LAO廃人名鑑② バルバロッサ

キャラクターネーム:バルバロッサ

種族:巨人族ジャイアント

性別:男性

所属ギルド:『赤髭海賊団』→『OceanRoad』

メインクラス:重砲王キャノンロード

サブクラス:海賊王、重火器職人 等

EXクラス:暴君タイラント


戦闘スタイル:重火器による大火力・広範囲殲滅特化

主な生活スキル:操船、機工、水泳 等


ステータス評価:筋力SS 耐久S 敏捷D 技巧B 魔力E


所有神器:

メギンギョルズ(アクセサリ)

魔弾の指輪リングオブタスラム(アクセサリ)


【解説】

 筋力と耐久、そして装備可能重量に特化した巨人族の特性をフルに使って生み出された、普通のキャラクターでは到底不可能な超重火器を大量に持った、馬鹿みたいな火力の化け物。

 本来は、射撃に必要な技巧のステータスが最低値の巨人族で銃使いになる事自体が暴挙であった筈なのだが、彼は逆に巨人族の長所に目を付け、他の誰にも成し得ない重火器フル装備という構築を成立させた。

 ガトリングキャノンの二挺持ちとか、こいつかアーマードコアくらいしかやらない。肩にグレネードキャノンも付いてるぞ!

 他のプレイヤーからは『人型のガチタン』『歩く武器庫』『Wガトリング卿』等と呼ばれ恐れられている。



【バルバロッサの物語】


 現実世界の彼は、アラフォーのおじさんである。流石にゲームで操っている巨人族ほどではないが、2メートル近い身長と鍛え抜かれた筋肉モリモリのガチムチボディを持つ筋肉男マッチョマンである。

 そんな彼は妻子持ちであり、仕事に精を出して家族を養い、子育てをする合間に趣味のオンラインゲームを楽しんでいた。

 だがそんな時に、彼の妻が懐妊した。久しぶりに生まれる子供であり、それも生まれてくるのは待望の女の子であった。ちなみにこれまで生まれた子供は全て男児であり、父親に似て必要以上に逞しく育った。


 そんな訳で出産の準備に入る妻や子供達の為に、彼はLAOを休止して、大黒柱として家族を支える事を選んだ。

 その最後に、まさか異世界で友人達と世界を護る為に戦う事になるとは思わなかったが……それも良い思い出だ。

 世界を隔てる壁のせいか、異世界に残った彼らの事は、ぼんやりとしか思い出せなくなっている。やがてその残った記憶の残滓も、ますます薄れていくのだろう。少しだけ寂しくはあるが、それでも彼らと過ごした日々の事を、完全に忘れてしまう事は無いと確信していた。

 彼らは、彼らの大切な物の為に、あちらの世界に残った。そして自分は、これまで通り家族の為に、こちらの世界で生きていく。道は違えども、友情は消えて無くなりはしない。だから、それで良いのだ。


 そして数ヶ月後、彼と妻との間に第四子が生まれた。幸いにも父親には似なかったようで、目元が母親によく似た、将来美人に育つであろう可愛い女の子だ。


 だがその子は、普通の子供ではなかった。

 両親の腕に抱かれた瞬間に、その赤子の全身が黄金色に輝き、光を放ったのだ。


「おっと大変だ。娘があまりにも可愛すぎるせいか、輝いて見えるぜ」


「いえ待ってあなた。この子ったら物理的に光ってるわよ」


「マジかよ。金色に光るとか流石俺達の娘だな。浪漫って奴をよく分かってやがる」


「きっと将来は大物になるわね!」


 娘が物理的に光っても、大した事ではないように暢気に笑う夫婦であった。




 そして、その日の夜。彼の自宅に、一人の人物が訪れた。


「やあ。事前の連絡も無しに、突然来訪してすまないね」


 彼が玄関を開けた先に立っていたのは、薄いピンク色の兎の着ぐるみであった。立派に直立した兎耳の生えた頭部の横には、『先』『輩』のホログラム文字が描かれた黒い球体が浮かんでいる。


「おいおい、兎先輩じゃねぇか! 一体どうしてこっちの世界に?」


 これには流石の彼も驚いたが、続いて兎先輩の口から出た言葉は、それを遥かに超えた驚きを彼にもたらした。


「君に大事な話があってね。……生まれたばかりの、君の娘についてだ」


 兎先輩は語る。事の発端は数日前。異世界の月面に存在する都市『ラヴィッツ』の最奥に位置する、兎先輩の住居にて。

 兎先輩はその日、アルティリアからの依頼で新型船舶に搭載する為の魔導内燃機関マナ・エンジンの改良研究を行なっていた。兎先輩は異世界では右に出る者がいない、トップレベルの魔導機工マジッククラフター……魔法と機械の技術を高いレベルで掛け合わせた、不思議なマシンを作る科学技術者である。

