後日談8

 グランディーノ海上警備隊は、先の第二次魔神戦争にて魔神将ウェパル討伐艦隊の中核として、大いに活躍した。

 その功績と、新たに領主となったロイド=ランチェスター伯爵の、これからはより一層、海路の拡大に力を入れるべしという意向もあって、海上警備隊の予算や部隊規模は大きく増加した。

 また、ケッヘル辺境伯がグランディーノの西に新たに作った港街――ゆくゆくは、グランディーノにも劣らない規模の港に成長する見込みだ――にも新たに支部を作り、グランディーノのみならず、ローランド王国周辺の海域全てを守護する一大組織へと変貌していた。


 冬が終わり、季節は春になり……やがて、もうすぐ夏がやってくる頃。そんな急成長による組織の改編が活発化が、だんだん落ち着いてきた時期に、海上警備隊の副長、グレイグ=バーンスタインは、唐突にこう口にした。


「あっ、そうだ。わし、警備隊辞めるから」


「もう酔っ払ったんですか副長?」


 港近くにある、酒と料理が美味くて価格がリーズナブルな事で船乗り達から好評な、人気の大衆酒場『海猫亭』でグレイグとサシ飲みしていた海上警備隊の幹部、クロード=ミュラーは、突然の辞職宣言に対して無意識の内にツッコミを入れていた。


「いや、これマジな話な。だいぶしつこく引き止められはしたが、ようやく話が纏まった。引継ぎも大体済ませてある。今月いっぱいで退職するぞ」


「そんな……一体どうして……」


 そんな重大な話を、さも今思い出したかのように酒の席で溢すな。そう内心で呟きながらも、やはり入隊当時から、更にプライベートでは幼少期より世話になった恩人が辞めると聞いて、クロードの心は穏やかではいられなかった。


「まさか、巨大化する組織の管理や、それに伴う書類仕事が面倒臭くなったからと言う訳ではないですよね?」


「うむ……。それもあるが、勿論それだけではないぞ」


 あるのかよ。再び心の中でツッコミを入れながら、クロードは無言のままジョッキに入ったビールを飲んで、グレイグの話に耳を傾ける。


「理由の一つ目は、わしの役目が終わったからだ。……わしが若い頃は、まだ海上警備隊も小規模でな。船も、今使っている大型ガレオン船やフリゲート艦に比べると、オモチャみたいな性能の小型船でなあ。お前も話くらいは聞いた事があるだろう」


 現在、海上警備隊が使っている戦闘艦は、アルティリアが提供した技術によって造られたものだ。女神が降臨するより以前の彼らの乗船や装備は、海の強大な魔物や海賊に真っ向勝負をするには危険なものだった。

 ましてや、それより何十年も前の、まだ小規模な組織だった頃の装備となると、どの程度のものか。想像はできるが、クロードは自分がそれに乗って出撃する状況を想像したくはなかった。


 しかし目の前のグレイグという男は、そんな状況下においても多数の海賊を捕縛し、近海に現れる魔物を片っ端から討伐しまくり、生涯において一度も乗船を沈められる事なく勝ち続けた。

 それゆえの伝説であり、海上警備隊の双璧。財政難に陥っていた小さな海上警備隊を立て直した『政』と『財』の立役者たる総長に並び立つ、『武』の立役者だ。

 ちなみに海上警備隊の古参メンバーには、グレイグにブン殴られて捕まり、その後に散々なシゴキを受けて更生させられた元海賊が結構な割合で存在している。


「だが今は人数も大きく増えて、全体の練度も上がった。他国の海軍とも正面からやり合って勝てるくらいの立派な船を持てるようになった。海上警備隊は、文句なしに強くなった。わしが必死に頑張らなきゃいけない時代は、もう終わったのさ」


 ゆえにグレイグは、己の役目が終わったと語ったのだ。


「そしてもう一つの理由だが……わしにはガキの頃からの夢があってな。あの、どこまでも広がる大海原を自由に渡って、未だ知らぬ場所を見に行きたいっていう想いを捨てきれなんだ。この街で長い間、海上警備隊員として過ごして近海の平和と安全の為に尽くした事はわしの誇りではあるし、後悔なんぞ無いが……常に、心のどこかに燻っているものがあった」


