後日談3
「本気ですか?」
思わずそう聞き返したロイドに、辺境伯は笑って頷いた。
「冗談でこのような事を言うとでも? 無論、本気だとも。ああ、君の言いたい事は分かるさ。グランディーノは元々、王国で最大級の港町という事もあり、交易によって儲かっており、更にはアルティリア様が降臨してから約半年で空前の発展を遂げて、我が領内でも特別に大きな収入源となっている。そのように経済面は勿論だが、軍事面でも強大な海の力を持つ、極めて重要な拠点だ。それを手放すのは、惜しくないと言えば嘘になる」
ケッヘル辺境伯の本拠はグランディーノの南西にある、北方の古都レンハイムだ。彼はそこを中心に周辺にある複数の都市を治めているが、各地から多くの人が集まり、交易が盛んなグランディーノから得られる税収は他の街より抜きん出ていた。
「しかし、グランディーノは私の手を離れつつある。それは君も実感しているんじゃないかな? こまめに顔を出してはいるが、基本的には代官に任せている私より、街の者達が頼りにしているのが誰か……君が知らない筈が無いだろう?」
当然、知っている。ロイド自身も崇拝する女神、アルティリア。今のグランディーノは、彼女を中心に回っている。
「ああ、誤解しないでくれよ。それに文句があるわけじゃない。アルティリア様とは仲良くやらせていただいているし、今後も良い関係を続けていきたいと思っている。要するに、私にとってグランディーノは重要な拠点ではあるが、グランディーノにとって私という領主の存在は、さほど重要ではないという事を言いたかったのだよ。少しばかり、寂しくはあるがね」
グランディーノは名目上は、ローランド王国に属するケッヘル辺境伯領ではあるが、事実としてかの街は、アルティリアを頂点とする独立宗教国家のようになりかけている。
アルティリアはそんな面倒な事はやらないだろうが、仮に本気でローランド王国から離反・独立しようとすれば、今の王国がそれを鎮圧するのは難しいだろう。絶対に無いだろうが、万が一にもアルティリアがノリノリでそれを実行し、矢面に立てば阻止できる可能性は、「難しい」から「絶対無理」に変わる。
「そういう訳で、だ。私にとってグランディーノは経済・軍事の両面で極めて重要な拠点でありながら、自身の影響力が及びにくく、扱いに困る場所でもある……という事は理解していただけたと思う。それに加えて、私自身も先の戦における功績や、改易された貴族の領地が空いた事によって領地の加増が決まっていてね。とはいえ、急に領地が大きく増えても、そこを管理する人間が居なくてはどうしようもない。そこで思い浮かんだのが、君だ」
国王の覚えがめでたく、ロイドと交流のある貴族として、辺境伯は内密に国王から、ランチェスター家の復興とロイドの当主就任について相談を受けていた。そして彼は、二つの問題を一気に解決する策を思いついたのだった。
莫大な収益を上げているとはいえ、いまいち管理しきれておらず自らの影響力が低いグランディーノを、丸ごとロイドに押し付けてしまえ……と。
確かにグランディーノからの税収が無くなるのは痛いが、そこは代わりに手に入る領地の開発に力を入れつつ、既存の領地での生産と交易で十分にカバーできる計算だ。
それに自分の領地でなくなるとはいえ、グランディーノ周辺には伝手はあり、新領主やその上司との関係も良好だ。何も問題は無い。加増される領地の中には、新たに港を作るのに相応しい好立地の土地もあるし、そこを起点にグランディーノや他の港と交易網を広げるのも良いだろう。辺境伯の脳内では、領地を発展させる為のアイディアが次々と浮かび上がっていた。
「という訳で、どうだろうか。君にとっても悪い話ではないと思うのだが」
最終的な決断はロイドに委ねる辺境伯であったが……
「やれやれ、そこまでお膳立てされちゃあ嫌とは言えないじゃないですか」
「ふふふ。アルティリア様もよくおっしゃっていただろう? 戦いとは、始まる前の準備で大半が決まるものだと」
