第165話 勝利条件変更:制限時間内に魔神将ウェパルを倒せ
ただでさえ満身創痍な上に、今の俺は装備している『青き叡智の冠』の効果で物理防御力・物理耐性共に0。間違いなく致命傷だ。
タイミングも絶妙だ。大技をぶちかまして力を使い果たしたのを代償に、強大な敵に大ダメージを与える事が出来、一息ついたところに背後からズドン! である。
俺は首だけで振り返り、それを行なった犯人の顔を見る。
口元だけを露出した仮面を付け、シルクハットを被った燕尾服の魔族。
「やってくれたなこの野郎……」
「乾坤一擲、ここしかないというタイミングでの、一世一代の大・奇・襲・攻撃でございました。いかがでしょう? お気に召していただけましたかな?」
「敵ながら実に見事だったと褒めてやるよクソが。覚えてろよ、次は私がやってやる」
めちゃくちゃ痛いし命の危険を感じるが、まだ俺はギリギリ生きている。無詠唱で回復魔法をかけてHPを回復するが、瘴気の侵食に加えて心臓に刃がブッ刺さったままの状態なので、治りが遅い。
「残念ながら、貴女に次はありませんよ。これにてカーテンコールでございます」
地獄の道化師はそう言って、俺を掴んだまま浮かび上がり、そのままウェパルのいる方へと飛んでいく。
「ところでアルティリア様、貴女ともそれなりに長い付き合いになりましたが、ワタクシと初めて会った時の事は、覚えておりますかな?」
「何だいきなり……思い出話でもしようってのか……。あの時は確か、まだ無人島でサバイバル生活してたところに、いきなり襲ってきたんだったか……。それで、氷漬けにして海底に放り込んでやったんだったな。ざまあみろだ」
ついでにお前がけしかけてきたドラゴンは、今ではうちの娘のペット兼乗騎だ。重ねてざまあと言っておこう。
「随分と前の事だというのに、よく覚えていただき光栄でございますなァ。ではここで明かさせていただきましょう。実はワタクシ、あの時貴女様に氷漬けにされ、哀れにも海底に投棄された地獄の道化師でございます。感動の再会ですなァ」
「何……?」
てっきり別の複製体だと思っていたが、あの時の奴だと……? とっくに死んだと思っていたが、あの状態で生きていたというのか。
「脱出マジックはワタクシの得意技ですので。しかし氷の中から脱け出せたのは良かったものの、そこは深海。流石のワタクシもあまりに過酷な環境に死を覚悟いたしました。しかし、そこでワタクシを待っていたのは、死よりもなお恐ろしい出来事でございました……」
俺を掴む地獄の道化師の手に力が入る。防御力0の今の俺の身体は、それだけで骨が軋み、奴の鋭い鉤爪で肌が裂け、血が噴き出る。
「深く暗い海の底で、ワタクシが出会ったのは……そう、あのウェパル様でした。あの方の触手に捕まり、抵抗する間もなく捕食されそうになりながら、ワタクシは必死に生き延びようと足掻き続けました。本体や他の複製体との意識の共有が断たれ、何も見えず聞こえない状態で、じわじわと消化されていく絶望! その中で、ある一つの想いだけを頼りに生にしがみ付き……結果的に、ワタクシは生き延びる事が出来ました。まあ尤も……気付いた時には、こぉんな姿になってしまいましたがねェ!」
どろり……と、地獄の道化師の肌が溶け落ちる。奴の姿は、グズグズに腐敗した水死体のような、見るに堪えない
「ちなみに、その想いというのはですねェ……。いつかテメェも同じ目に遭わせてやるって事なんだよォーッ!」
そう叫び、地獄の道化師は俺の身体を、下に向かって放り投げようとする。そして、眼下には無数の触手を生やした、腐敗した巨大な肉塊が。
「お前、まさか……ッ!」
「そのまさかだッ! さあウェパル様、お食事の時間ですよォーッ!!」
放り投げられた俺の身体に、ウェパルが何本もの触手を伸ばす。
「くそっ、冗談じゃない……!」
俺は即座に、転移魔法で離脱を図るが……
「無駄だァ! 時既にチェックメイト!」
四方八方から高速で飛来したトランプの札が俺の身体に突き刺さり、魔法の発動を阻害し……そして、ウェパルの触手が俺の身体を捕らえた。感触はヌメヌメブヨブヨしていて非常に気色悪い上に、悪臭が酷い。
「しまった……!」
先端で食らい付いて、そのまま俺を飲み込もうとする触手に抗おうとするが、今の消耗しきった俺にとっては、あまりにも厳しい状況だ。
「アルティリア様を離せぇっ!」
眼下では、ルーシーが俺を助けようとウェパルの巨体を駆け上がり、それを妨害しようとする触手の群れを次々と斬り払っている。
「アルティリア様を助けるのだ! 皆の物、行くぞ!」
「アルティリア様、今しばらく耐えてください! すぐにお助けします!」
ウェパルから距離を取って、艦砲射撃による援護に徹していた船団も、俺を助ける為に全速力で突撃を敢行しようとしている。
俺は、そんな彼らに向かって声を振り絞った。
「無理だ、間に合わん! だからお前達……そのまま全力で、魔神将ウェパルを攻撃しろ! 私はそれまで耐える!」
正直、今にも死にそうな状態なので耐え切れる自信は無いが……この状況ではそうする以外に無い。
「この土壇場でふがいない姿を見せてすまない。だが……お前達なら出来ると信じている! 後は任せたぞ!」
そう言っている間にも、俺の身体は触手に取り込まれていく。既に下半身は飲み込まれており、上半身が徐々に沈んでいっている。胸のところでつっかえて止まったりしないだろうか。流石に無理か。
「アルティリア様! すぐにこいつを倒してお助けします! それまで頑張ってください!」
「うおおおお! さっさとくたばれ、クソ魔神将! アルティリア様を離しやがれ!」
信者達が全力で魔神将に攻撃を加えるのを見ながら、俺は最後にこちらを見下ろす地獄の道化師に向かって言い放つ。
「おい、地獄の道化師。ひとまずはお前の勝ちだ、おめでとうと言っておこう。だがな、お前に出来た事が私に出来ないと思うなよ。必ず戻ってきて、ぶちのめしてやるから震えて待ちやがれ」
そんな捨て台詞を残して、俺はウェパルの触手に全身を飲み込まれた。
さて、あいつらがウェパルを倒すのが先か、俺がくたばるのが先か……我慢比べといこうか。
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