、今の俺を支えていた。
顔を撫でる枝葉の感触で、俺は我に返る。
気付くと、すっかり足が止まっていた。
感傷に浸っている場合ではない。
今なすべきは、この事件の解決である。
俺は軽く頭を振り、気持ちを切り替えた。
サングラスのマップによると、目標地点はもう近い。
登って来た山道は途絶え、今は僅かな獣道をどうにか進んでいる。
時計に目をやると、すでに一時間以上経過していた。
さすがに、疲れが気になり出す。
眼前の大きな枝を押し上げると、突如開けた平地に出くわした。
面積は百平米ほどあろうか。
その一帯だけ草木が綺麗に刈り取られ、地肌が露出している。
一見すると、学校のグランドを小さくしたような景観だ。
マップで見る限り、発信器のシグナルが途絶えたのはこの場所に間違いない。
ぐるりと周囲を見渡したが、案の定どこにもドローンの姿は見当たらなかった。
正直、何か施設めいたものがあるのではと期待していたのだが、その
建造物はおろか、機体が隠れるような岩一つ存在していない。
「レフティ、周囲をスキャンしてくれ。ドローンの痕跡を探すんだ」
俺はそう指示すると、辺りに気を配りながら平地内へと歩を進めた。
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