第6話:約束の時間


 「え!?」



 ひと月ぶりにやって来た冥界の女神の使いはアベノルの前で驚いていた。



 「どう言う事よ、管理者がこんな所にいるなんて! それにそのスライム、もう寿命のはずなのに!?」


 「ふん、女神の使い、よくもやってくれたわね。あんたが変なモノ作り上げてくれたおかげで迷宮の魔物たちのパワーバランスが崩れまくってワンランク下の魔物たちが大量発生する羽目になっちゃたじゃない!!」



 今日も可愛い管理者は今回猫さんの着ぐるみパジャマだ。

 尻尾が可愛い。



 「だ、だからって管理者が何で出てくるのよ!」


 「そのスライム、私と契約したの。既に雇用主は私よ? そしてその体にはこの迷宮のラスボス『魔人』が融合しているわ。だから寿命云々は存在しないの」


 「えっ!? このスライム裏切ったぁ!? なにそれ! 今月の魂一個分働かなきゃじゃない!!」


 ―― 何言ってやがる! その背に担いだ袋は何だよ!? ――


 『あー、大量でいやがりますね? 今月どころか来月分も足りるのでは?』


 女神の使いが背負う網袋には捕らえられている魂がうようようごめいていた。

 

 「何が魂一個分働かなきゃよ! あんたのお陰で被害拡大、人間たちもポコポコ死んでこっちは大変なんだからね!」


 「うっ、わ、分かったわよ、そのスライムの魂はあきらめるからそれでチャラで良いわよね?」


 「ふん、まあいいわ。とにかく魂回収はしてもいいけどこれ以上迷宮のパワーバランス狂わすような事したらただじゃおかないからね!!」



 ぷんすか怒っている様子も可愛い。

 対して使えない使いは嫌そうな顔している。



 ちなみにここで初めて使いの外観が分かったが年の頃十七歳前後の外観にピンク色の長い髪の毛にアホ毛がしっかりついている。

 顔立ちは美人と言って良いのだがなぜか秋葉原で着ているようなメイド服を着ている。

 ちょっと残念系なお人のようだ。



 「んん~、そうするとあんたはここの管理者に雇われているわけだから今後は管理者のもとで頑張りなさいね。んじゃ、あたしは行くからね! 復讐も頑張りなさいな。まあ、目的のパーティーに出合えるかどうかは分からないけどね~」


 そう言って使いはさっさとどこかへ行ってしまった。



 ―― ん? 復讐?? ‥‥‥あ゛あ゛っ!! 忘れてた!! そうだ、『黒き誓』共に復讐してやるんだった!! おいナビ! すぐに上の階に行ってくれ! ビザンカ以外は皆殺しだぁッ!! ――



 「あ、ちょい待ち! それよりも先に下級の魔物一割ほど捕食して減らして! じゃ無いと下級冒険者の人間たちがどんどん死んじゃうから!」



 びっと指さしされてアベノルはたじろぐ。


 

 ―― ええぇ~、先に復讐させてくれよぉ~。じゃ無いと気が収まらないよ!! ――


 「あんたねぇ、あたしの言う事聞けないの? 上司の命令は絶対よ! さあ、早くやって来なさい! あたしは今月発売された新刊読むので忙しいから! ちゃんとやっておくのよ!」



 そう言って管理者は最近買い物袋が有料化されたのでしっかりとマイバッグで買ってきた新刊(分厚いやつ)を嬉しそうに持って消えた。



 ―― ちっ、影の支配者様にはかなわないか。仕方ない、お仕事やってきますか、上層階で! ――


 『マスター、しっかり復讐するつもりでいやがりますね?』


 ―― あたぼうよっ! ちゃんと下級の魔物も減らすし奴等を見つけるにも上層の階なら遭遇しやすいから一石二鳥だろう? 俺ってさえてるぅ! ――


 『まあいいでいやがりますがね』



 そう言ってナビはアベノルを第一層へと転移させる。



 ―― おおっ! ここ見たことある! 見覚えあるぞ!! って、俺がミノタウロスに襲われたところじゃねーか!! ――


 『こんな所でマスターは殺られたんでいやがりましたね。おや? あれはでいやがります?』



 ナビはさっそく何かを見つけた様だ。

 アベノルもそれの方に行ってみる。



 ―― うわっ、魔物か何かにやられた冒険者か。こんな浅い層でやられるとは不憫な ――


 『マスター、早速魔物でいやがります。どうやら中層辺りに出るアシッドリザードの様でいやがりますね? あいつらは一匹見たら周辺に五、六十匹は居ると言われる集団行動型でいやがります。ここはおびき寄せて一気に始末する方が良いでいやがります、マスター人型に擬態してくださいでいやがります』


 ―― ええぇ~? 結局捕食されてからやり返すやり方かよ? せっかく魔人まで融合したのにもう少しかっこよくやっつけられないの? ――


 『おびき寄せるには何故か生前のマスターの人間の姿が一番有効的でいやがります』



 ナビに言われ渋々人の姿になるアベノル。

 その途端アシッドリザードの群れが襲ってきた!



 ―― のわぁっ! いきなりたくさん来たぁっ!! ――



 わさわさがぶがぶ!



 人型になったアベノルはさっそくおいしく頂かれたのであった。



 * * *



 ぺっ!

