第163話 変態海洋廃人、全員参戦!※

 王都、そしてグランディーノ北方の海域に魔神将が出現し、アルティリアや現地の民がその脅威に抗っている、丁度その頃。

 MMORPG『ロストアルカディアオンライン』、通称LAOでも、同時に複数の魔神将と、その配下の軍勢が襲撃をかけてくるという史上最大の期間限定イベントが開催されていた。

 今回のイベントは主戦場となる場所が複数に分かれている為、各プレイヤーはどの戦場に参戦するかを自由に選択する事が出来るのだが、非常に難易度が高いイベントの為、各自の自由にさせて戦力が偏ってしまった場合、一気に崩れて失敗になる恐れがあった。

 トッププレイヤー達、そして大型ギルドといった主戦力を、どのように各戦場に割り振るか……という非常に重要な事を話し合う為に、著名な一級廃人達および、大型ギルドの代表者が集められた。

 彼らが集められたのは、ルグニカ大陸最大の都市である、王都ルグニカの王宮にある一室だった。

 そして、そこに集められた者達の前で、一人の男が口を開いた。青い外套を身に付けた、長身でイケメンの人間族ヒューマンの魔法戦士、あるてまという名のプレイヤーだ。


「各ギルドとソロプレイヤーの担当はこの紙に書いておいた通りで頼む。異論や別の案がある場合は今、この場で申し出てくれ」


 あるてまが分担と、各戦場における陣形と作戦を書いたプリントを集まった者達に配布する。それを読んだ者達が口々に言う。


「異論ないよ」


「ああ、こっちも問題ない」


「うむ、従おう」


「よく分かんねーけど、あるてま先生が決めたんなら間違いねえべ」


「おっ、そうだな。んじゃ解散すっか」


「おう。さっさと帰って準備しようぜ」


 LAO日本サーバー名物、カップラーメン作ってる間に終わるグランドクエスト作戦会議は、今回も滞りなく始まってすぐに終わった。いつも通りに、あるてまが作戦立案および総指揮を執る流れだ。

 会議室からぞろぞろと出ていく参加者の一人が、ふと呟いた。


「あれ、そういえば今回はキング来てないのな」


 その呟きに、他のプレイヤー達が反応する。


「引退したんじゃなかったっけ? 前にギルド解散するって言ってたろ」


「いや、年度末にって言ってたしもう少し先じゃない?」


「だがまあ、居ないって事はオーシャンロード、不参加って事なんじゃね」


「マジか。クロノ居ないと壁役タンクがキツいんだよな……」


 そんな中で、一人だけ渡された紙に視線を向けて、怪訝な顔をする者がいた。それは、黒いスーツに身を包み、大型の対物狙撃銃アンチマテリアルライフルを背負った、筋肉質の中年男性であった。

 そのプレイヤーのキャラネームは、『スナイパーおじさん』。特定のギルドには所属せず、傭兵として雇われてギルド間戦争GVGに参加し、猛威を振るう凄腕のソロプレイヤーだ。

 彼に渡された紙には、ただ一言こう書いてあった。


「うみきんぐに同行し、アルティリアを助けろ」……と。


 会議室を後にしたスナイパーおじさんは、転移の巻物テレポートスクロールを使用して、エリュシオン島へと転移した。

 島の中央に降り立った彼は、その足で岬へと向かった。そこには、いつものように目当ての男が立っていた。


「よう、しばらくぶりだなマナナン」


 スナイパーおじさんは、あえて神としての名でうみきんぐを呼んだ。その声に振り返った小人族の男も、同じように返す。


「俺に何か用事か、バロール」


 うみきんぐがそう呼んだ通り、スナイパーおじさんの正体はマナナンと同じように、かつての魔神戦争後に地球にやってきた異世界の神、闇と魔眼の神バロールであった。地球にやって来たばかりのマナナンを保護し、ロストアルカディアシリーズを布教したのも彼だった。


「あるてま先生がこんな紙をよこして来やがったんだがよ。お前さん、向こうに戻るのかい?」


 そう言って紙を手渡すと、それを一瞥したうみきんぐは納得したように頷いた。


「ああ、そのつもりだ。相変わらず、あの男は何でもお見通しだな」


「それなんだがよ、あいつ本当に何者なんだ? この俺様の魔眼をもってしても、全く正体が掴めないんだが……。俺達の同類にしては、全くそれらしい気配すら感じられないしな……」


