後日談4

 グランディーノから遥か南西の方角に、ダルティという名の街がある。国家に所属せず、独自の行政機関や法、防衛力を所持する独立都市国家の一つであり、似たような幾つもの都市が集まって、大陸中央北部にて自由都市同盟なる勢力を築いている。ダルティは、その自由都市同盟に属する都市のひとつだ。


 ダルティの街の特徴としては、無法地帯と呼ぶに相応しいものだった。大通りを少し外れ、薄暗い路地裏に入ると、そこは浮浪者や破落戸ごろつきが数多くうろついている。都市の約1/3がスラム街と化している、犯罪者やその予備軍の温床。それが無法都市と悪名高い、ダルティという名の街……だった。


 しかし、そんな劣悪極まりない環境は、ここ数ヶ月で大きく改善しつつあった。その原動力となったのは、ここダルティの街で最大級の勢力を誇るミュロンド商会だ。

 かつては汚い手段も厭わずに成り上がり、急成長したマフィアのような団体だが、現在はアルティリアの影響で方針を大きく転換し、クリーンで真っ当な商売で稼いでいる。

 ミュロンド商会の現在の主な事業は、食料品の輸入・輸出と大規模な農業による食料生産だ。現状、他国でしか入手できない希少な食材をアルティリアが高く買ってくれる。そして女神が購入し、それを使って新たな料理とそのレシピを発表すれば、信者達がそれを買い求める。およそ半年前に商会の予算と私財の大半を投資して始めた大規模農園も軌道に乗りつつある。

 裏社会を牛耳っていた大商会がクリーンな方向に舵を切り、新たに大事業を始めた事で、手に職をつける事が出来、苦しい生活から脱け出す事が出来た者も多い。そのようにして、ダルティの街は徐々に無法地帯ではなくなっていった。


 ……とはいえ、そう簡単に暴力や犯罪、貧富の差といった問題が全て解決するわけもなく、また、そういった街の変化を歓迎しない犯罪組織も多く残っている等、まだまだ火種は燻っている状態だが。


 そんなダルティの街を、アレックスは一人で訪れていた。

 アレックスは、獣人族の少年である。ひとつ下の妹、ニーナと共に、約半年前に女神アルティリアの養子となって以来、彼女の庇護下ですくすくと成長している。

 そんなアレックスと、その妹のニーナが育ったのが、このダルティの街だ。

 生みの母親は、アレックスが1歳の時、ニーナが生まれて間もなく亡くなったらしい。父親は、その時には既に居なくなっていた。兄妹は、スラム街に住む老人に育てられた。

 物心ついてからは、主にスリ等の犯罪で食いつないでいた。幼い妹とふたりきりで、この無法地帯で生き延びるには、それしか方法がなかった。もしかしたらあったのかもしれないが、アレックスには思いつかなかった。

 そしてある時、盗みがバレて捕まって、妹共々奴隷になり、モグロフという名の悪徳商人に買われ、そして……ある日、アルティリアに出会い、彼女に救われた。


 この街は、アレックスにとっての故郷である。

 飢えと貧困と屈辱と汚点に塗れた、ろくでもない思い出ばかりがある場所だが、それでもアレックスにとって、ここは始まりの場所であった。


「……少し見ない間に、ずいぶん綺麗になったな」


 通りを見回して、アレックスがそう呟いた。

 綺麗に整備され、清掃が行き届いているグランディーノと比べれば雲泥の差で、まだまだ雑多で混沌としているものの、それでも昔に比べれば相当にましになった。道行く人々も、昔のように不潔な身なりで、濁った目をした者は随分と少なくなったように見える。


 王都での戦いが終わった後、アレックスはニーナと共に、飛竜に乗ってグランディーノに帰った。

 大人達は戦後処理で忙しそうにしているが、まだ子供の彼らに出来る事は少なく、復興は順調に進んでいることだし、家に帰って母親に再会させてやるべきだろうと周囲の者達が考えた事もあって、二人は先にグランディーノに帰還する事になった。