 

 から~ん。



 ―― ぐはっ! 結局骨まで美味しく食べられたか!! おいナビ、再生、捕食!! ――


 『了解でいやがります。再生! そして捕食っ!!』



 コアのアベノルはすぐにスライムボディーに再生されてまだたむろしているアシッドリザードたちに襲いかかる。


 食後の一服していた所を一気にスライムに襲われ哀れアシッドリザードたちはなす術もなく全滅してしまった。



 ―― ふう、終わったか。ん? これは?? ――



 捕食と一緒に先程の冒険者の遺体も吸収してしまったようだ。

 アベノルは捕食した遺体の解析をナビにさせてみる。



 ―― どんな奴がやられたかそいつに擬態してみるか、ナビ出来る? ――


 『可能でいやがります。解析するでいやがります‥‥‥ 男性数人と女性一人分の資料が手に入りましたでいやがります。どうしますかでいやがります、マスター?』


 ―― え? 女性?? な、なぁ、もしかして俺ってその女性にも擬態できるのか? ――


 『可能でいやがります。ただ、同じ人間同士でいやがりますと私の補助が無いと生前のマスターになってしまいますでいやがります。どうするでいやがりますか?』


 ―― え? じゃ、じゃぁその女性に擬態してもらえるかな? 一回異性になってみたかったんだよねぇ~。 あ、いや、変な意味じゃ無く、女体に興味があるとかそう言うのでもないんだよ? DTだったからって変な事はしないよ?? ――


 『‥‥‥わかりましたでいやがります、この変態。擬態を始めるでいやがります!』



 なんとなくナビがえんがちょしているような口調であったがアベノルはワクワクしながらその女性に擬態していく。


 すると‥‥‥



 ―― おおっ! なんか他人の体、しかも女性となると変な感じだな! 胸の辺りがやたらと重くなって付いているはずのものが無くなっているのでなんか股間がスース―する!! って、この女性って意外と若いのかな? おおっ! 金髪じゃないか!! ――



 完全にその女性に擬態したアベノルはぺたぺたと体を触ってみる。


 ぽよん。


 スライムの様なものが胸に二つ付いていた。

 いや、お尻もスライムみたいだ。



 ―― おおっ! 冒険者でもやっぱり女の子の体は柔らかいんだな!! すげぇ!! ――


 『これだからDTは‥‥‥ 自分の姿を【投影魔法】で確認するでいやがりますか?』


 ―― するするするぅ~! これで美人だったら言う事無し!! さあ、早く! ――



 裸の自分の体を見ても興奮度はいまいちである。

 なので鏡の様な【投影魔法】で自分が変わった姿を早く見たくなるアベノルだった。



 『では【投影魔法】発動でいやがります!」



 ナビが魔法を発動させるとアベノルの前に鏡の様な平たいものが発生してその姿を映し出す。



 ―― おおっ! 可愛いっ!! ‥‥‥って、あれ? これってビザンカ?? ――



 【投影魔法】で映し出されたその姿はアベノルが好意を寄せていた金髪碧眼のナイスバディ―のビザンカその人であった!



 ―― おい、って事はさっきの遺体たちって『黒き誓』なのか!? どう言う事だ!!!? ――


 『あー、どうやらレベルの低い冒険者パーティーだったので大量発生した魔物たちにやられたでいやがりますね?』


 ―― そ、そんなぁ!! 俺の復讐は!? ビザンカだけかっこよく助けて生きながらえさせてやるストーリーは!!!? ――


 『無いでいやがりますね。終わりでいやがります』


 ―― ええっ!! そんなぁっ!! ――




 「ちょと、あんた、まだこんな所で油売ってるの? まだまだ下級の魔物多いんだから早い所始末してよね? それと冒険者の遺体は全部捕食して奇麗にしておいてね! 放っておくとアンデットになって臭くてたまらにから! ささ、早くやりなさい!!」



 いきなり管理者が現れて仕事ぶりを確認される。



 ―― ちょっ、まってくれ! ――


 「うだうだ言ってないでやりなさい!」



 びしっと管理者に言われ体が勝手にお掃除モードで迷宮の死体や下級の魔物を捕食始める。

 どうやら魔人の部分が管理者の命令に従事している様だ。



 ―― ぶはっ! かびくさっ! うわっ! 芋虫の魔物!! きしょっ!! うわっ! 今度は腐った死体かよ!! うわぁっ! 止めてぇっ!! ――




 迷宮にアベノルの悲鳴がこだまするもスライムなので普通の人には聞こえない。


 こうしてアベノルは復讐する為に生まれ変わるも陰の実力者にこき使われ今日も迷宮のお掃除屋をするのであった。



 時にアルフガリド歴二千二十年九月下旬。

 死なない体になったアベノルはその後永遠にこの迷宮で過す事になるのだった。




 ―― END ――

  

**************************************


―― あとがき ――


え~と、ここまで読んで頂いた読者様に先ずは感謝いたします。

こんな物語読んで頂けるとはとても恐縮です。


さて、今回の物語はちょっと試行錯誤する為にお試し作品でした。


可能な限りお手軽に、可能な限り会話で進行で、可能な限り書き手が手抜きできないかという物です。


更にナビのキャラクター性は私の「エルハイミR-おっさんが異世界転生して美少女に!?-」のとあるキャラそのまま持ってきて使ってみると言う某お茶〇水博士的な事が成り立つかというテストでもあります。


既に「私はお兄ちゃんをそんな子に育てた覚えはないよ!?」の主人公、長澤由紀恵がどっかの百合ハーレム主人公と性格とが似ていると言うお試しをしていますがやはり背景の都合で全く同じには出来ないと思い今回のナビをやってみました。


違和感あんまり感じなかったなぁ~。

これはこれで有りかな?


そんなこんなで連投してみました。


もしよければご意見ご感想いただけますと嬉しいです。

そしてその辺を元に次なる物語を‥‥‥


また次の作品でお会いできることを切に願いながらもう一度。


読んで頂きありがとうございました!!



さいとう みさき

 

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ありふれた世界のダンジョンに出会いを求めて転生したら影の実力者になれなかったスライムの物語 さいとう みさき @saitoumisaki

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