後日談7
ローランド王国は少し前に国王が代替わりして、現在は先代国王の第三王子である若き仁君、セシル王が国を治めている。
セシル王には二人の兄がおり、彼らはそれぞれ軍事と政務において右に出る者が居ない程の傑物だ。そんな三人の兄弟が力を合わせ、未だ戦後の混乱期にある王国を立て直そうとしている。
ところで、そんな新王とその兄弟についてだが、実は彼らの下にはもう一人、第四王子が存在する事を知っている者は、意外と少ない。
何しろその王子は放浪癖があり、王宮に居る時間よりも旅に出ている時間のほうが圧倒的に長い変わり者で、社交界からは完全に距離を置いている為、ほぼ存在を忘れ去られていた。
そんな第四王子ジュリアンは現在、馬車に乗車していた。はるか北方の地方都市、グランディーノで生産された最高級の馬車は、驚くほど揺れが少なく、ジュリアン王子は快適な馬車の旅を楽しんでいた。
「そう、この俺こそがみそっかすの第四王子~♪ 四男なのにジャギ様枠~♪ 三兄弟って言わないで~♪」
慣れた手つきでリュートをかき鳴らしながら、適当に思い浮かんだメロディーにトンチキな歌詞を乗せて唄う。美声の無駄遣いもいいところである。馬車を運転している御者も思わず、
「何言ってんだコイツ……」
と言いたそうな目で振り向くレベルだ。
「おっと、だんだん海の匂いが強くなってきたな。親父ぃ、もうすぐグランディーノに着きそうだぜ」
ジュリアン王子は馬車内の向かい側の席に座る、同行者に向かってそう声をかけた。彼の視線の先には、一人の初老の男が座っていた。
その男こそ、このローランド王国の先代国王である。先日退位した彼が隠居先として選んだのは、女神アルティリアのお膝元である、王国最北端の港町だった。
そう決めた時、中央政府の影響力が及ばないグランディーノでは、先王陛下が不自由しないか? という反対意見も出たが……
「よい。むしろ、それくらいで丁度いい。余……いや、わしは今後一切、国政に関わるつもりは無い。ならばむしろグランディーノのように王国の影響力が及ばない場所のほうが、気楽でよかろう。それにグランディーノはアルティリア様の庇護の下、とても豊かに繁栄しているそうではないか。生活に不自由する事はなかろう。それに何より、いつでもアルティリア様に会えるしのう」
という先王本人の鶴の一声で、彼の隠居先はグランディーノに決定した。
そして先王は、第四王子ジュリアンただ一人を伴って北へと旅立っていった。
やがて馬車はグランディーノへと到着し、先王は馬車を降りて、目の前に広がる光景に目を見開いた。
「こ、これは……本当にグランディーノなのか? 訪れるのはおよそ十年ぶりだが……なんという……。聞きしに勝る繁栄ぶりじゃな……」
先王が驚いたのは、王都をも上回るほど高度に発展した都市そのもの以上に、そこには清潔さや秩序がしっかりと存在し、そして道を行き交う人々の顔が皆明るく、希望に満ちている事であった。
「伝承に曰く、神々は地上を去り、理想郷は失われたと云うが……なんじゃ、あったではないか、こんな所に……」
その呟きに反応して、隣に立つジュリアン王子が口を開いた。
「けど、神様はまた俺達のところに来てくれた。なら失われた理想郷だって、再び生まれるだろうさ」
そんな風に、父と息子がしみじみとした会話をしていると……その空気をぶち壊しながら、一人の男が乱入してきた。
「おおっ! おめぇはジャン、吟遊詩人のジャンじゃねぇか! またグランディーノに来てくれたんだな!」
馬鹿でかい声でジュリアン王子に向かって声をかけてきたのは、大柄でむさくるしい見た目の、巨大な戦斧を背負った男の冒険者であった。彼はこのグランディーノの街を拠点とする冒険者で、名をバーツという。ジュリアン王子が数ヶ月前にグランディーノを訪れた時に知り合い、意気投合した男だ。