 グランディーノの神殿に戻った二人はアルティリアや、故郷の友人達に再会し、彼らの無事を確認した。そして久しぶりに親子水入らずの生活を満喫した。

 それから数週間後、海神騎士団の面々もグランディーノに帰還し、何故かロイドが領主に就任するといった驚きもあったが、平和な時間が戻ってきた。


 そんな折に、アレックスは一人でダルティの街を訪れていた。アレックスは表通りを一通り見て回った後に、路地裏へと足を踏み入れた。


「……こっちは、あんまり変わってないな」


 アレックスが訪れたのは、幼少期を過ごしたスラム街だった。物乞いやゴミ拾いをする者の姿を横目で見つつ、アレックスはとある場所を目指した。

 道中、幼い男の子がすれ違いざまに、アレックスのズボンのポケットにさりげなく手を伸ばそうとしてきたのを最低限の動きで回避する。舌打ちをして、子供は逃げていった。


「長老、よかった。まだ生きてたか」


 アレックスは、スラム街の長老と呼ばれる老人のもとを訪れた。母親が死んでから数年間、アレックスとニーナを育てた老爺だ。

 アレックスがこの街にいた頃、いつも彼がいた場所に、襤褸を纏った老人は変わらない様子で座っていた。


「おお、アレックスではないか。久しぶりじゃなぁ。見ない間に、随分と大きくなったのう」


「長老は変わらないな」


「かかか。そりゃワシはもうジジイじゃからな。変わりたくてもそう簡単にゃ変われりゃせんよ。して、アレックスや。おぬし、何の為にここに戻ってきた? その綺麗な身なりを見るに、良い人に引き取られたようじゃが……そんなおぬしが、今更こんな場所に何の用かね」


 その問いに答える為に、アレックスは己に問う。自分は何故、一人でここに来たのかと。

 その理由は幾つかある。厳しい戦いを乗り越え、一息ついたタイミングで自身のこれまでの歩みを振り返り、原点に立ち返って自分を見つめ直す為というのがまず一つ目。この街の環境が変わりつつあるという話を聞いて、実際にこの目で見てみたいと思ったのもある。それから、目の前の老人。彼が居なければ、幼いアレックスとニーナはとっくの昔に死んでいたに違いない。彼に恩を返せないまま別れた事を気にしていた為、会いたいと思ったというのも理由の一つだ。

 しかし、最大の目的は……


「おれたちの両親について、知ってる事を教えて貰いにきた」




【キャラクターデータ】


 名前:アレックス

 種族:獣人ビーストマン

 性別:男性

 年齢:10(LAⅦ)/14(LAⅧ)/18(LAⅨ)

 所属勢力:冒険者

 メインクラス:格闘家グラップラー

 サブクラス:盗賊シーフ探索者シーカー


 戦闘スタイル:近接スピード型

 主な生活スキル:料理、釣り、操船


 ステータス評価:

 筋力D 耐久D 敏捷A 技巧C 魔力E(LAⅦ)

 筋力B 耐久B 敏捷S 技巧A 魔力C(LAⅧ)

 筋力S 耐久A 敏捷S 技巧S 魔力B(LAⅨ)


 特徴:『寡黙』『純粋』『勇敢』『短気』『大器晩成』


 好きなプレゼント:『肉料理』『魚料理』『食材』

 嫌いなプレゼント:『酒』『野菜料理』『装飾品』


 所有神器:

 なし(LAⅦ)

 『大洋の心(アクセサリ)』、『黄龍手甲(拳)』(LAⅧ)


【概要】


 アレックスは、ロストアルカディアシリーズの登場人物である。初登場はロストアルカディアⅦ。

 女神アルティリアの養子であり、妹のニーナ共々、序盤から彼女の近くでその姿を見る事ができる。

 スピード特化の格闘キャラで、接近して高速で連続攻撃を叩き込む事が可能。また、回避能力も高い。しかし10歳の子供の為、AGI以外の能力は全体的に低め。

 ただし弱キャラかというとそうでもなく、実はアレックスには他のキャラクターには無い独自の仕様があり、一つは習得する必殺技。本来のレベルでは覚えない筈の技を早い段階で幾つも習得する為、レベル以上の強さを発揮する場面が多々ある。

 もう一つはこのゲームで彼のみが持つ特徴『大器晩成』により、レベルアップは遅い代わりにレベルが上がった時のステータスの伸びが通常より大きい。これにより、時間をかけて育てればかなり強くなれる。


 続編のロストアルカディアⅧでも主要メンバーの一人として登場。年齢が14歳になった事で、ステータスが飛躍的に伸びている。特に筋力や耐久の伸びが著しく、得意な接近戦に磨きがかかっている。


 ロストアルカディアⅨでは妹のニーナ共々、主人公を務める。年齢は18歳。

 未完の大器は遂に完成し、歴代登場人物の中でもトップクラスの性能を誇る。

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