 そんな兎先輩の研究室の扉が開き、一人の兎耳メイドが慌てた様子で室内に入ってきた。


「兎先輩、お仕事中に失礼いたします! ですが大変な事が!」


「落ち着きたまえ。何が起きたのか、事実だけを簡潔に説明するのだ」


「は、はい……! 輝夜かぐや様が……転生しました! それも、異世界に……!」


「何ぃ!?」


 輝夜とは、ここ月面都市ラヴィッツの、表向きの統治者の一族の娘である。実質的な最高権力者は兎先輩だが、彼女が表に出る事は滅多にない為、表面上は別の者達が王族として振る舞っている。

 そして、その権力者一族の一員である輝夜という名の姫は、一言で言うと我が儘で奔放なお姫様だった。

 神の血を引き、老いて死ぬ事が無い彼女は、代わり映えのない月での日々に飽きており、度々脱走未遂を繰り返していた。そして千年ほど前には、禁じられていた転生の秘術を用いて地上の赤子へと転生して、それを連れ戻す為に月の民と地上の人間達の間で諍いが起きた。別の世界では『竹取物語』と呼ばれる話と同じような出来事が、こちらで起きていたのだ。


 そして、それからおよそ千年。すっかりほとぼりが冷め、また月面都市を襲ってきた魔神将勢力の襲撃を防いだ事で、張りつめていた気が緩んだ隙を見計らって、彼女は再びやらかした。しかも今度は追手がかからぬよう、世界を渡るという念の入れようだ。


「神々も別の世界に干渉する事は出来ず、こうなった以上は兎先輩のお力を借りるしかないという結論に至り……」


「話はわかった。いいだろう、私が彼女を探してこよう」


 そして兎先輩は異世界の月を旅立ち、地球へと降り立った。そして転生した輝夜姫の気配を探った兎先輩は、日本の某所へと足を進める。なお兎先輩の着ぐるみには地球の科学力を大きく超える技術による高性能ステルス機能が搭載されているので、高速機動する兎の着ぐるみが通行人に見つかって騒ぎになるという事はない。


「ここまで話せば、もう分かっただろう。輝夜姫、彼女の転生した先が……」


「俺の娘だと、そういうわけか。話は分かった。わざわざ伝えに来てくれた事も感謝する。だがあの子が何者であれ、俺の可愛い娘である事に変わりはねぇ。返せと言われても絶対に返す気は無ぇぞ」


 例え兎先輩が相手でも、連れていくつもりなら力づくで止める。例え刺し違えてでもだ。その意志と覚悟を感じ取った兎先輩は、引き下がる事にした。


「分かったよ、ここは退こう。君ほどの覚悟がある人にならば、彼女を任せられる。どうか、あの子をよろしく頼むよ。」


「言われるまでもねぇ。俺様が立派に育ててやるから、安心していいぜ」


「頼むよ。何かあったらすぐに連絡をくれたまえ」


 そう言い残して、兎先輩は異世界の月へと帰っていった。

 月では兎先輩が輝夜姫を連れ戻す事に失敗した事で、表向きの支配者達が反発し、先輩の求心力が低下した事で、後にちょっとした事件が起きるのだが、それはまた別のお話である。


 そして次の日、出産を終えたばかりの妻が入院している病院を訪れた彼は、妻が抱いていた赤子を受け取り、その逞しい腕で抱き上げた。

 そして娘の耳へと口を近付けると、彼女にしか聞こえないように小声で話しかける。


「兎先輩が来たが、何もせずに帰っていったぜ。俺らの為に泥を被ってくれたんだ。あまり心配かけるんじゃねぇぞ」


 ビクッ! と娘の身体が震える。父親の口からまさかの名前が出て、事情を知られていた事で、分かりやすく狼狽えている。


「ま、安心しな。仮に月の奴等が来ても、父ちゃんが追い払ってやらぁ」


 彼はそう言って、愛娘の頭を大きな掌で優しく撫でた。



【余談】

 それから十数年後、美しく成長した娘を連れ戻す為に、先走った異世界の月の人間が襲来する事件が発生したが、彼自身の激しい怒りと、異世界のとある神のサポートによってかつての愛用キャラであるバルバロッサの力を現実世界で発現させた。

 散々に蹴散らされ、息も絶え絶えに逃げ帰った月の者達は、うわ言のように


「ガトリング怖い」


 と、虚ろな目で何度も呟いているのが目撃された。



【余談2】

 結局その後、彼はLAOに復帰する事はなく、そのまま十年ほど後にLAOはサービス終了を迎えた。

 そして、更にそれから時間が経過し、彼が還暦を迎え、輝夜姫が転生した娘も成人を迎えた頃。

 その頃にはフルダイブ技術を使ったVRMMORPGが開発・運営されるようになっており、その技術を使ったLAOのリブート作品『ロストアルカディアオンラインⅡ』がサービス開始した。


 そのゲーム内で、『GPガトリングプリンセス-KAGUYA』と『GGガトリングゴッド-OKINA』という、絶世の美女とマッチョな老爺という二人組のガトリングガン使いが暴れ回る姿が見られたが、それもまた別のお話。

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