第4話:最強が故に



 ―― このぉ! 人間舐めるなよっ! 死ぬの前提だったらしがみつく事くらいできるわ!! ――




 ぐちゃっ!




 哀れ人型のアベノルは必死に張りついたミスリルゴーレムの脛の上で痛そうな拳骨に押しつぶされスプラッタになる。

 視覚的にきついのですぐにモザイクがかかる。


 ミスリルゴーレムはそれを面白くもなさそうに引きはがそうとしたその時だった。



 『スライムボディー再生、捕食開始するでいやがります!!』



 ナビの声がしてコアから再生したスライムが一気に広がりミスリルゴーレムを包む。


 そしてあろうことかミスリルゴーレムの体を溶かし始め吸収する。




 ―― よしっ! 捕ったぁっ!! ――



 哀れミスリルゴーレムはこのトンデモスライムに捕食されてしまった。



 『捕食完了でいやがります。マスター、これでミスリルゴーレムの全能力は使えるでいやがります』


 ―― よぉしぃ、それじゃ最後の魔人もちゃっちゃと捕食しちゃおうぜ!! ――


 意気揚々とするアベノル。

 しかしそんなアベノルに対してナビは一気に警戒心をあげる。



 『マスター! 注意しやがれでいます!!』



 ―― へっ? ――





 「全く、おかしいおかしいと思って来てみたらあいつの仕業か‥‥‥」




 暗がりの影からそれは出てきた。


 年の頃十二、三歳くらいの透き通るような真っ白な髪の毛の美少女が寝間着の着ぐるみ姿で現れた。


 着ぐるみはどうやらパンダのようだ。

 この世界にパンダがいるかどうかは定かではないが。




 『管理者‥‥‥で、いやがりますね‥‥‥』



 ―― え? 管理者? あんなちっちゃなのが? ――


 「ち、ちっちゃい言うなぁ! これでもちゃんと成長してるんだからぁ!! ばかっ! スケベぇ! えっちぃっ!!」


 その管理者と呼ばれた女の子は慌てて両手で胸を隠し罵詈雑言を飛ばす。



 ―― いや、俺は幼い子供っていう意味で言ったんだが? ――


 「へっ? そ、そうなの??」


 それを聞いて更に真っ赤になる管理者。




 『それで、出てくるはずの無い管理者が何用でいやがりますか?』



 ナビが詰問する。



 「んんっ、どうも最近迷宮の魔力バランスが悪くなっていて保有魔力の多いはずの大物が姿消すっていう異常を感じたのよ。それで来てみればさっきの。あなた、ただのスライムじゃないわね!?」


 咳ばらいをして話し始めた管理者は「びしっ!」と指さすも見ていれば分かる事である。



 『で、何の用でいやがりますか?』


 平常運転のナビはもう一度聞く。



 「いや、女神の使いが関わっているならあんまり口出ししたくないんだけど、もしかして最後の魔人も捕食しちゃう気なの?」



 ―― だってそいつ捕食しないと上の階に行けないらしいじゃん。俺もう少しで死んじゃうし、後少しで全モンスターキャラゲットだし、せめてあいつらには仕返ししたいし ――



 「ねえ、魔人を倒したり吸収したりしたらこの迷宮が消えちゃうって知っていた?」


 管理者の女の子に言われ思わず無言になるアベノル。





 ―― ‥‥‥おい、ナビ ――



 『ふむ、それは知らなかったでいやがりますね? そう言えばこの迷宮でラスボス倒された事は無かったでいやがりますからね?』


 ―― 知らなかったで済まねーだろ!! どうすんだよ俺のオールコンプリート! そしてあいつらに復讐は!! 今からちまちま上の階に歩いて戻っていたら二週間以上かかっちまって俺の寿命切れちゃうじゃないか!! ――


 『それは仕方ないでいやがります。大人しく諦めるでいやがります、マスター』


 ―― 冗談じゃねーぞ!! ここまで来て何も出来ていないじゃないか! ああ、こんな事ならそこそこのモンスターであいつらに仕返ししておけばよかった‥‥‥ ――





 「ふううぅん、あんたもうすぐ死んじゃうんだ‥‥‥ そうだ、ねぇ、私と取引しない?」




 管理者は誰もが鼻の下を伸ばしてしまいそうな可愛らしい笑顔でアベノルに話しかけるのであった。




 時にアルフガリド歴二千二十年九月に入りそろそろ台風が気になる季節だった。

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