「ですな。……ま、確かに私にとっても良い話ではある。それにアルティリア様から離れる必要が無いとあれば、文句などありませんとも。その話、お引き受けしましょう。……ところで勿論、人は出していただけるんでしょうね? 私は領主貴族としては、まるっきりの素人ですので、丸投げは困りますよ」
「当家も大概、人手不足ではあるのだがね。だが元々の代官や役人には引き続きグランディーノで仕事をしてもらうつもりなので、安心したまえ。後は政治や貴族の振舞い、仕来りについて学びたければクリストフ君を頼るといいし、勿論私にも気軽に相談してくれていい」
「それを聞いて安心しました。では、陛下に返事をして参ります」
こうしてロイドは、正式にランチェスター伯爵家を継承し、グランディーノの領主となる未来が確定したのだった。
ロイド=ランチェスター伯爵。
北方の港湾都市グランディーノを本拠地とする領主貴族にして、女神アルティリアに仕える聖騎士。
彼が治める地は名目上はローランド王国に属しながらも、王国の支配力が及ばない、半ば独立国家のような実態であり、彼の地に住まう民が忠誠を誓うのは、女神アルティリアとその一の騎士であった。
彼は生涯、女神とグランディーノの為に尽くし、領地をおおいに発展させ、領民に慕われた。
彼の波乱万丈の半生は、長く人々の間で語り継がれ、その物語は多くの者に愛された。
北の騎士王。
後世でそう呼ばれた男の物語は、まだ始まったばかりである。
【キャラクターデータ】
名前:ロイド=アストレア → ロイド=ランチェスター
種族:人間
性別:男性
年齢:26
所属勢力:海神騎士団(団長)
メインクラス:
サブクラス:
戦闘スタイル:近接コンボ型
主な生活スキル:鍛冶、操船、水泳
ステータス評価:筋力B 耐久B 敏捷B 技巧A 魔力D
特徴:『騎士』『海賊』『誠実』『熱血』『統率力』
好きなプレゼント:『武具』『酒』
苦手なプレゼント:『装飾品』『衣類』
所有神器:『海割り(刀)』
【概要】
ロイド=アストレアは、ロストアルカディアシリーズに登場するキャラクターである。
初登場はロストアルカディアⅦ。序盤から登場し、共闘する事になる。
蒼海の女神アルティリアに仕える騎士団「海神騎士団」の団長として、神殿騎士達を率いて最前線で戦う。
タイプとしては突出した部分は無いがバランスの良いステータスの前衛で、どんな状況でも一定の活躍が見込める。
Ⅶではメインキャラで唯一の刀使い&サブクラスに侍持ち。スピーディーで多彩な技を駆使してコンボを繋げ、一気に敵を殲滅する。また回避・カウンターに関する能力も高い。
弱点は少ないが、あえて挙げるならば盾を装備できない事によって防御面がやや脆弱で、魔法防御もやや低めな点か。またコンボ系キャラの宿命か、プレイヤー操作の際の操作難易度も高め。
だが彼の真価は指揮能力であり、いるだけで部下の騎士達が強化される為、大規模戦闘モードでは非常に頼りになる存在。元海賊のリーダーという事もあって操船能力も非常に高く、海戦でも活躍してくれる。
(※以下ネタバレ注意)
終盤で父・ジョシュア=ランチェスターとの決闘に勝利すると、彼の必殺技である『鬼鳴剣』『秘剣・百鬼哭』を習得し、アタッカーとしても申し分ない性能になる……が、百鬼哭はこの時点では未完成の為、発動時と使用後の隙が大きいので注意。
メインクエスト終了後は、父の跡を継いでランチェスター伯爵家を継承、グランディーノの領主となり、執務室と海神騎士団宿舎を行ったり来たりして忙しそうな姿を垣間見る事ができる。
数年後のオウカ帝国が舞台のロストアルカディアⅧでも引き続き登場し、父ジョシュアの師匠でもある、オウカ帝国の剣聖ゲンカイに師事する。これによって前述の弱点が消滅した真・百鬼哭がバランスブレイカーとして有名。
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