LAO廃人名鑑 ➀クロノ 後編

【余談2】

 LAOサービス開始から二周年のアニバーサリー・リアルイベントが開催された際、過去のトラウマもだいぶ癒えて外に出られるようになっていた乃亜はリアルイベントに参加したのだが、その会場にて特別仕様の超強力ボスに挑戦! というイベントが開催されていた。

 運営がイベント用のキャラクターを用意しているが、希望すれば自分の持ちキャラを使用する事も可能という事で、運営スタッフに自キャラを使う旨と、IDとキャラクターネームを伝え、クロノでログインした。

 そしてトップレベルのキャラスペックと装備、そして卓越した一級廃人のプレイングスキルをもってイベントボスを撃破し、賞品をゲットした乃亜だったが……

 実は、リアルイベントの光景は動画配信サイトで生中継されており、その事も事前に通知はされていたのだが、乃亜はそれを失念していた。

 以下が当時の動画配信サイトのコメントである。


『しかしボスバトル誰も倒せてねーな』

『ブレスの範囲と威力がやべーわ』

『誰もHP半分も削れてねーし、会場お通夜状態じゃん』

『これ調整ミスじゃね?』

『プレイヤーの顔映ってるから参加しにくいってのもあるかもな。特に自キャラの場合は顔割れるし、誰もやらんだろ』

『そもそも運営が用意したキャラ、どれも大抵のプレイヤーより強いしな』

『誰も参加しようとしなくなったじゃん……』

『いや待て、参加希望者きたぞ』


『!?』

『!!!????』

『美少女キター!!!』

『黒髪ロング巨乳美少女キター!』

『えっ何この娘めっちゃ可愛いんだけど』

『運営の仕込みか!?』

『エッチコンロ点火! エチチチチチチチ勃ッ!』

『声もいい』

『えっ自キャラ使うの?』

『マ?』

『運営になんか伝えてる』

『うわ本当だ。マジで自キャラ使うくさい』


『!?』

『ファッ!?』

『クロノさん!?』

『これマジで言ってる!?』

『ウッソだろお前ぇ!?』


『あっこれ本物のクロノさんだわ』

『あの超精度連続ジャスガは間違いなく本物』

『強すぎィ!!』

『うっっっっっま! 今の避けんの!?』

『可愛くてオパーイでかくてゲームも上手くてブリューナク持ってるとか神か?』


 そして余裕綽々で超強力だった筈のボスを倒して、討伐成功の賞品を受け取って嬉しそうな笑顔を浮かべていた乃亜だったが、運営チームの女性スタッフから、


「配信サイトの方のコメントも大盛り上がりですよ!」


 と伝えられたところ、表情が固まって絞り出すように一言。


「え゛っ!? これカメラ回ってるんですか!?」



『ちょっwwwww』

『気付いてなかったwwwww』

『放送事故じゃんw』

『おいカメラ止めろwww』


 後に言う『これカメラ回ってるんですか事件』である。

 これによってクロノのプレイヤー(黒髪ロング美少女、Gカップ)の姿は多くのLAOプレイヤーの知るところとなったのであった。


 その場で固まってしまった乃亜と、予想外の反応に困惑するスタッフであったが、そこに颯爽と登場する者がいた。二十代半ばほどの男性だ。


「すんませーん、次挑戦しまーす。あ、俺も自キャラ使うんで」


 その男が現れた事で、スタッフは気を取り直して対応に向かった。そしてその男性はスタッフに自分のIDとプレイヤーネームを伝え、PCの前に座る。


『おっ、また挑戦者が出たぞ』

『今度はなんか地味な兄ちゃんだな』

『地味って言ってやるなよw』

『服装は地味だけど割とイケメソじゃね?』

『普通かと』

『どっちかというと顔は良い方だけど、さっきの子見た後だとな……』

『それよりこの兄ちゃんも自キャラ使うっぽいぞ』

『マジか。まさかまた廃人か?』

『あるてま先生だったりしてな』

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ』


 そして、その男性が使うキャラクターがPCのモニターに、それと連動している会場の大型モニターに、そして動画配信サイトを見ている者達の前に表示された。


『!!!?????』

『アルティリアじゃねーか!!』

『ドスケベエルフキターーーーーーー!』

『海産ドスケベエルフ! 海産ドスケベエルフじゃないか!』

『OceanRoad二連発じゃねーか』

『こいつ……! 普通のサラリーマンっぽい兄ちゃんかと思ったら唐突にブッ込んで来やがった……!』


 そしてその男……本編主人公の前身、アルティリアのプレイヤーはカメラに向かってこう言った。


「はい、じゃあ今からこいつを嵌め殺していきますよっと。まず前準備として殺界・無拍子・ラピッドアーツ・ソニックムーブその他色々を使ってスピードアップしながらCTクールタイムを短縮していきます。代わりに防御がガタ落ちするけど、まあ当たらなければ問題ないって事で」