「おおっ、その声は我が友、バーツではないか! おうよ、実は兄貴が実家の跡を継いだんで、引退した親父と一緒に引っ越して来たんだわ」
「マジか、そいつぁめでてぇ! なら近い内に、引っ越し祝いと蕎麦持って遊びに行くからよ! あっ、そちらはジャンのお父様ですかい? おいらはバーツっていうケチな冒険者で、息子さんとは前にこの街に来た時に、ブッ潰れるまで一緒に飲み歩いた仲でさぁ。これからは同じ街に住む仲間同士って事で、一つよろしく頼んます」
目の前に居るのが前国王だとは全く気付いていない様子で、軽い調子で頭を下げるバーツであった。
一方、先王の方は息子のほうをジト目で見て、
「仮にも王子ともあろう者が飲み倒れか。一体何をやっとるんじゃお前は」
と、彼にのみ聞こえるように小声で叱るのだった。
「ま、まあまあ。いいじゃねぇか過ぎた事は。なっ? ほら、隠居先までついてきた健気で可愛い息子の顔に免じて、お説教は勘弁してくれよ」
「ぬかしおるわ。どうせお前は何処に住もうと、好き勝手にフラフラと何処かに行くじゃろうが」
「バレたか。ま、それでもこの街は色々と退屈しなさそうだし、友達も居るからな。しばらくは腰を落ち着けるさ」
王宮に自分の居場所は無い。無事にセシルが王位を継ぎ、王宮に燻っていた問題も解決した。いや、むしろ王宮ごと消し飛んだと言ったほうがいいか。
老いて弱っていた父親も役目を終えて、この街で第二の人生を始める事だし、憂いは何も無くなった。
「あ、そうだ親父。俺はこの街では吟遊詩人のジャンで通してるからさ、親父も先代国王って事は内緒にしとこうぜ? いちいち畏まられるのも肩が凝るだろ? つーわけで表向きは王都の商会のご隠居とか、そんな感じで一つよろしくゥ!」
後は、面白可笑しく人生を楽しむだけだ。
ジャンは晴れやかな気持ちで、愛用のリュートをかき鳴らすのだった。
【キャラクターデータ】
名前:ジャン(ジュリアン=ド=ローランディア)
種族:人間
性別:男性
年齢:23
所属勢力:ローランド王国
メインクラス:
サブクラス:弓使い、貴族、盗賊等
戦闘スタイル:演奏バフ&遠距離射撃
主な生活スキル:音楽、細工
ステータス評価:筋力D 耐久D 敏捷B 技巧A 魔力C
特徴:『王族』『遊び人』『放浪者』『軟派』『冷静』
好きなプレゼント:『花』『酒』
苦手なプレゼント:『武具』『高級品』
【概要】
ジュリアン=ド=ローランディアは、ロストアルカディアシリーズの登場人物である。初登場はロストアルカディアⅦ。
冒険の舞台となるローランド王国の第四王子だが、他の兄弟と違って普段は王宮には居らず、吟遊詩人のジャンとして各地を放浪している。
その為、条件を満たせば序盤から会う事が出来、仲を深めればパーティーを組んで一緒に冒険をする事ができる。
演奏による全体バフや、クロスボウの射撃による後方支援が得意。前衛多めな今作のユニークNPCの中ではどちらも貴重な能力で、拠点防衛などの大規模ミッションで特に輝く。欠点は火力・防御力共に低水準で、支援以外は苦手な事。
また、王族でありながら『カリスマ』『礼節』『政治』等の技能を一切所有しておらず、逆に『情報通』『コネクション:裏社会』等の、過去作のシーフ系キャラのような技能持ちという珍しいキャラクター。
性格は軟派で軽薄……のように見えて、実は冷静沈着で状況判断が上手く、またコミュ強で誰とでも仲良くなれる性質の為、よく出所が不明な情報を持ってきてくれている。
続編のロストアルカディアⅧ、Ⅸでも引き続き登場。ちなみに前者はオウカ帝国、後者はアクロニア帝国が主な舞台である。王弟の身分でありながら、平然と他国を我が物顔で徘徊するフットワークの軽さは相変わらずである。
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