第145話 蛮族王子登場!※
海神騎士団は手分けして城内の魔物の掃討と、城内に取り残された人の救助を行なっている。また、その中でも特に戦闘能力に秀でた幹部達は、敵のボスを討伐したり、王族などの重要人物の救援をしたりする為に動いていた。レオニダス=グランツとリン=カーマインの二名もそうだった。
レオニダスは、海神騎士団が
重装備と盾、
「この先がアンドリュー殿下の執務室だ。急ごう」
廊下で待ち構えていた魔物の群れを殲滅した後に、レオニダスが促した。彼の後ろをついていきながら、リンが疑問を口にする。
「ところでレオニダスさん、アンドリュー殿下ってあまり良い噂を聞かないですけど……。野心や野望に溢れてるとか、王子とは思えないくらい粗野な乱暴者だとか……。なんか会うのが怖いんですけど……」
「確かにアンドリュー殿下は粗暴な振る舞いが目立つゆえ、頭が悪いと侮られがちだが……実際は軍事学や古今の戦術に精通した、超一流の軍人だ。また剣術の達人で、その腕前はロイド団長やスカーレット殿と比べても見劣りしないだろう。そして、大部隊を指揮する能力に関しては本物の天才だ。指揮官としての能力は、間違いなくこの大陸でも五指に入るほどの傑物だぞ」
レオニダスが第一王子へのフォローを入れる。事実、彼が言う通りにアンドリュー第一王子は、戦士や軍人としては極めて有能な人物であった。
「なるほど。……ところで、人格のほうは?」
リンがそう訊ねると、レオニダスはそっと目を逸らした。リンはそこで全てを察して、それ以上の追及を避けた。
そこで彼らは第一王子の執務室の前まで辿り着いた。部屋の中からは戦闘の音がしており、二人は急いで中に入ろうとしたが、その時だった。
彼らのすぐ目の前で、扉を突き破って何者かが吹き飛んできた。それは、鎧を着た騎士であった。
彼が身に纏うのは、レオニダスにとってはよく見知った鎧だ。それは近衛騎士の制式装備であった。
レオニダスとリンはそれを見て、第一王子の護衛をしていた近衛騎士が、魔物にやられたものだと考えたのだが……
「ふん……雑魚共が! 貴様らごときが、この俺様に敵うとでも思ったか!」
そうダミ声で叫びながら、一人の男が執務室の中から姿を現した。
金属製の
「カス共が!」
その男……アンドリュー第一王子は、床に転がった近衛騎士の身体を容赦無く蹴り飛ばした。蹴られた近衛騎士が苦悶の声を上げながら床を転がる。
「王子、一体何を……!」
レオニダスが思わずそう声をかけると、アンドリュー王子が面倒臭そうに振り向いた。
「あん? 貴様は確かレオニダスだったか。近衛騎士を辞めた奴が何故ここにおるのかは知らんが……まあいい。こやつらは裏切り者だ。見てみるがいい」
アンドリュー王子が指差した執務室内を見れば、そこには気を失って倒れている、何人もの近衛騎士の姿があった。
「こ、これは……!」
「何を血迷ったのか、突然襲い掛かって来おったのでな。返り討ちにしてやったところだ。それで、貴様は何をしに来た? 見たところ、こやつらの仲間という訳でもなかろう」
王子の質問に、レオニダスは王宮が魔物の襲撃を受けている事と、その対処の為に自分達、海神騎士団が動いている事を伝えた。
「そうか。ではついて来い。テオドールの所に向かうぞ。奴を殺す」
「テオドール団長を!? 一体どういう事ですか?」
テオドールとは、近衛騎士団の団長を務める騎士の名であった。レオニダスの質問に対して、アンドリュー王子は「察しが悪い」と溜め息をひとつ吐いて、
「貴様も内通者が居る事くらいは気付いておるだろう」
と、断定口調で訊ねた。アンドリュー王子は、襲撃に際して敵の手際が良すぎる、これは明らかに城の構造や要人の居場所を全て把握している動きだと付け加えた。
レオニダスも、内通者の存在には気付いていた。しかし、それが誰かを特定するまでには至っていなかった。
「テオドール団長がそうであると、王子はお考えですか」
「トチ狂った近衛騎士が俺様を襲ってきた事から、奴が一番疑わしい。他の候補としてはベレスフォードの爺だが、奴はどうでもよい。俺様はテオドールのところに行くぞ。貴様らもついて来い」
アンドリュー王子はそう一方的に命令してレオニダスを、続けてリンを見て、そこで視線を止めた。
「な、何ですか」
じろじろと無遠慮に顔や体全体を見回す視線に対して、思わず身構えながらレオニダスの背中に隠れてしまうリンに向かって、アンドリュー王子は言った。
「イモ臭え田舎娘だが、顔はなかなか悪くない。だが体が貧相すぎて犯る気になれん。駄目だな」
「んなっ……!」
憤慨するリンに対して、完全に興味を失ったアンドリュー王子は彼女に背を向けて、面倒臭そうにケツをボリボリと手で掻きながら、レオニダスを伴って歩きだした。
「おいレオニダス、そういえば貴様が今仕えているという、アルなんとかって女神は大層な巨乳だと聞いたが、それは真か?」
「真でございますが」
「ほう。ところで美人か?」
「この世のものとは思えぬほどの美貌でございます」
「ケツはどうだ。乳ばかりに目が行って軽視する者もいるが、俺はそんな青二才とは違う。とても大事だぞ」
「とても大きく、それでいて良く引き締まっているかと存じします」
「大変結構。おかげでヤル気がムラムラと湧いてきたぞ」
ガッハッハと下品な笑い声を上げながら廊下の真ん中をのしのしと闊歩しながら、出てくる魔物を片っ端から左右の手に握った長剣で斬り捨てるアンドリュー王子の背中を見ながら、リンは小声でレオニダスに声をかけた。
「ちょっとレオニダスさん……! 何であんな最低な奴に、素直に従ってるんですか! 王子だからですか!? 権力者には尻尾を振るのが貴方のやり方なんですか!?」
八つ当たり気味に、リンがレオニダスを問い詰める。それに対してレオニダスは、至極あっさりとこう答えた。
「そういう訳ではない。俺もあの方の人格については正直、問題があると思っている。王子という身分についても、さほど気にしてはいない」
「じゃあ何で……」
「俺にとってはどうでもいい事だからだ。俺は無能な善人よりも、性格はゴミカスでも才能や実力のあるクズのほうが好きだ。あの方の戦士としての力量や、軍人としての才覚を認めているから従っているし、現在の俺がアルティリア様に仕えているのも、あの御方の強さに惚れたからだ。俺にとって最も大事なのは、それだという単純な話だ」
そう伝えてアンドリュー王子を追いかけるレオニダスの背中を眺めながら、リンは思った。
「ようやく正統派の騎士っぽい真面目そうな人が入ってきたと思ったら、こいつも結局癖の強い変人枠かいっ!」
こんなトップが変人ドスケベエルフ女神の騎士団にそんな普通でまともな人材が入ってくる訳がないだろうに。常識的に考えて。
そしてお前もその変人共の一員だ。そろそろ自覚しよう。
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