 そう語りながら、グレイグは大型のジョッキに注がれたビールを勢いよく一息に飲み干して、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。


「そして、自分の役目が終わったと感じた時にだな。自分では少しくらいはおちんこ、いや落ち込んだりするかと思ったんだが、不思議な事に全くそういう気持ちが湧かなくてなぁ。代わりになんというか、こう……ふつふつとこみ上げてくるものがあったんだよ。アルティリア様に初めて出会った時や、あの御方が操る純白の巨船を目の当たりにした時のような、言い知れぬワクワク感が次から次へと湧き出してきてな、気付いたら次の日には辞表を書いて提出していたわ」


 その時の総長や将官達の様子を想像して、クロードは思わず同情した。それを顔に出さずに、彼は訊ねる。


「話は分かりました。非常に残念ですが、副長の意志と夢を尊重して見送りたいと思います。それで、副長はこれからどうするおつもりで?」


「そう言って貰えると助かる。今後は海洋探検家として、自由に海に出るつもりでいる。マナナン様の住む伝説の地、エリュシオン島や、その先にある別大陸に行ってみたい。それに不可能と言われているオウカ帝国への東周り航路も、現在の造船技術とわしの経験があれば、あるいは確立できるかもしれん。ふふふ、夢が膨らむわ」



 かくして、一人の老兵が去った。これから彼は、第二の人生を歩み始める。

 大黒柱を失った海上警備隊には、決して小さくない動揺が見られたが、元々グレイグは、自分が居なくなっても問題が無い体制が出来たのを確認して去ったのだ。ゆえに、すぐに落ち着きを取り戻した。クロード以下、グレイグに目をかけられていた行進の者達が、彼の居なくなった穴を埋めようと奮起したのも大きい。


「夢、か……。僕が本当にやりたい事は……」


 そしてその日以来、クロードは己の夢、人生の目標について、真剣に考えるようになった。



【キャラクターデータ】


 名前:グレイグ=バーンスタイン

 種族:人間

 性別:男性

 年齢:49

 所属勢力:グランディーノ海上警備隊

 メインクラス:海軍将校

 サブクラス:超重戦士、砲術王


 戦闘スタイル:近~遠距離アタッカー

 主な生活スキル:操船、水泳、釣り


 ステータス評価:筋力A 耐久B 敏捷D 技巧B 魔力E


 特徴:『海兵』『達人』『指揮官』『豪快』『直情的』


 好きなプレゼント:『酒』『武具』

 苦手なプレゼント:『吝嗇品』『書籍』



【概要】


 グレイグ=バーンスタインは、ロストアルカディアシリーズの登場人物である。初登場はロストアルカディアⅦ。

 プレイヤーが最初に訪れる街で、作品を通して主要拠点となる港町グランディーノに所属する、海上警備隊の副長。

 勢力の重要NPCかつナンバー2の為、序盤はそもそも会う事すら出来ない。会う為には一定以上の名声と、主に海上警備隊からの依頼をこなす事で稼げる警備隊の信頼度が必要。

 知り合いになれれば、それ以降は高難易度の依頼を斡旋や、操船技術の指南をしてくれるようになる。

 必然的に、造船および船を使っての海戦といった海洋コンテンツを進めれば関わる事になるが、逆にそちらに手を出さなければ殆ど登場しない為、プレイヤーのプレイスタイルによって印象が大きく変わるキャラクターの一人だろう。


 メインシナリオ終了後は、海上警備隊を脱退してフリーの探検家になる。パーティーメンバーに誘えるのはこの状態になってから。

 キャラクターとしての性能は、本編クリア後の追加メンバーだけあってかなり高い。ハルバードによる近~中距離戦闘では高い攻撃力と広い攻撃範囲で活躍し、遠距離では銃による攻撃や、指揮官としてパーティー全体を支援できる。

 また、特筆すべきは操船スキルの高さと、メインクラスの海軍将校Lv20による海戦の能力である。戦闘用の艦船を用意して僚艦船長に任命すると、面白いように敵を溶かしてくれる。

 本編クリア後の高難易度海戦ミッションには、是非連れていきたいメンバーの一人だ。

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