第n話
無言が続いていた。互いに音に耳を傾け、深い青に沈んでいた。
さっきまで手の中にあったぬくもりもいつしか体温より冷たくなっていた。
近づくことはなかったが離れることもなかった。
まるでここが自分のテリトリーだと態度で示しているようだった。
(寒い。)
時間が経つにつれ日が隠れて、風は止んでいった。
風の強い晴れか無風の曇り、どちらが暖かいのだろうか。
答えは出ない。どちらも寒いから。
そんなくだらないQ&Aにヤジを飛ばすように空が雪を降らしてくる。
(そういえば天気予報見てなかったな。)
もうこれ以上寒い外に居たくないな。
そう思いふと彼女の様子をうかがうと彼女は小刻みに震えていた。
(このままここに居るのも我慢の限界だな。)
雪の降る海もなかなか乙だが今は一人じゃない。
「寒いから帰る、じゃあな。」
そう言って立ち上がると彼女は驚いたような表情をしてそのまま固まった。
(結局会話なんて一言もしなかったな。)
決して心残りがあるんじゃない。あの変な時間が新鮮で心に残っただけ。
(結局海にもオルゴールにも集中できなかったな。)
小石をコツコツと蹴っては歩き進んでいく。その行動に意味はないが、暇だったのでしょうがなかった。
小石を蹴っては進み、蹴っては進み、足を止めた。
(せっかくこんなに冷えてるんだから温泉でも行くか。)
今頃みんなは授業を受けているころだろうか。
さっきの彼女は学生なんだろうか。時間的にも恰好的にも学校には行ってなさそうだけど。
ぶつくさ考えながら歩くうちに、いつの間にか温泉に着いていた。
まあ俺がいくら考えてもしょうがないことだ、他の人に聞くしかないだろう。
(こんなに他人の事を考えるのも久しいな。)
光を遮るために軽く目を閉じる。
時間は瞬きの間に過ぎていく。
気が付くとのぼせて顔が熱く、指先はしわしわになっていた。
(うたた寝でもしていたか、危ないな。)
風呂から上がり、ふと時計を見ると二時間目がとっくに始まっていた。
(三時間目には余裕で行けるな。)
服を着ながらそう思った。
タオルを返して靴を履き、室内から出る。
さっきまで凍えていた空気は火照った体には涼しいぐらいだった。
(外歩くの気持ちいしちょっと歩くか。)
今は晴れていて降り積もっていた雪も歩きやすいように溶けていてくれた。
結局、駅に着く頃には凍えていた。
(この時間の電車は人が少なくていいな。)
止まり、過ぎる駅に人の気配はなかった。
(そういえばうちの担任は海辺に住んでたな、あとで聞いてみるか。)
まあ知っていようが知らまいがどうでもいいんだがと
まるで自分に言い聞かせるように心の中で何度もつぶやいていた。
向かっている途中だが、学校行くの面倒だなと少し億劫だと感じていた。
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Morning haze 紅椿 笠雲 @benitubaki
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