第5話:取引
幼い容姿の管理者はその場で手を振るとテーブルと椅子が現れた。
「ま、座って。お茶は紅茶でいいわね?」
―― いや、なんでもいいけどスライムなんで飲めんの? ――
『捕食すれば飲んだも同然でいやがります』
―― うわっ、雑っ! ――
「それじゃあ紅茶でいいわね?」
管理者はそう言ってもう一度手を振ると今度はテーブルの上に紅茶とお茶菓子が現れる。
「んん~、いい香り。最近私のあたしのお気に入りはピーチ紅茶よ。これにたっぷりとお砂糖とミルクを入れるのが好き!」
うん、今日も可愛い。
いや違った、その笑顔は見ているモノを虜にするほど輝いていた。
―― うげっ! ミルクティーかよ? 何処のメンヘラだよ!? ――
『私はアップルティーの方が好きでいやがります』
カップとお皿ごと捕食するアベノル。
まあスライムだからそれしかないのだが。
「さてと、それじゃあ、お話なんだけど、あなた私の配下にならない?」
―― はぁ? いきなり何を? ――
「まあ聞いて、私は迷宮の管理者だけど正直この迷宮を細々とまでは見られないわ。今みたいに異変が起こってもすぐすぐには確認できない。そこであなたと魔人を融合すればこの迷宮を見て回れる代行人が出来るって訳よ!」
―― ん~、つまり魔人を捕食しないで済むから迷宮も無くならないで済むって事か? ――
『なっ!? マスターの理解が早い!? そんな馬鹿な!!』
―― そこっ! 何に驚いているんだよ!! でもなぁ、俺って命あとわずかだしなぁ~ ――
「そこは大丈夫、あの使いには私から話すわ。あの使えない使いのおかげで迷宮のパワーバランスが著しく崩れ、滅多にいなくならないはずの強いモンスターがいなくなっちゃったから格下モンスターが増えて増えて」
―― なんじゃそりゃ? ――
「食物連鎖の底辺が広がっちゃったのよ。こうなるとますますこの迷宮に入って来ちゃった人間たちの犠牲が増えるわ」
『つまり、魂取り放題と?』
「まあね、ノルマ云々はそっちで対処してもらって、こんな訳の分からないスライム作ってパワーバランス崩しまくってくれたツケは払わせるわ」
―― じゃ、じゃあ、もしかして俺死なずに済むの? マジ!? ――
「マジ。しかもうちは雇用条件好いわよ? 三食昼寝付き、更に有休もあるわよ! 各種保険もしっかりついていて今ならサキュバスの女の子もつけちゃうわよ!!」
―― えっ!? サ、サキュバスぅ///// ――
『スライムの体で何期待していやがりますか?』
「どう? 悪くない条件でしょ?」
―― やるやる! これで俺もとうとうDT卒業だぁ!! ――
『えらくやる気でいやがりますね‥‥‥ まあいいですでいやがりますが』
「それじゃあ、交渉成立って事でいいわね?」
―― おーけーおーけー、それでいいよ! ――
「じゃあ手を出して‥‥‥ って、スライムだからそのままでいいや。あ、私が可愛いからって変な妄想とかしちゃだめだからね? この体をスライムでねちょねちょのぐっちょんぐっちょんにするとか!」
―― せんわっ! 俺の好みはボンきゅっバーンだ!! ――
「なっ! 失礼な!! 私だってそのうちボンきゅっバーンになるわよ!」
『何を争っていやがるのだか‥‥‥』
そう言いながらも管理者はアベノルのスライムボディーに手をつく。
「来なさい魔人! そしてこの者と融合するのよ!!」
すると地面が光り魔人が出てくる。
その姿は「魔人」の名にふさわしくボディービルダーのように筋骨隆々で赤黒い肌に翼や角、牙に尻尾まで備えている。
『お呼びですか、管理者よ?』
「お前、暇よね? 今からこのスライムと融合するから今後はその本性隠して迷宮の監査なさい。好いわね!」
『なっ! この私めがスライム如きと!? しかも迷宮を徘徊して監査とは!! それはあまりにもご無体な!!』
「うっさい! 先月のこの請求書何よ!! あんた暇だからってサキュバス城遊びに行きまくったでしょう! このドスケベ! エッチっ! 変態!!」
『い、いや、それは下部の選定を‥‥‥』
「うっさい! 汚らわしい! 女の敵! とにかくお前はこいつと融合よ! やっちゃえスライム!!」
―― なんか最後の方がかわいらし言い方だったけど、まあいいか、おいナビ! ――
『仕方ないなでいやがりますね、では捕食!』
『ぐわぁっ! せめてサキュバスのシリアちゃんと最後にぃっ!!』
もがくもスライムに捕食され始める魔人。
すると管理者はここでまた手を振る。
「そろそろいいわね? 融合!」
すると溶けかかっていた魔人とスライムが光り出す。
―― おおっ! これで俺は!! ――
ぽんっ!
そこに現れたのはもとのスライム。
―― ええっ!? スライムなの? 魔人みたいなのじゃないの!? ――
「むさい男は嫌! まだスライムの方が可愛い!」
『そうでいやがります、マスター! スライムは最高でいやがります!!』
―― そ、そんなぁ~、サキュバスはどうなるんだよぉ!! ――
嘆くアベノル。
時にアルフガリド歴二千二十年九月、何とかエロい展開に持って行こうとしても上手く行かない物語であった。
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