「ああ……それはそうだろう。あるてま本人はあくまで、ただの人間だからな」


「は????? いや、そりゃ無ぇだろ? ただの人間にしては神々おれたち以上に見え過ぎてるし知り過ぎてるじゃねえか。未来視や運命視の魔眼でも持ってるってんなら分からなくもねぇが、それなら魔眼の神である俺様が気付かない訳がねぇしな……」


「いや、奴はそういう特殊能力も一切持っていない。ただ単に……俺達が根源とか知識の泉とか、全知存在アカシックレコードとか呼んでるアレに自由に接続できるというだけの、普通の人間に過ぎない」


「待てや。は? そりゃ何の冗談だ? 人間があんなモンに接続したら、自我なんて一瞬で吹っ飛んで廃人化待ったなしだろ? 俺達のような神だって、そう簡単に触れて良いようなもんじゃ無ぇぞ? それを自由に? ノーリスクで接続して便利な百科事典や検索ツール代わりに使ってるって事か? どういう事だ? 普通の人間って何だ?」


「知らん。奴に関しては俺も意図的に考えない事にしているが、多分アイデアロールで1クリ出した後に、SANチェックで再度1でも出したんじゃないか? 知らんけど」


「人間こえー……」


「人間は凄いぞ。あいつら可能性の塊だからな。いつだって俺達の予想を超えて、世界を動かしてきたのは人間達だ。だからこそ神々おれたちは彼らを愛したのだろう」


「ああ、そうだ……そうだったな……」


 いやでも流石に全知存在に自在アクセス出来るのとかは無いわ……。こっわ、近寄らんとこ。

 魔神バロールは心の中で、そう呟いた。


「ところで、お前さんは……もう戻らねぇつもりなのかい?」


 一転して真面目な表情を浮かべて、スナイパーおじさんはそう訊ねた。


「さてな……。戻って来たいと思う気持ちは勿論あるのだが、相手はあの魔神将ウェパルだ。アルティリアの奴も、苦戦は免れないだろうし、俺とて生きて帰れる保証はない。それに本音を言えば、向こうの世界やアルティリアに対する未練が無いとは言いきれん。二度と戻って来れなくなる可能性もあるだろう」


 それが、うみきんぐがギルドの解散を選んだ本当の理由だった。


「ギルメン共は、連れて行かねぇのかい?」


「ああ。向こう側に連れて行くとなれば、本当に命を懸けた戦いになる。そんな戦いには付き合わせられんよ。それにあいつらにとって、この世界はあくまで、楽しく遊ぶ為のゲームの舞台。それを命懸けの危険な現実にしたいと思う、酔狂な者など居らんだろうよ」


 うみきんぐがそう呟いた、その時だった!


「居るさっ、ここにひとりなっ!」


 何者かがそう叫び、テーマソングを高らかに歌いながらゆっくりと姿を現した。

 その人物は、筋骨隆々のマッシヴボディを、肌にぴったりと張り付いた白と黒のストライプ模様のボディスーツに包み、そして頭部には同じく縞々の馬の覆面ホースマスクを被った、変態シマウマ男であった。


「ゼブラじゃねーか!」


「3回も言ったぞ! あのやずやでさえ2回なのに!」


 彼の名はゼブラ。宇宙海賊を自称する不審者にして、ギルドOceanRoadの古参メンバーである。

 更に彼に続いて、別のギルドメンバーも続々とその姿を現した。


「水臭ぇぞキング! ガチ異世界転移? 望むところだバカヤロウ!」


「丁度、強化改修が終わったばかりの船で魔神将に凸したいと思ってたところなんでね。俺も連れていって貰おうか」


「拙者、爆乳ドスケベエルフ大好き侍。義によって助太刀いたす」


 少し前に活動終了と解散を告げて以降、この島に集まる事も少なくなっていたギルドメンバーが、この場に全員集まっていた。

 そしてその中には当然、クロノとバルバロッサの姿もあった。


「当然、俺も行きますよ。壁役、必要でしょう?」


「サクッと行って、パパッと倒して帰って来りゃあいいじゃねえか。ついでにアルティリアの野郎も、メインマストにふん縛って連れて帰ろうぜぇ」


「お前達……全く、馬鹿野郎共が……」


 呆れた口調とは裏腹に笑顔を浮かべ、うみきんぐは宣言する。


「では、これより我々は異世界へと渡り、勝手に出て行った元サブマスターの手助けをする! これが我がギルドの、最後の船旅だ! ギルドOceanRoad、出航するぞ!」

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