『おいなんかさらっと解説し始めたぞこいつ』

『一部の軽戦士フェンサーとか暗殺者アサシンみたいな事するじゃん』

『あ、あれはまさか……永パ神拳!?』

『知っているのかライディーン!?』


 そしてゲーム内のアルティリアが動き出す。流水歩法の無敵時間を使ってボスモンスターの攻撃を回避しながら、一瞬で懐に入ったアルティリアは、垂直に跳躍しながら三叉槍を力強く突き上げ、ボスモンスターを真上に向かって吹き飛ばした。


『!?』

『何だ!? いきなりボスが吹っ飛んだぞ!?』

『あれはもしや……HJ破天槍か!』

『知っているのかライディーン!?』

『うむ、間違いない……HJ破天槍とはその名の通り、『ハイジャンプ』と槍の対空技『破天槍』の組み合わせだ。ハイジャンプの直後、猶予およそ5フレーム以内に破天槍を入力する事で、地面を蹴った反動が破天槍にそのまま乗って、敵を一撃で空高く吹き飛ばす事が出来る隠しコンボ! ちなみに本来は格闘のライジングアッパー系列の技でやる物だ!』

『ちなみに発見者はあるてま先生な』

『ま た あ い つ か』


「はい、HJ破天槍で浮かせたところで、あらかじめ詠唱しておいた短距離転移ショートテレポートを使って上に回り込みます。そしてここで流星槍」


『さらっと超絶技巧を見せつけていくスタイル』

『短距離転移の転移先、なんであんなピンポイントに合わせられるん?』

『ドンピシャじゃん』

『で、流星槍に繋げてそこからどうする気だ』


 一瞬でボスモンスターの頭上へと転移したアルティリアが、今度は槍を真下に向けて急降下する。アルティリアは槍で攻撃しながら、そのままボスモンスターを追い越して、地面に向かって猛スピードで落ちていき……


「ここで着地の瞬間に合わせて、もっかいHJ。これで着地硬直をキャンセル出来るんで、今度はこのまま跳び上がってノーマル破天槍を当てて浮かせる」


 再びアルティリアは急上昇しながら、槍を上空のボスモンスターに突き立てる。


『?????』

『嘘だろ今の猶予何フレーム?』

『おかしなことやっとる』


「後はこのまま流星槍、ハイジャンプ、破天槍、流星槍、ハイジャンプ……と繰り返して、はい、パターン入ったんでここからは魔法も織り交ぜていくぞー」


『永パ完成したあああああ!』

『あるてま式きたああああああ!』

『えげつねえ……』

『うわ詠唱はっや!』


「オラッ! 流星! 破天! 流星! 破天! あるてま先生直伝の永パ神拳奥義・トランポリンで死ねっ!」


『草』

『こんな物騒なトランポリンがあるか』

『催眠! 催眠解除! みたいなノリで言うなwww』

『あるてま先生直伝=本人から直接食らって死んだ』

『嫌な事件だったな……』


 そこで、アルティリアのプレイヤーは遊び心に火を点けた。


「はい、じゃあ完全にパターン入って見てる人達は退屈だと思うんで、ここで皆様の 為にぃ~、ちょっとカメラの角度を調節させていただきますよっと」


 彼はゲーム内のカメラ角度を調節し……自身が操作するキャラクター、アルティリアの豊満すぎる胸部をアップにした。


『!?』

『乳が』

『おっぱいだ! ドスケベエルフのおっぱいだ!』

『ちょっwww』

『爆乳ドアップカメラすなwww』


「このトランポリンの最大の利点はですね。ほらここ、アルティリアのおっぱいにご注目下さい。この着地キャンセルHJの時とか、流星槍がヒットした時にばるんばるん揺れよるんです。どうです? 実に良い眺めでしょう」


『こいつwwww』

『どうです? じゃないんだわ』

『だがGJ』

『ちょっと待て、これセンシティブ判定食らったりしないか……?』

『!?』

『あーっいけませんお客様! エッチすぎます! あーっお客様! お客様ーっ!』

『これで放送BANされたら完全に放送事故だな……』

『既に放送事故では? ボブは訝しんだ』

『つーか何でこいつ、アルティリアの乳しか画面に映してない状態で平然とコンボ繋げてんだ……? 化け物か?』


 こうして、後に登場したプレイヤーが巻き起こした放送事故によって、クロノのやらかしは有耶無耶になったのだった。



【余談3】

 アルティリアのプレイヤーは、ゲーム内の友人が巨乳美少女だった事に内心めちゃくちゃ驚きながら、意図せず目立ってしまった彼女を助ける為にあえて悪目立ちするような行動を取った。

 この事が切欠で乃亜とはリアルでも時々遊んだり、大学受験の為に勉強を教えたりする機会ができた。

 あとついでにアニバーサリーイベントの放送をセンシティブBANにさせかけた事のペナルティとして、アカウント一週間停止の処分を科された。

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